椅子から立ち上がるとき、麻痺側の足へ体重を乗せにくい、途中で手すりを探す、何度も座り直す。このような困りごとでは、5回立ち上がりテストの時間だけを見ても、何を練習すべきかは決まりません。脳卒中後の立ち上がりは、下肢の出力、足関節や股関節の可動域、感覚、疼痛、体幹の前方移動、立位で止まるタイミング、恐怖や環境が重なって成立する動作です。

5回立ち上がりテストは、立ち上がりを5回繰り返す時間を記録する評価です。 ただし、時間が長いことを筋力低下、左右差、痙縮のどれか一つで説明しません。この記事では、測定の意味、観察する動き、原因を分ける評価、介入と自宅での安全確認までを整理します。本人・ご家族には「何を記録すればよいか」が、PT・OTには「時間から次の仮説へどう進むか」が分かる構成です。

結論!5回立ち上がりテストは速さの順位づけではなく、立ち上がりの問題を分解する入口です

5回立ち上がりテストは、一般に背もたれのある椅子から、上肢で押さずに座位と立位を5回繰り返し、開始から5回目の立位までの時間を測ります。椅子の高さ、靴、装具、手の使用、介助、開始姿勢が変われば、前後の時間はそのまま比較できません。同じ条件をそろえることが、時間を意味のあるアウトカムにする前提です。

脳卒中後には、5回を完了できるか、時間、手の支持の有無だけでなく、各回でどの場面が崩れるかを記録します。足が床に接地しているか、体幹が前へ移るか、殿部が離れる瞬間に膝が支えられるか、立位で止まれるかを見ます。同じ20秒でも、前方移動が足りない人と、離殿後の支持が難しい人では、優先する評価も課題も異なります。

脳卒中後の5回立ち上がりテストを足底接地、前方移動、離殿、立位安定に分ける図解

なぜ立ち上がりは難しく見えるのか|4つの局面をつなげて考えます

立ち上がりは、座っている状態から重心を足の上へ前方移動し、殿部を椅子から離し、股関節・膝関節・足関節を協調させて立位を安定させる連続動作です。脳卒中後は、麻痺だけでなく、身体の位置を感じ取る感覚、注意を向ける能力、痛み、恐怖、装具や椅子の条件がこの連続性に影響します。

局面観察すること崩れた時に考える候補
開始姿勢と足底接地両足が安定して接地しているか、麻痺側足部が遠過ぎないか足部位置、足底感覚、足関節可動域、椅子高、恐怖
前方移動骨盤が後ろへ逃げず、体幹を前へ運べるか股関節屈曲の使いにくさ、体幹制御、疼痛、注意の向き
離殿と伸展麻痺側膝が支えるか、非麻痺側だけで急いで押していないか下肢出力、荷重への不安、膝痛、可動域、運動のタイミング
立位安定と着座立った後に止まれるか、座る時に制御して戻れるか姿勢制御、足底感覚、疲労、方向転換への不安、環境

立ち上がれたことと、必要な関節や感覚を使って立ち上がれたことは同じではありません。 体幹を大きく前へ倒す、非麻痺側の手で椅子を強く押す、麻痺側の足を大きく前へ逃がす動きは、安全に立つための代償になる場合があります。代償は一律に止めるものではありませんが、麻痺側の支持や体幹制御が変わったこととは区別して記録します。

よくある勘違い|時間が遅いからといって、筋力だけを練習しません

「5回立ち上がりテストが遅いので、大腿四頭筋を鍛える」と直結させるのは早すぎます。慢性期脳卒中の少人数横断研究では、5回立ち上がりテストは高い検者内・検者間・再検査信頼性を示し、膝屈筋力との関連が報告されました。一方で、Berg Balance Scaleや動的姿勢制御の検査との有意な関連は示されませんでした。この研究から、時間は再現性よく測れても、時間だけでバランスや原因を代表させられないと読み取れます。

また、脳卒中後に目立つ左右差は、麻痺側への荷重不足を示す手がかりにはなりますが、原因の名前ではありません。痛みを避けているのか、足底からの情報を使いにくいのか、可動域が足りないのか、立つ直前に急いで非麻痺側へ押しているのかで、対応は変わります。左右を同じに見せることを目的にせず、本人が必要な生活動作を安全に行うために、どの要素を変えるかを考えます。

5回立ち上がりテストで荷重を避ける場合と支えられない場合を分ける図解

評価で分けるならこの順番|時間の前に安全、次に条件、最後に動きです

測定の前に、立ち上がりで転倒しそうになる、急なめまい・胸痛・息切れがある、意識が普段と違う、痛みが強い、血圧や体調が不安定といった場合は、実施を優先しません。急に麻痺、しびれ、言葉、視野の変化が出た場合も、運動で様子を見るのではなく医療機関へ相談が必要です。

安全を確認した後、椅子高、背もたれの有無、足部位置、靴・装具、手の使用、介助量、測定開始と終了のルールを記録します。標準化された条件に近づけることは重要ですが、脳卒中後の人では上肢支持や補助具を使うこと自体が生活上の安全策になる場合があります。標準条件でできないことを失敗とせず、どの条件なら安全にできるかを最初の所見にします。

次に、立ち上がりを動画または複数回の観察で局面に分けます。麻痺側足部を少し後ろへ置く、座面を一時的に高くする、支持物に軽く触れる、目標物を前に置くなどの条件変更を一つずつ行い、時間、介助、荷重、痛み、ふらつきがどう変わるかを比べます。これは治療効果を断定する試験ではなく、原因候補の順位を整理するための仮説検証です。

Activeの8ステップで使うなら|測定を次の課題へつなげます

Activeでは、5回立ち上がりテストを採点して終えません。まず「低い椅子から立つ時、麻痺側膝が崩れて手すりを使う」のように問題点を具体化します。次に、麻痺側下肢の出力、足部位置、膝痛、足底感覚、恐怖、椅子高を原因候補として挙げ、生活への影響と安全性から順位づけします。

  1. 問題点を見つけます。 時間、介助、手の支持、どの回で崩れるかを記録します。
  2. 原因を推測します。 出力、可動域、感覚、疼痛、姿勢制御、環境を候補にします。
  3. 順位づけをします。 転倒や痛みにつながる要素を先に扱います。
  4. 一時的に条件を変えます。 座面や足部位置、支持物を変え、仮説を確かめます。
  5. 必要な能力を分析します。 前方移動、麻痺側支持、伸展、立位安定を分けます。
  6. 課題を設定します。 本人の目標に近い椅子、方向、物品で練習を設計します。
  7. 適切な難易度で反復します。 速さだけを追わず、痛みと安全を保てる範囲で行います。
  8. アウトカムで再評価します。 同条件の時間に加え、介助量、動きの質、生活場面を比べます。
5回立ち上がりテストを問題点、原因推定、課題設定、再評価へつなげる臨床推論の図解

介入を設計するならこう考える|練習の前に変える条件を決めます

座面を高くすると手の支持が減り、麻痺側へ少し荷重できるなら、低い座面に無理に反復する前に、必要な前方移動量や関節運動、下肢の支持を分析します。足部位置を変えると離殿が滑らかになるなら、足関節背屈可動域、足底接地、開始姿勢が関わる可能性があります。支持物に軽く触れると動きが安定するなら、筋力だけでなく触覚情報や恐怖の影響も考えます。

立ち上がり練習そのものについては、脳卒中後のランダム化比較試験10件、計384人を統合した2025年の系統的レビュー・メタ解析で、通常リハビリと比べて立ち上がり課題を含む練習がバランス、機能的移動、立ち上がり時間の改善と関連しました。ただし、頻度は週3から5回、期間は4から12週など研究間で幅があり、介入内容も課題練習、抵抗運動、バランス練習を含んでいました。この結果は、全員に同じ回数を勧める根拠ではなく、目的動作に近い練習を安全な条件で設計する重要性を示すものです。

よく行う課題設計は、座面高や足部位置を調整した立ち上がり、立った後に数秒止まる練習、着座をゆっくり制御する練習、トイレや食卓など生活で使う椅子に近い条件での反復です。麻痺側の支持が不足する場合でも、膝だけを意識させ続けるのではなく、足底接地、骨盤の位置、体幹の前方移動、視線、痛みの有無を一つずつ扱います。課題の成功は、代償をなくすことではなく、本人の生活に必要な安全性と再現性を高められるかで判断します。

自宅と生活場面ではこうします|一人で難しくしないことが最優先です

自宅で5回立ち上がりテストを繰り返して記録することは、転倒の危険がある人には勧められません。キャスターやひじ掛けの不安定な椅子、滑りやすい床、散らかった足元、疲労が強い時間帯では、測定より安全確認を優先します。担当者から具体的な許可と方法を受けている場合も、椅子の種類、靴、手すりや見守りの有無を毎回記録します。

脳卒中後の立ち上がりを自宅で安全に観察するための椅子固定、足元整理、見守り、相談の図解

ご家族は、無理に回数を増やすことより、どの椅子で、どの時間帯に、どんな時に手を使うか、ふらつきや痛みがあるかを短く残すことが役立ちます。急な症状の変化、転倒、強い痛み、胸部症状、息切れ、失神、いつもと異なるめまいがある場合は、練習を続けず医療者へ相談してください。安全に見守れる条件がない時は、評価のために一人で立ち上がりを繰り返さないでください。

変化を見るアウトカム|時間と生活の両方を追います

再評価では、同一条件の5回立ち上がり時間に加えて、上肢支持の有無、介助量、麻痺側への荷重、立位で止まれるか、着座の制御、痛み、疲労を残します。歩行が目標なら、立ち上がりから最初の一歩まで、10m歩行テスト、Timed Up and Goの開始・方向転換・着座も組み合わせます。生活では、トイレや食卓の椅子から安全に立てるか、介助量が変わったかを確認します。

5回立ち上がりテストには高い信頼性が示されていますが、信頼性は「同じ条件で測った値を比べやすい」ことを意味します。機能の原因を自動で診断する検査ではありません。時間が短くなっても、手の支持、痛み、ふらつき、非麻痺側への依存が増えていないかを必ず確認します。 逆に時間がすぐに変わらなくても、介助量や恐怖が減り、生活の椅子から安定して立てるようになることは重要な変化です。

文献からどこまで言えるか|測定の確かさと介入の効果を分けて読みます

Silvaらの系統的レビューでは、神経疾患を対象とした5回立ち上がりテストは、脳卒中を含む集団で再検査信頼性ICC 0.94から0.99、検者内・検者間信頼性ICC 0.97から0.99と報告されています。ただし、妥当性の関連は中等度と整理されており、単独の尺度で動作全体や生活機能を決めることはできません。Mongらの研究も、時間と膝屈筋力の関連を示す一方、バランス尺度との関連は示しませんでした。

したがって、研究から確かに言えるのは、5回立ち上がりテストは条件をそろえれば繰り返し使いやすい評価であり、立ち上がり練習は複数の機能的アウトカムを高める可能性が示されていることです。一方で、個人の時間の目標値、必要な介助、最適な反復量を、このテスト一つから決めることはできません。研究の平均的な結果と、その人の動作で起きていることを分けて、評価と再評価を続けます。

Activeで見落としやすい分岐|速く立てても、生活で安全とは限りません

Activeでよく確認するのは、「テストでは何とか立てるが、夜間のトイレや低いソファでは不安定」という分岐です。標準的な椅子からの5回だけでは、低い座面、狭い足元、方向転換、疲労、注意が分かれる生活場面を十分に表せません。また、非麻痺側の手で強く押して時間だけが短くなっている場合もあります。

そのため、目標を「5回の時間を縮める」と固定せず、「食卓の椅子から手すりを探さずに立つ」「トイレで衣服操作の前後にふらつかない」のように生活の課題として置きます。問題点を見つけ、原因を推測し、順位づけし、条件を一時的に変えて確かめ、必要な能力を分け、課題を反復し、同じ場面で再評価する。この流れが、時間を臨床判断へつなげます。

最後にもう一度|5回立ち上がりテストは、時間の奥にある問題を見つける評価です

5回立ち上がりテストは、脳卒中後の立ち上がりを定期的に追うための有用なアウトカムです。ただし、時間だけで筋力、バランス、麻痺の程度、転倒リスクを決めません。椅子と足の条件をそろえ、足底接地、前方移動、離殿、立位安定のどこが変わったかを観察し、生活の椅子で安全に使えるかまで確かめます。

測定の目的は、点数を並べることではなく、次に変える条件と練習課題を決めることです。 痛み、急な症状、強いふらつき、転倒への不安がある場合は、一人で反復せず、担当の医療者へ相談してください。

次に読むべき記事

参考文献

  1. Mong Y, Teo TW, Ng SS. 5-repetition sit-to-stand test in subjects with chronic stroke: reliability and validity. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 2010;91:407-413. PMID: 20298832. DOI: 10.1016/j.apmr.2009.10.030.
  2. Silva PFS, Quintino LF, Franco J, Faria CDCM. Measurement properties and feasibility of clinical tests to assess sit-to-stand/stand-to-sit tasks in subjects with neurological disease: a systematic review. Brazilian Journal of Physical Therapy. 2014;18:99-110. PMID: 24839043. DOI: 10.1590/s1413-35552012005000155.
  3. Lomaglio MJ, Eng JJ. Muscle strength and weight-bearing symmetry relate to sit-to-stand performance in individuals with stroke. Gait & Posture. 2005;22:126-131. DOI: 10.1016/j.gaitpost.2004.08.002.
  4. Muñoz-Bermejo L, Adsuar JC, Mendoza-Muñoz M, et al. Test-Retest Reliability of Five Times Sit to Stand Test in Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis. Biology. 2021;10:510. PMID: 34207604. DOI: 10.3390/biology10060510.
  5. Josop NA, Mohd Nordin NA, Ahmad MA. Evaluating the effectiveness of different prescriptions of sit-to-stand training in post-stroke rehabilitation: A systematic review and meta-analysis. Medicine. 2025;104:e45625. PMID: 41204573. DOI: 10.1097/MD.0000000000045625.