今回も論文を紹介していきたいと思います。脳卒中の方が歩行する時に杖の使用を促すことはありますが、効果としてはどうなのか、という点を見ていきたいと思います。
今回の論文
Nascimento LR, Ada L, Teixeira-Salmela LF. The provision of a cane provides greater benefit to community-dwelling people after stroke with a baseline walking speed between 0.4 and 0.8 metres/second: an experimental study. Physiotherapy. 2016 Dec;102(4):351-356.
研究の背景
脳卒中による運動機能の障害は、歩行困難を引き起こし、日常生活での自立を妨げます。杖は、安全な歩行をサポートするための一般的な補助具ですが、その効果に関する明確な臨床データは限られています。この研究は、慢性期の脳卒中患者における杖の使用が歩行能力に及ぼす具体的な影響を調べることを目的としています。
研究の方法
この研究の対象者は、脳卒中発症後6ヶ月以上経過した慢性期の脳卒中患者24人、平均年齢61歳、独歩可能で杖を日常的に使用していない方々が対象でした。除外基準として、認知機能障害(MMSE24/30点以下)、その他の神経学的または整形外科的障害のある方でした。
対象者を、遅歩行者(歩行速度が0.4m/s未満)、中間歩行者(0.4~0.8m/s)、速歩行者(0.8m/s以上)の3つのグループに分け、杖を使用する条件と使用しない条件で歩行能力(歩行速度、歩行ステップ長、ケイデンス)を測定しました。杖の高さと杖の使用方法については理学療法士が指導しました。
表1:対象者の特性(グループ別)
特性 | 遅歩者 (n = 6) | 中間歩行者 (n = 9) | 速歩者 (n =9) |
---|---|---|---|
年齢 (年) 平均 (SD) | 70(9) | 66(8) | 51(8) |
障害側 右側 (%) | 2(33) | 2(33) | 8(89) |
脳卒中発症からの年数 中央値 (IQR範囲) | 4(2to7) | 5(2to10) | 4(2to10) |
運動回復 (Fugl–Meyer LL 0~34) 平均 (SD) | 17(6) | 27(4) | 28(5) |
結果
表2:基準歩行能力別の歩行能力(杖あり・なし)
測定項目 | 遅歩行者(杖あり) | 遅歩行者(杖なし) | 中間歩行者(杖あり) | 中間歩行者(杖なし) | 速歩行者(杖あり) | 速歩行者(杖なし) |
---|---|---|---|---|---|---|
歩行速度 (m/s) | 0.22 (0.08) | 0.16 (0.07) | 0.82 (0.15) | 0.65 (0.14) | 0.90 (0.11) | 0.99 (0.13) |
歩行ステップ長 (m) | 0.21 (0.07) | 0.17 (0.05) | 0.46 (0.11) | 0.40 (0.10) | 0.58 (0.07) | 0.57 (0.07) |
ケイデンス (ステップ/分) | 60(6) | 58(14) | 106(25) | 100(21) | 92(9) | 106(10) |
- 中間歩行者では、杖を使用した場合の歩行速度とステップ長が有意に向上しました。
- 速歩行者では、杖を使用した場合の歩行速度とケイデンスが低下しました。
結論
この研究は、歩行時に杖を使用することが特定のグループ(中間程度の歩行速度0.4~0.8m/s)の脳卒中の方にとって有益であることを示しています。杖が歩行速度とステップ長を改善し、社会参加や日常生活の質を高めることに貢献する可能性があります。リハビリテーションの専門家は、一人一人に合った歩行補助具の選択と使用方法を指導する必要があります。脳卒中を発症した方々にとって、杖は単なる歩行補助具以上のものとなり、生活の質を向上させる重要なツールとなる可能性があります。
まとめ
今回の研究では、脳卒中の方の歩行速度によって、杖使用の影響が異なることが分かりました。中間歩行者には歩行速度とステップ長の改善がみられましたが、速歩行者には歩行速度とケイデンスの低下がみられ、杖の使用を考慮する必要があります。ただ、速歩行者に杖は使用しない方がよいと早計な考えでなく、今回の研究では測定されていませんが、持久性向上の可能性や下肢関節へ負担軽減などその他の影響を考慮し、一人ひとりの身体機能にあった選択をする必要があると考えられます。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました!!