今回も論文を紹介していきたいと思います。昔からよく言われている筋力トレーニングが歩行速度改善に効果があるとされており、高齢者の歩行トレーニングと筋力トレーニングを比較した論文を探してみたので紹介したいと思います。

今回の論文

Henderson RM, Leng XI, Chmelo EA, Brinkley TE, Lyles MF, Marsh AP, Nicklas BJ. Gait speed response to aerobic versus resistance exercise training in older adults. Aging Clin Exp Res. 2017 Oct;29(5):969-976.

研究の背景

高齢者における歩行速度の改善は、身体機能の維持と健康寿命に重要とされています。本研究は、肥満または肥満傾向のある高齢者を対象に、有酸素運動(AT)と抵抗運動(RT)のどちらが歩行速度やその他の身体機能により良い効果をもたらすかを比較しました。

研究の方法

対象者は65~79歳の肥満または肥満傾向のある男女でした。5ヶ月間の有酸素運動(AT)(週4回の中強度トレッドミルウォーキング)または抵抗運動(RT)(週3回の中強度抵抗トレーニング)を実施を行いました。測定項目は、通常歩行速度、速歩行速度、Short Physical Performance Battery(SPPB)、椅子立ち上がり時間(立ち座り5回の時間)でした。

表1: 対象者の基本的な特徴

特徴有酸素運動群 (AT)抵抗運動群 (RT)
年齢 (年)69.1 ± 3.769.4 ± 3.6
性別 (女性 %)75%54%
体重 (kg)95.3 ± 13.787.3 ± 13.1
BMI (kg/m^2)34.5 ± 3.130.7 ± 2.4
合併症 (高血圧 %)59%46%
合併症 (糖尿病 %)19%14%
合併症 (睡眠時無呼吸症候群 %)31%32%
合併症 (関節炎 %)75%64%

結果

表2: 有酸素運動群と抵抗運動群の変化量

測定項目有酸素運動(AT)群抵抗運動(RT)群
通常歩行速度 (m/s)0.080.08
速歩行速度 (m/s)0.110.00
SPPB スコア (0–12)0.530.53
椅子立ち上がり時間 (秒)−1.2−1.7

表3: トレーニング後の有酸素運動群と抵抗運動群の値

測定項目有酸素運動(AT)群抵抗運動(RT)群ATとRTの差異 (p値)
通常歩行速度 (m/s)1.18 ± 0.031.17 ± 0.020.01 (0.84)
速歩行速度 (m/s)1.42 ± 0.031.29 ± 0.020.14 (<0.001)
SPPB スコア (0–12)11.2 ± 0.211.1 ± 0.10.1 (0.72)
椅子立ち上がり時間 (秒)11.0 ± 0.410.9 ± 0.30.1 (0.91)
  • 有酸素運動群・抵抗運動群ともに、通常の歩行速度、SPPBスコア、椅子からの立ち上がり時間は臨床的に重要な改善をもたらしました。
  • しかし、速歩行速度の改善は有酸素運動群のみでした。

結論

高齢者の身体機能の維持と向上には、有酸素運動(トレッドミル歩行)と抵抗運動(筋力トレーニング)とも効果があり、個々の身体能力やニーズに応じた運動プログラムの選択が必要と考えられた。このような研究は、高齢者の生活の質向上や長寿に直結するため、今後の高齢者ケアにおける運動介入の方針を考える上で非常に重要な意味があります。

まとめ

トレッドミル歩行も筋力トレーニングも、肥満傾向の高齢者の歩行速度改善に効果があることが分かりました。肥満傾向かつ高齢者の運動についてはリスクも伴うため、個々の身体機能に応じた運動プログラムの選択が重要となるため、様々な選択肢を持っておくことが必要であると考えられます。

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました!!