1. はじめに

脳卒中は、世界中で多くの人々に影響を与える重大な疾患であり、患者の生活の質に深刻な影響を与える可能性があります。脳卒中の後、患者はしばしば身体的、認知的、心理的な障害を経験し、リハビリテーションはこれらの障害を改善し、日常生活への復帰を支援するために極めて重要です。

リハビリの設計においては、脳の機能的な回復の理解が欠かせません。特に、機能解離(functional dissociation)とDiaschisisという2つの概念は、脳卒中後のリハビリにおける中心的な要素です。機能解離とは、脳内の異なるネットワークが独立して損傷され、それぞれの機能が個別に障害される現象を指します。一方、Diaschisisは、脳の損傷部位とは遠隔の場所でも機能低下が生じる現象で、損傷が脳全体に与える影響を理解するための鍵です。

この記事では、脳卒中後のリハビリにおけるこれらの概念の役割を探り、効果的なリハビリテーションにどのように役立てるかを考察します。


2. 機能解離と脳卒中

  • 機能解離のメカニズム
    脳卒中後、脳の異なる機能領域が独立して障害されることがあります。例えば、運動機能が損なわれても、認知機能は比較的無傷であるケースなどが挙げられます。この現象を機能解離と呼びます。特に、右半球の損傷では注意機能、左半球の損傷では言語機能が独立して損なわれることが確認されています (Baldassarre et al., 2016)。
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脳卒中後の具体的な機能解離の例

  • 運動機能: 脳卒中後、運動ネットワークが損なわれると、上肢や下肢の運動能力が独立して障害されることがあります。また、右半球の損傷では、左側の運動機能が特に影響を受けます (Baldassarre et al., 2016)。
  • 言語機能: 左半球の損傷によって、言語理解や語彙処理に問題が生じることがあります。この際、言語ネットワークとその周辺の接続が弱まることが機能解離に関連していると考えられています (Baldassarre et al., 2018)。
  • 注意機能: 注意力に関しては、警戒、定位、対立解決という3つの異なる機能が独立して損なわれることがあります。特に右半球の損傷では、これらの機能のいずれかが障害されることがよく見られます (Rinne et al., 2013)。
  • リハビリにおける機能解離の考慮点
    リハビリにおいては、患者が経験する機能解離に対して、個別に対応することが必要です。
  • 例えば、運動リハビリと認知リハビリを並行して行うことで、患者の全体的な機能回復を促進することができます。また、異なるネットワークに対して異なるリハビリ手法を取り入れることが、回復の鍵となります。

3. Diaschisisと脳卒中

  • Diaschisisの定義とメカニズム
    Diaschisisとは、脳の一部が損傷を受けた結果、離れた脳領域にも機能的な低下が生じる現象を指します。これは脳全体のネットワークが連携しているためであり、特に脳卒中後には、損傷された領域の影響が周囲の健全な領域にも波及することが確認されています (Seitz et al., 1999)。
  • 脳卒中後の遠隔部位への影響
    Diaschisisは、損傷を受けた脳部位に直接接続していない遠隔部位においても、血流の低下や機能の低下を引き起こすことがあります。これは、脳内の神経ネットワークが広範囲に影響を及ぼすためであり、しばしば運動機能や認知機能の低下として現れます (Bowler et al., 1995)。
  • Diaschisisの回復過程とリハビリの役割
    脳卒中後、Diaschisisによる機能低下は時間の経過とともに改善されることがあります。リハビリテーションにより、損傷部位とは異なる脳領域が代償的に機能を引き継ぎ、回復が促進されます。特に、リハビリが早期に行われた場合、遠隔部位の機能回復がより早く進む可能性があります (Carmichael et al., 2004)。

4. 機能解離とDiaschisisのリハビリへの影響

  • 機能解離とDiaschisisの違いと共通点
    機能解離は、脳内の異なるネットワークが独立して障害される現象です。これに対し、Diaschisisは損傷部位から離れた脳領域でも機能低下が生じることを指します。これら2つの現象は異なるメカニズムを持ちますが、どちらも脳全体のネットワークに影響を及ぼし、リハビリにおいて重要な役割を果たします。
  • リハビリプログラムの設計における考慮点
    リハビリでは、機能解離に基づく個別の機能回復アプローチが重要です。例えば、運動機能と認知機能のリハビリを並行して行うことが効果的です。また、Diaschisisに関しては、損傷された領域だけでなく、遠隔部位の機能回復も考慮したリハビリが求められます。これには、特定の神経ネットワークを強化する訓練が含まれます。
  • 最新の研究が示すリハビリの成功例
    最近の研究では、リハビリプログラムの早期介入が、脳卒中後の機能回復に重要であることが示されています。特に、高強度で反復的なタスクトレーニングや、神経可塑性を促進する訓練法(ロボットアシスト訓練や非侵襲的脳刺激など)が効果的であることが確認されています (Langhorne et al., 2009)。
  • リハビリの課題と未来の展望
    リハビリにおける課題として、個々の患者に応じたプログラムのカスタマイズが挙げられます。今後は、脳卒中後の機能解離とDiaschisisをより正確に評価するツールや、個別化されたリハビリ戦略がさらに発展していくことが期待されます。

まとめ

この記事では、脳卒中後のリハビリテーションにおける機能解離Diaschisisの重要性について詳しく説明しました。これらの現象は、脳の異なるネットワークや遠隔部位が脳卒中の影響を受ける仕組みを理解するための鍵となります。

機能解離は、異なる脳ネットワークが独立して損傷される現象であり、それぞれのネットワークに応じたリハビリが必要です。一方、Diaschisisは、脳損傷部位から離れた領域にも機能低下が及ぶ現象であり、リハビリテーションでは損傷部位だけでなく、全体的な脳ネットワークの回復が重要です。

リハビリの成功には、早期の介入や個別化されたプログラムが大きな役割を果たします。最新の研究が示すように、反復的で高強度なタスクトレーニングや、神経可塑性を促進する訓練法が効果的であることが確認されています。

今後、さらに精密な評価ツールやリハビリ戦略の開発が進むことで、脳卒中後の機能回復がより効果的に進むことが期待されます。

参考文献

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