「何度も練習しているのに、動きが安定しない」「本人にどこまで声をかければよいか分からない」「家ではうまくできるのに、練習場面では介助者の指示待ちになってしまう」。脳卒中後のリハビリで出会うこうした悩みには、練習回数だけでは説明できない部分があります。そこで重要になるのが、動いた結果や過程について本人へ返す情報、つまりフィードバックです。

ただし、フィードバックは「正解を教えること」ではありません。課題の中で本人が得られる感覚を残しながら、次の試行で何を確かめるかを具体化する情報です。声かけが多ければ学習が進むわけでも、少なければ自立的になるわけでもありません。この記事では、脳卒中後の運動学習におけるフィードバックを、原因の見立て、評価、課題設計、再評価までつなげて整理します。

結論!フィードバックは「答え」ではなく次の試行の手がかりです

脳卒中後の運動学習でまず大切なのは、本人が何を感じ、何に気づき、次に何を試すかを課題の中に残すことです。介助者が毎回「肘を伸ばして」「もっと体重をかけて」と修正し続けると、その場の動きが整って見えることがあります。しかし、本人が自分で誤差を検出し、調整する機会まで奪っていないかは別に確認する必要があります。

フィードバックには大きく二つの型があります。結果の情報は「コップに届いたか」「10mを何秒で歩けたか」のように、課題がどう終わったかを返します。過程の情報は「到達直前に体幹が先に横へ移ったか」「遊脚で足部が内反したか」のように、動き方を返します。どちらが常に優れているのではなく、今の課題で何を本人が確認できていないかによって使い分けます。

脳卒中後の運動学習における内的フィードバックと外的フィードバックを3層で整理した図解

ここでいう本人の情報とは、視覚、触覚、関節位置覚、努力感、動いた後の姿勢の変化などです。これを内在的フィードバックと呼びます。療法士の言葉、動画、鏡、点数、音、装具による一時的な条件変更は外から加える情報です。外からの情報は本人の感覚を置き換えるものではなく、見落としている差を見つける補助として扱います。

なぜ声かけだけでは動きが変わりにくいのか

運動は、脳からの出力だけで成立しているわけではありません。到達や歩行では、目標の位置、身体の位置、荷重、速度、触れた感覚を統合し、予測と実際のずれを次の運動に反映します。脳卒中後には、運動麻痺だけでなく、位置覚低下、注意障害、感覚の鈍さ、失語や記憶の問題、痛み、疲労、恐怖感が重なり、このずれを本人だけで拾いにくくなることがあります。

たとえば座位でコップへ手を伸ばすとき、目標に届かない原因は一つではありません。肩関節の選択的な運動が小さい、肘伸展が遅い、体幹を早く倒して距離を埋めている、座面上で骨盤が後方へ滑る、視覚で手元を追えていない、痛みを避けているなどを分ける必要があります。「腕をまっすぐに」という一言は、これらのどの原因に向けた情報なのかを曖昧にしてしまいます。

さらに、脳卒中後の動作では代償と回復を分けて読む必要があります。体幹前傾を増やしてコップへ届くことは、生活上は有用な代償になる場合があります。一方、肘伸展や肩甲帯の協調を評価したい時期には、体幹の先行が上肢の問題を覆い隠すこともあります。フィードバックの目的は姿勢を一律に矯正することではなく、どの能力を変化として読みたいかを本人と共有することです。

よくある誤解。「たくさん褒める」「すぐ直す」だけでは足りません

肯定的な言葉は、取り組みを続けるために大切です。しかし「よかったです」だけでは、何が再現できたのかが残りません。逆に、失敗するたびに直ちに修正点を複数伝えると、本人は自分の感覚を振り返る前に次の指示を待つようになりやすくなります。結果として、練習室ではできても、食卓や廊下など条件が変わった場面で調整しにくい可能性があります。

もう一つの誤解は、結果の数値を出せば運動学習が自動的に進むという考えです。歩行速度、到達成功率、反復数は有用なアウトカムですが、数字だけでは「どのように達成したか」は分かりません。歩行速度が上がっても、非麻痺側の支持時間を過度に短くして急いでいる、膝関節を固定している、痛みを我慢しているなら、課題設定を見直す必要があります。結果の情報と動きの質を、同じ対象・同じ条件で並べて読むことが重要です。

外的注意、たとえば「床を強く押して前へ進む」「コップを線の内へ置く」のように課題の結果へ注意を向ける言葉は、状況によっては使いやすい選択肢です。ただし、脳卒中後の注意・理解・感覚障害の状態、課題の難易度、転倒リスクによって反応は異なります。一つの言い回しを全員へ当てはめず、反応をアウトカムで確認します。

評価で分けるならこの順番です。伝える前に4つを観察します

脳卒中後のフィードバックを決める前に確認する目標、動き、自覚、安全性の4項目を示す図解

Activeでは、フィードバックを選ぶ前に、まず問題点を具体的な課題として捉えます。「歩きにくい」ではなく、「右遊脚で足先が引っかかり、左への側方回避が増える」「立ち上がりで麻痺側足部の荷重が少なく、上肢支持を使う」のように、開始から終了までを観察します。そのうえで次の4点を分けます。

観察すること評価で確認する問いフィードバック設計へのつながり
目標何をできたら成功とするか。距離、方向、時間、使用場面は明確か。結果の情報を一つに絞ります。
動きの問題どの関節、体幹、荷重、タイミングが目標を妨げるか。必要時のみ過程の情報を使います。
自己評価本人は成功・失敗や動きの差をどこまで説明できるか。先に本人の振り返りを促す量を決めます。
安全性痛み、息切れ、疲労、注意の抜け、転倒リスクはないか。練習量、環境、介助量を先に調整します。

この順番は、Activeの臨床プロセスにも対応します。問題点を見つけ、原因を推測し、可能性の順位をつけます。必要なら鏡、動画、目標物の高さ、装具、手すりなどを一時的に用い、仮説どおり動きが変わるかを確かめます。一時的な条件変更で変わるなら、その変化に必要な能力をさらに分析できます。伝える内容は、仮説を確かめるための観察点から選びます。その後で初めて、何を伝えるか、どの課題を反復するかを決めます。

たとえば、目標物を少し近づけると肘伸展が増え、体幹の先行が減るなら、単純に「体幹を動かさない」と言う前に、到達距離、座位の安定、肩関節の支持性、肘伸展の随意性を候補として検討できます。反対に、距離を変えても同じ代償が続くなら、疼痛、感覚、恐怖、注意、課題理解など別の要因を優先して評価します。

結果と過程、どちらを伝えるか。1回の試行で情報を詰め込みません

脳卒中後のリハビリで結果の情報と動きの過程の情報を使い分ける方法を示す図解

結果の情報は、課題の目的がはっきりしていて、本人が達成度を自分で確かめにくい時に役立ちます。例として「5回中3回、コップを倒さずに置けました」「10mを杖ありで18秒でした」「足先が線を越えずに振り出せた回数は4回でした」があります。結果を伝えたら、次に「どの試行がやりやすかったですか」と本人の感覚へ戻すことが大切です。

過程の情報は、動きの質に関わる仮説を検証したい時に使います。例として「手を伸ばす前に骨盤が後ろへ滑ったか」「立ち上がりの最初に麻痺側足部へどのくらい荷重できたか」「歩行の遊脚で膝が曲がり始める時刻はどうだったか」があります。ただし一度に肩、肘、手、体幹、視線を指示すると、注意が分散します。1セットで伝える手がかりは原則一つにし、次の数回で変化を確かめます。

慢性期脳卒中者37名を対象にしたCirsteaらのRCTでは、2週間の反復到達課題で、結果の情報を20パーセントの試行に与える群と、関節運動に関する過程の情報を徐々に減らす群が比較されました。いずれも対照群より運動学的な変化を示しましたが、変化の内容は同じではなく、記憶や計画性などの認知機能との関連も報告されました。これは、フィードバックの型を選ぶ時には、運動麻痺だけでなく認知面も評価する必要があることを示しています。

言葉が十分に理解しにくい場合、短い動作実演、触れて分かる目標、色テープ、音、動画などが候補になります。ただし、見せる情報を増やすことと理解が深まることは同義ではありません。画面、鏡、療法士の言葉が同時に入ると、どれに注意を向けるかを選べない場合もあります。本人が最も使える感覚チャネルと、安全に取り組める情報量を確認します。

介入を設計するならこう考えます。反復の前に仮説をつくります

フィードバックを含む介入は、次の8段階で設計します。

  1. 問題点を、生活に近い課題の中で具体化します。
  2. 運動、感覚、痛み、注意、環境のどれが関与するかを推測します。
  3. 最も影響が大きい原因候補から順位づけします。
  4. 目標物、支持面、動画、装具などを一時的に用い、仮説を確かめます。
  5. 変化に必要な能力を、可動域、随意性、荷重、持久性、認知などに分解します。
  6. 本人が気づける誤差を含む課題を設定し、伝える手がかりを一つ決めます。
  7. 難易度が適切なら反復し、成功だけでなく動きの質と疲労も記録します。
  8. 同じアウトカムで再評価し、次に伝える内容を調整します。

たとえば立ち上がりで麻痺側下肢への荷重が少ない場合、最初から「麻痺側へ乗ってください」と繰り返すのではなく、足部位置、足関節背屈可動域、疼痛、座面高、非麻痺側上肢の支持、注意の向き、体幹の予測的な前方移動を確認します。座面を一時的に高くして荷重が変わるなら、必要な膝伸展トルクや足関節の条件を分析できます。体重計や床の目印を使うなら、数値を見せる目的を「左右を同じにする」ことへ固定せず、目標動作に必要な荷重の変化を本人が読めるようにすることが重要です。

仮説検証のための補助は、永続的な代償を作るためではありません。装具、杖、電気刺激、視覚的な目標、手による介助は、原因候補を一時的に変えた時に動作がどう変化するかを見るためにも使えます。条件を外した時に変化が消えるのか、本人が別の手がかりで再現できるのかを確認して、必要能力の練習へ進みます。

自宅と生活場面では「安全な自己評価」を先につくります

ご本人やご家族が自宅で行う際に、毎回細かくフォームを修正し合う必要はありません。むしろ、転倒や痛みの心配がある動作を一人で反復したり、疲れているのに回数だけを増やしたりすることは避けます。自宅では安全な課題を一つに絞り、成功条件と中止条件を先に決めます。

たとえばテーブル上の物を取って置く練習なら、椅子とテーブルの位置を固定し、割れない軽い物を使い、「5回中何回、物を落とさずに置けたか」「肩や首の痛みが増えていないか」「体を大きくねじらずに行えた回があったか」を短く記録します。ご家族は「もっと腕を伸ばして」と連続して言う役ではなく、見守りと安全確認、記録の補助を担います。

歩行、段差、浴室、屋外の練習は、転倒リスクや心血管系の状態を含めて個別の評価が必要です。新しい痛み、めまい、息苦しさ、いつもと異なる感覚低下、急な動きの悪化がある場合は、その場で反復を続けず医療機関へ相談してください。自己評価は安全な環境で行い、危険な課題を「慣れ」で乗り切らないことが大切です。

変化を見るアウトカムは、結果と質をセットにします

脳卒中後のリハビリで問題観察、原因仮説、課題設定、アウトカム再評価を循環させる図解

フィードバックが適切だったかは、セッション中の印象だけでは判定できません。課題に合わせ、結果と過程の両方をアウトカムとして決めます。上肢では到達成功率、目標までの時間、反復回数、痛み、体幹代償の有無、Fugl-Meyer Assessment上肢項目、Action Research Arm Testなどが候補になります。歩行では10m歩行テスト、6分間歩行テスト、歩行中の足先クリアランス、左右の支持時間、転倒に近い場面、疲労感などを目的に応じて組み合わせます。

ここでのポイントは、必ず同じ条件で比較することです。椅子の高さ、補助具、靴、手すり、介助量、目標物の位置が変われば、回数や時間だけを単純に比べられません。「何を変えたか」と「何を測ったか」をセットで残すと、次のフィードバックが原因仮説に沿っているかを確認できます。同じ条件で測れない変化は、学習の変化として解釈しにくくなります。

論文からどこまで言えるか。最適解を一つに決めない理由

脳卒中後の上肢に対する外的フィードバックを扱ったSubramanianらのシステマティックレビューは、9研究を整理し、麻痺側上肢の運動学習に外的フィードバックを用いる可能性を示しました。一方で、最適な媒体、内容、頻度、与えるタイミングについては研究間の違いが大きく、結論を一つに定めるには限界があると述べています。したがって、「毎回すぐに伝える」「必ず半分の試行だけ伝える」といった固定した処方はできません。

CirsteaらのRCTは、結果の情報と過程の情報が同じ変化を生むわけではなく、認知機能が反応に関係する可能性を示しました。Johnsonらの観察研究では、脳卒中後の歩行練習において理学療法士が内的注意を向ける言葉を多く用いる実態が示されています。これは内的注意が不適切という結論ではなく、臨床で普段使っている言葉を、課題の目的と本人の反応から点検する必要があるという示唆です。

また、Dorschらによる多施設RCT、SIRRACTでは、入院脳卒中者135名に対し、センサーで得た歩行活動の情報を追加して週3回フィードバックする群と、10m歩行速度のみのフィードバック群を比較しました。退院時の一日歩行時間と15m歩行速度に有意差は示されませんでした。情報を増やすだけでは練習量や歩行成果を必ずしも増やせないという結果であり、課題内容、本人の優先課題、環境、スタッフの関わり方まで含めた設計が必要です。

上肢のバーチャルリアリティ課題で視覚的な模範を常時示すかを比較したSalvalaggioらのRCTでも、一種類の即時視覚フィードバックを追加するだけでは、複数の刺激がすでにある臨床場面で優位性が確認されませんでした。フィードバックは単独の技術ではなく、練習量、課題特異性、難易度、感覚・認知の状態と組み合わせて初めて意味を持ちます。

Activeではこう見立てます。指示待ちか、気づきにくさかを分けます

Activeで見落としやすい分岐は、「本人が指示待ちに見える」状態です。これは意欲の問題とは限りません。課題の目標が曖昧、成功と失敗の感覚が分かりにくい、痛みや恐怖で注意が狭くなっている、失語や注意障害で複数の情報を保持しにくい、過去の失敗経験から動きを小さくしているなど、複数の理由が考えられます。指示待ちに見える行動を、意欲だけで解釈しないことが重要です。

この時は、声かけを増やす前に、本人へ「今の試行では何が変わりましたか」「一番やりやすかった回はどれですか」と問い、反応を確かめます。言葉での振り返りが難しければ、二つの動画を見比べる、目標に印をつける、触れた位置を確認するなど、本人が差を扱える方法を探します。フィードバックの量を減らすこと自体が目的ではなく、本人が次の試行を選べる条件を作ることが目的です。

最後にもう一度。良いフィードバックは評価から始まります

脳卒中後の運動学習でフィードバックを使う時は、まず生活課題の中の問題点を具体化します。次に、運動、感覚、認知、痛み、環境のどれが主な原因かを仮説化し、一時的な条件変更で確かめます。そのうえで、必要な能力に合わせて課題を設定し、結果か過程のどちらを伝えるかを一つに絞ります。

変化は、反復の回数だけではなく、本人が何を感じて次に調整できるようになったかで読みます。動きの質、到達の結果、痛み、疲労、安全性を同じ条件で再評価し、伝える内容を更新していきます。これが、代償をただ抑えるのではなく、必要な能力を見極めながら生活の動作へつなげるための土台になります。

次に読むべき記事

参考文献

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