足先の引っかかりにおいて重要なワードとして「トゥクリアランスの低下」という言葉を聞いたことはないでしょうか。

トゥクリアランスとは…最小つま先クリアランス(Minimum Toe Clearance:MTC)とも呼ばれ、歩行の遊脚期における足の前部分の下の最下点と地面との間の最小垂直距離のことである。平地歩行におけるMTCは、1〜2.4cmの範囲と言われています。

ではこのトゥクリアランスを作り出すためにはどのような要素によって構成されているのか?

について考えていきましょう。

足先の引っかかりに重要なトゥクリアランスを作り出す要素

結論、

  • 股関節の上昇
  • 肢の短縮

だとされています。

足関節の背屈が重要だと言われるが・・・

足首の背屈は?と思う方も多いかと思います。

ほとんどの研究では、対象者が自力歩行が可能な場合で、重度麻痺者は除外されている。

そのため、足が引っかかってしまう、という現象を全て上記2つで解決できるかどうか?は断言は難しい。

ただみなさんあると思うのですが、足関節背屈に対してアプローチしたものの引っかかりが解消しないという経験。

歩行が困難な方に対する研究を見つけることができませんでしたが、

麻痒側下肢接地後の骨盤の後方回旋に加え,上部体幹の屈曲が強くなったことで,振り出しの際に上部体幹を正中位へ(非麻痺側へ)戻すことができなくなり,重心が非麻痺側へ移動する前に振り出そうとし,クリアランスが保てずに引っかかったと推察できる。

長田悠路,脳卒中片麻痺の基本動作分析 バイオメカニクスから考える動作パターン分類と治療法の選択,メジカルビュー社,p172.2021

といったシングルケースでの考察がされていました。

もしも足関節の背屈が大きく必要な場合に考えられることは、完全に私見のため参考程度にしていただきたいのですが、

自力歩行が困難な脳卒中患者においては、足関節の背屈能力が特に重要な要素となる可能性があります。

  1. 安定性の確保: 自力歩行が困難な患者では、足関節の背屈が不十分だと、歩行時の安定性が低下します。これは転倒リスクを高める要因ともなり得ます。
  2. クリアランス確保: 足関節の背屈が不十分な場合、足が地面に引っかかるリスクが高まります。特に、歩行補助具を使用している場合、このリスクはさらに高まる可能性があります。
  3. 歩行効率確保: 足関節の背屈が不十分だと、歩行時のエネルギー効率が低下する可能性があります。(ヒールロッカー)これは、既に自力歩行が困難な患者にとって、さらなる負担となり得ます。

健常者と片麻痺者の足関節背屈

実は自力歩行が可能な症例において、健常者と片麻痺者では、足関節の角度、足趾クリアランス、足背屈の寄与は類似しているといった報告があります。

ここから考えられるのは、脳卒中後に足が引っかかるという現象が果たして、

運動麻痺による前脛骨筋、腓骨筋の筋出力低下によるものなのか?という点です。

おそらく足が引っかかってしまう要因は、他にあると考えた方が良いかもしれないということが今回は特に重要なポイントとなります。

ではクリアランスが低下する理由はなんなのでしょうか?

重複しますがそれが「麻痺側の下肢推進力の低下」が要因だと考えられています。

一方で、自力歩行が可能な患者では、麻痺側の下肢による推進力がより重要な要素となる可能性があります。

  1. 歩行速度: 麻痺側の推進力が十分であれば、歩行速度が向上する可能性があります。
  2. 歩行パターン: 麻痺側の推進力が十分であれば、より自然な歩行パターンを維持することが可能です。
  3. エネルギー効率: 麻痺側の推進力が高いと、歩行に必要なエネルギーが低下する可能性があります。

以上のように、自力歩行の可否によって、足関節の背屈と麻痺側の推進力が歩行に与える影響は異なる可能性があります。このような観点からの研究はまだ限られていますが、個々の患者の状態に応じたアプローチが必要であると考えられます。

クリアランス確保に重要な2つの要素

「肢の短縮(Limb shortening)」と「股関節の上昇(Hip elevation)」は、どちらも歩行中のスイングフェーズで足指のクリアランス(地面からの距離)を確保するための動作ですが、そのメカニズムが異なります。

肢の短縮(Limb shortening)

  • 主に膝と股関節を曲げることで、足全体の長さを一時的に短くします。
  • 足全体が短くなることで、地面に足が触れるリスクが減少します。
  • この動作は、足全体を「折りたたむ」ようなイメージです。

股関節の上昇(Hip elevation)

  • 股関節を使って足を持ち上げる動作です。
  • 足全体が地面から高くなることで、地面に足が触れるリスクが減少します。
  • この動作は、足全体を「持ち上げる」ようなイメージです。

要するに、肢の短縮は「足全体を短くする」動作であり、股関節の上昇は「足全体を高くする」動作です。これらはしばしばトレードオフの関係にあり、どちらの動作を優先するかは歩行状況や個々の症状によって異なります。

アプローチの注意点

問題点を間違えてしまうと、おそらくアプローチした際に狙った反応は得られません。

では、ここでのよくある間違えとは…?

それが、装具やFES(機能的電気刺激)による足関節背屈のクリアランス確保に対するアプローチです。

一見、足が引っ掛かるのだから足首を上げるように外からサポートすれば、足は引っ掛からなくなるのではないか?と思いますよね。

しかし、脳卒中片麻痺者において注意が必要なのは、純粋な背屈障害(総腓骨神経麻痺などによる下垂足)と脳卒中後のクリアランス低下(膝関節運動や股関節運動の問題)は異なるという点です。

FESを使った研究ですが、

背屈筋に適用されたFESは、スイング時の膝の最大屈曲とつま先離陸時の底屈、両方を減少させるKesar TM, Perumal R, Jancosko A, Reisman DS, Rudolph KS, et al. (2010) Novel patterns of functional electrical stimulation have an immediate effect on dorsiflexor muscle function during gait for people poststroke. Phys Ther 90: 55–66.

とされています。脳卒中後の遊脚時には膝屈曲が十分に行えず、「膝が抜けない(膝が曲がらない)」という現象が起こってきます。

これがもしクリアランスの低下の原因であったならば、この背屈をサポートするという要素が逆に膝を伸ばしてしまうことや、麻痺側下肢の推進力が問題であれば下腿三頭筋の働きを抑制してしまう、といった逆効果に繋がってしまうことがあります。

実際に臨床の中で、こういった経験はみなさんないでしょうか?

  • 足関節背屈が問題だと思って背屈角度の底屈制動の装具を使ったのに足が引っ掛かる
  • 足関節背屈の随意性はあるのに足が引っ掛かる
  • 随意性は良い(足の動きは良好な)のに分まわし歩行をしてしまう

おそらくこれはアプローチがそもそも間違っている可能性があります…。

脳卒中片麻痺者の方に共通する問題として、

「推進力」

があります。

この中で、推進力を生み出す要素として、足関節底屈筋があげられます。(もちろんそれだけじゃないですが)

この足関節底屈筋に対するアプローチが重要となります。

そして足関節底屈筋にも2種類ありますよね。(足底筋も作用として底屈に近いですが…)

ヒラメ筋と腓腹筋のどちらが特に前方推進力に関わっているのでしょう?

推進力を生み出すヒラメ筋

見出しに答え書いちゃいましたが、

ヒラメ筋が特に前方推進力に関わってくると考えれています。

その理由がこちら

といったように二関節筋である腓腹筋と単関節筋であるヒラメ筋は作用が異なるわけですね。

だから!

下腿三頭筋に対しての介入には工夫が必要なんです。

足が引っかかる、歩行には下腿三頭筋、Push offに下腿三頭筋、ではなくこういう理由で下腿三頭筋の機能が必要だから、下腿三頭筋にたいしてアプローチが必要なんです、といえますか?言えないといけないんです。

下腿三頭筋への運動療法には○○

ではこの下腿三頭筋に対するアプローチとして、

推進力を生み出すためのヒラメ筋を特に練習の中で使っていきたい、のであれば…

結論

Step練習が効果的です。

もちろんカーフレイズでも良いですが、より歩行に近いかたちで行うならステップ練習がいいんです。

なぜなら前方推進力を作り出すのが、ヒラメ筋の役割だからです。

まとめ

クリアランスの低下は、歩行の安全性と効率性に大きな影響を与える問題です。

この問題に対処するためには、まずその原因を特定し、適切なリハビリテーションや運動プログラムを組むことが重要です。

特に高齢者や脳卒中患者にとって、日常生活での安全な移動を確保するためには、この問題に対する理解と対策が不可欠です。

是非今回の内容を臨床の中で活用して行ってみてください。

最後までありがとうございました!