脳卒中後には筋緊張異常という深刻な問題が出現することがあります。

この筋緊張異常の中で有名なのが、「痙縮」という現象です。

筋肉には、長さを検知する筋紡錘というセンサーがあり、そのセンサーが伸ばされると筋肉が伸びた!ことを検知し、伸張反射という現象を起こします。

痙縮には、この筋肉の持つ「伸びたら縮む(伸張反射)」が過剰に出てしまうという特徴があります。

痙縮の問題まとめ

この伸張反射が過剰に出てしまう原因は、現在様々な説がありますが、主には上位運動ニューロン(脳・脊髄)からの脱抑制や過剰な信号が問題であると考えられています。

もう少しわかりやすく説明すると、

痙縮は、脳や脊髄の病気により、「筋肉を収縮させる指令」と「筋肉を緩ませる指令」が体にバランスよく伝わらなくなってしまうことが原因


とされています。

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そして痙縮は生活において様々な影響を及ぼします。

一体どんな問題が起こりうるのでしょうか?

痙縮によって起こりうること

縮とは、筋肉が緊張しすぎて、手足が動かしにくかったり勝手に動いてしまう状態のことである15。以下は、痙縮によって起こりうることの例である。

  • 手足の動きが制限される
  • 手指が握ったままとなり開きにくい。
  • 肩が上がらない。
  • ひじが曲がる。
  • 足先が下がらない。
  • 痛みが生じる。
  • 疲れやすくなる。
  • 障害物に引っかかりやすくなる。

など

電気刺激療法と痙縮の概要

では痙縮に対して電気刺激療法ってどんな立ち位置なんでしょうか?

それがこちらの脳卒中に対する治療方針を決める際に用いられる「脳卒中ガイドライン2021」では

TENSというのが電気刺激療法になりますが、推奨度Aと行うことを推奨するアプローチ方法となっております。

しかし現時点では「下肢の痙縮に対しては有効」な可能性が高く、上肢に関しては他のリハビリの方が効果が高い可能性や、電気刺激では効果が得られにくい可能性があります。

下肢に関しては

慢性脳卒中生存者の神経または筋腹部に30分以上適用すると、下肢の痙縮を軽減するのに効果的であるという強力な証拠がある

Mahmood A, Veluswamy SK, Hombali A, Mullick A, N M, Solomon JM. Effect of Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation on Spasticity in Adults With Stroke: A Systematic Review and Meta-analysis. Arch Phys Med Rehabil. 2019 Apr;100(4):751-768.

など正しく、パラメーターや時間を守って使うことで一定の効果が認められるようです!

そして臨床の中ではこちらの電気刺激を使うことで、痙縮をはじめとする筋緊張異常が軽減することを経験します。

そもそもここでいう電気刺激とは、皮膚を通して筋肉に微弱な電流を流すことで、筋肉を収縮させたり、筋収縮を起こしやすくする効果を期待した方法です。
では、脳卒中後の筋緊張異常に対して、この方法がどう働くのかを簡単にご紹介します。

治療の効果

電気刺激は、筋肉の柔らかさを回復し、動きをスムーズにする効果があります。
多くの研究がこの治療法の効果を証明しており、患者さんの生活の質の向上に貢献しています。

電気刺激療法の報告はいくつかあり、

NMES を他の治療技術と組み合わせると、脳卒中患者の痙縮が軽減され、可動域が広がり、機能活動の改善につながります。

Stein, C., Fritsch, C. G., Robinson, C., Sbruzzi, G., Plentz, R. D. (2015). Effect of Electrical Stimulation in Spastic Muscles After Stroke: Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized
Controlled Trials. Stroke, 46(8), 2197-2205

NMESは他の介入と組み合わせることで、慢性脳卒中生存者の歩行速度、バランス、痙縮、ROMを含む下肢運動機能の改善に有益な効果をもたらす。

Hong, Z., Suie, M., Zhuang, Z., Liu, H., Zheng, X., Cai, C., Jin, D. (2018). Effectiveness of Neuromuscular Stimulation on Lower Limbs in Patients With Hemiplegia After Chronic Stroke: A Systematic
Review. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation, 99, 1011-1022

などの痙縮に対する改善効果が報告されています。

なぜ痙縮を改善する可能性があるのでしょうか?

まだ痙縮のメカニズムは全ては解明されていません。しかしある程度研究が進んでおり、いくつかの原因はわかってきています。

痙縮の生理病理学はまだ不明であるためが、皮質および脊髄の回路により、この感覚運動障害がある程度改善される可能性がある。

Garcia MAC, Vargas CD. Is somatosensory electrical stimulation effective in relieving spasticity? A systematic review. J Musculoskelet Neuronal Interact. 2019 Sep 1;19(3):317-325. 

先ほど痙縮は感覚運動障害が原因ではないか?ということも記述しましたが、おそらく電気刺激はこちらに関わってくる可能性があるかもしれません。

また、はっきりとはわかっていませんが考えられている理論として、

  • 痙縮起こしている筋肉の反対側(拮抗筋)に電気刺激による収縮が加えられると、(痙縮筋に対する脊髄抑制性介在ニューロンの興奮を介して)相互抑制が活性化され、緊張が低下します。これにより、機能が改善される可能性がある
  • 電気刺激による筋収縮の繰り返しにより筋肉疲労が生じ、痙縮が軽減される可能性がある。
  • 大脳皮質や脊髄の興奮性が調整され、随意運動が行いやすくなり痙縮の原因である感覚運動に影響を与得る

などが考えられているようです。

実際の治療プロセス

では、実際はどう行われるのでしょうか。

実際の場面を1つご紹介します。

IVES+(機能的電気刺激)を使った筋緊張異常へのアプローチ

IVESとは、経皮的電気刺激機器の一つですが、特徴として弱い指令が出せない方でも、その努力(筋活動電位)を機械が拾って電気を増幅させることによって、十分な関節運動を起こすことができるという代物です。

これを使いうまく使うことができない筋肉をサポートすることで、運動機能の向上などが見られることがあります。

もう一つの効果として、この電気刺激を行いながらストレッチをおこなう(FESストレッチ)を行うことで筋緊張異常の軽減を期待できます。

即時的に効果が得られることが多く、今から運動を行なっていきたいけど痙縮によってうまくいかない、といった場合に積極的に当店では用いることがあります。

まとめ

皆さん、今日の内容はいかがでしたか?電気刺激治療は、脳卒中後の筋緊張異常に対する有望な方法である可能性があります。

効果は使い方や時間、+α行う方法としての有効性が高いとされているため、電気だけ貼っておいて良くなる、ということは難しいと考えられます。

そのため、担当セラピストや医師に相談をし、自分に最も合ったリハビリを検討していただくきっかけに今回の記事がなればと思います。

この情報が、脳卒中患者さんやそのご家族の方々にとって、何かの参考になれば幸いです。