脳卒中後、机上の検査では片側を見落とさないのに、着替えでは片方の袖を通し忘れる。食事では片側の皿を残す。歩行では片側の人や物に近づく。このようなとき、半側空間無視を「検査の点数」だけで判断すると、実生活で起こる困りごとを取りこぼすことがあります。
Catherine Bergego Scaleは、食事、更衣、整容、移動、身の回り品の探索などの生活動作を観察し、半側空間無視が日常生活へどう表れるかを整理する尺度です。この記事では、尺度を自己判断に使うためではなく、生活上の見落としを具体化し、評価とリハビリの仮説につなげる考え方として解説します。
- 結論!Catherine Bergego Scaleは、半側空間無視を生活動作で捉えるための尺度です
- なぜ生活動作で見るのか|半側空間無視は一つの机上課題だけに現れるとは限りません
- CBSで何を観察するのか|「できたか」ではなく、片側をどう扱うかを見ます
- 同名半盲、失行、運動麻痺とどう分けるか|見落としの原因を一つに決めません
- 評価で見落としやすいのは「気づいているか」です
- Activeの8ステップで使うなら|尺度をゴールにせず、生活上の問題を課題へ変えます
- リハビリで言えること、言えないこと|一つの方法を全員に当てはめません
- アウトカムは点数の変化だけにしません|生活で使えるかを同じ条件で確かめます
- 論文からどこまで言えるか|尺度の強みと限界を分けます
- 最後にもう一度、要点を整理します
- 参考文献
結論!Catherine Bergego Scaleは、半側空間無視を生活動作で捉えるための尺度です
Catherine Bergego Scaleは、半側空間無視が更衣や移動などの生活場面にどう影響するかを観察する尺度です。紙の上で標的を消す検査や線を二等分する検査とは役割が異なります。机上検査は、限られた条件で探索や空間の偏りを確かめる情報です。一方、生活動作の観察では、姿勢、疲労、環境の情報量、手順の理解、麻痺、感覚、視野、家族からの声かけなどが重なった状態を見ます。
ここで大切なのは、CBSの合計点をそのまま「危険度」や「回復の見込み」に置き換えないことです。同じ点数でも、着替えで出る見落としと、歩行中の障害物探索で出る見落としでは、安全への影響も課題の設計も異なります。点数の前に、どの動作の、どの側で、どんな条件なら起こるのかを記録します。

なぜ生活動作で見るのか|半側空間無視は一つの机上課題だけに現れるとは限りません
半側空間無視は、反対側の空間に注意を向ける、そこにある物を探索する、見つけた情報を動作へ使う過程が偏る状態です。単に視力が低いことや、片目が見えにくいことと同じではありません。右脳半球の病変後に左側へ起こりやすいことは知られていますが、病変の部位だけから生活上の症状を一対一に決めることはできません。
机上の課題は姿勢や机の高さ、標的の数、時間、声かけをそろえやすい利点があります。しかし、生活では、衣服を持ち替える、周囲の人の動きに気を取られる、歩きながら方向を変える、疲労で注意が続きにくくなる、といった条件が加わります。机上課題が良好でも、生活上の見落としがないとは限りません。逆に、生活動作だけが難しい場合には、無視だけでなく、運動麻痺、失行、感覚障害、視野障害、疼痛、理解の問題、環境設定も分けて考える必要があります。
Azouviらの検証研究では、生活行動から評価するCBSは、従来の机上課題と有意に関連しながらも、従来課題より行動上の無視を捉えやすい可能性が示されました。これは、どちらか一方を選べばよいという意味ではありません。机上検査と生活動作は、重なる部分を持ちながら異なる情報を出すと理解するのが実際的です。
CBSで何を観察するのか|「できたか」ではなく、片側をどう扱うかを見ます
CBSは一般に10項目からなり、整容、着替え、食事後の片づけ、身の回り品の探索、周囲の音や人への注意、移動時の衝突など、生活に近い行動を扱います。実施の詳細や採点は、訓練を受けた専門職が定められた手順に沿って行う必要があります。この記事では家庭での採点を目的にせず、観察で役立つ視点を整理します。
| 場面 | 具体的に観察すること | 無視以外にも分ける要素 |
|---|---|---|
| 更衣・整容 | 片側の袖、髪、顔、衣服の端をどう扱うか | 上肢麻痺、肩痛、関節可動域、失行、鏡の位置 |
| 食事・テーブル探索 | 皿やコップのどちら側を残すか、頭と眼をどう動かすか | 同名半盲、視力、姿勢、食器配置、疲労 |
| 身の回り品の探索 | 探し始める側、途中で止まる位置、声かけへの反応 | 記憶、理解、探索手順、物の定位置 |
| 移動・車いす・歩行 | 人や壁への接近、方向転換、停止、見守り量 | バランス、下肢感覚、運動麻痺、同時課題、環境の混雑 |
観察は「左を見なかった」のように終わらせません。たとえば「右側の棚から探し始め、中央で探索が止まった」「左側の袖は、触覚の手がかりがあると通せた」「廊下では左側の人に近づいたが、立ち止まって頭部を回す合図には反応できた」と書くと、次に確かめる条件が見えます。行動、見落とす側、手がかりへの反応、安全上の結果を一組で記録します。

同名半盲、失行、運動麻痺とどう分けるか|見落としの原因を一つに決めません
半側空間無視と同名半盲は、ともに片側の物を見落とすため混同されやすい状態です。同名半盲では、両眼の同じ側の視野が欠けることが中心で、視野検査が重要になります。半側空間無視では、見えている可能性のある空間へ注意を向け、探索し、行動に取り込む過程に偏りが生じます。両方が重なることもあり、生活観察だけで断定はできません。
失行があれば、衣服の一部を見つけていても、順番や道具の使い方がまとまらないことがあります。上肢の運動麻痺や肩痛が強ければ、片側を使わない行動が無視のように見えることがあります。感覚障害があれば、物に触れても位置を確かめにくい場合があります。「片側を使わない」事実と、その理由の仮説を同じ言葉にしないことが評価の基本です。
条件比較はこの区別に役立ちます。必要な眼鏡を使うか、正面を保つか頭部を動かしてよいか、物の数を減らすか、声かけの有無を変えるか、座位と移動課題で違いが出るかを、一度に一つずつ確かめます。安全が保てる範囲の短い試行で、何が変わったかを見ます。変化があっても、診断が確定したとは言えません。専門的な視野評価、神経心理学的評価、動作評価に渡すべき情報が増えたと考えます。
評価で見落としやすいのは「気づいているか」です
半側空間無視では、ご本人が見落としや衝突に気づきにくいことがあります。CBSには、本人の自己評価と観察者の評価との差をみる考え方もあります。差が大きいからといって、本人が努力していない、説明を理解していないと決めることはできません。症状への気づきそのものが、病態の一部として影響する可能性があります。
2024年の横断研究では、療法士がCBSで無視なしと分類した人の一部にも、自己評価では症状の報告がありました。この結果は、自己評価だけ、あるいは観察者の評価だけで全てを捉えられるとは限らないことを示します。本人の訴え、家族の観察、専門職の観察を食い違いとして捨てず、どの場面で一致しないのかを確かめます。
家族ができるのは、本人の代わりに採点することではありません。どの場面で、どちら側に、何を見落としたか。声かけ、配置の変更、立ち止まる時間で何が変わったか。ぶつかりやヒヤリとした場面があったかを短く記録し、主治医や担当の専門職へ伝えることです。新しい見え方の変化、急な顔や手足の変化、ろれつの回りにくさ、意識の変化を伴う場合は、後遺症と決めつけず速やかに医療機関へ相談してください。
Activeの8ステップで使うなら|尺度をゴールにせず、生活上の問題を課題へ変えます
Activeでは、尺度の点数を上げることを目標にはしません。第一に、問題点を生活動作として記録します。たとえば「テーブル左端の薬を見つけるまでに二回声かけが必要」「左方向への方向転換で壁に近づく」「左袖を通す前に動作が止まる」といった形です。第二に、半側空間無視、同名半盲、運動・感覚、失行、痛み、疲労、環境の情報量などを原因候補に挙げ、危険性と生活への影響で順位づけします。
第三、第四の段階では、仮説を短時間で試します。物の位置を整理する、探索する順番を一つにする、対側に視線を向ける前にいったん止まる、触覚の目印を使う、見守りの位置を変えるといった条件を一つだけ変えます。ここで行動が変わっても、それは環境や手がかりを用いた代償かもしれません。注意機能や探索行動そのものの回復と混同せず、別に記録します。
次に、必要な能力を分解します。座位で正中に姿勢を保つ、片側へ眼と頭部を向ける、標的を見つけてから手を伸ばす、探す途中で止まらず反対側まで探索する、移動中に安全に停止して再探索する、といった能力です。課題は、危険の少ない座位の物品探索から始め、整容、更衣、食事、見守り下の移動へと、本人の目標に近づけます。同じ課題を反復する前に、難易度と安全条件が適切かを確認します。

リハビリで言えること、言えないこと|一つの方法を全員に当てはめません
半側空間無視への介入には、視覚探索、プリズム適応、体幹や頸部への働きかけ、環境調整、課題特異的な練習などが研究されています。しかし、研究の対象、開始時期、重症度、併用療法、アウトカムは一様ではありません。ある方法を行えば全員の生活動作が同じように変わる、と断言できる根拠はありません。
2024年のシステマティックレビューとメタ解析では、標準的な治療経過における視空間無視の回復には個人差が大きく、時期や評価方法をそろえた研究がなお必要と整理されています。2022年の多施設の後方視的研究では、プリズム適応を受けた人の記録から用量と変化の関連が検討されましたが、無作為化比較試験ではなく、個人への効果を保証するものではありません。介入名から始めず、どの生活動作を安全に変えたいか、何を測るかから始めます。
ご自宅で「見えていない側を必ず見る」と繰り返し求めるだけでは、疲労や失敗感を増やすことがあります。火気、階段、浴室、屋外、道路横断、混雑した場所では、練習の成果を安全の保証と扱いません。必要な見守り、環境調整、専門職への相談を優先してください。
アウトカムは点数の変化だけにしません|生活で使えるかを同じ条件で確かめます
再評価では、同じ時間帯、同じ座位、同じ照明、同じ眼鏡、同じ物の配置、同じ声かけ量をできる限りそろえます。見落とし回数、探索にかかる時間、必要な声かけ、介助量、ぶつかりやニアミス、本人の気づきを記録します。歩行であれば、速度だけでなく、障害物へ気づいた後に安全に止まれるか、見守り量が変わったかを見ます。
尺度の変化は、生活上の安全や参加が自動的に変わったことを意味しません。反対に、点数が大きく変わらなくても、本人にとって重要な食事、更衣、外出準備の一部が安全に行えるようになれば、その変化には意味があります。尺度、机上検査、生活課題の結果を並べ、次に続けること、環境を調整すること、追加評価を依頼することを判断します。

論文からどこまで言えるか|尺度の強みと限界を分けます
Azouviらは、右半球脳卒中者83名を対象に、CBSの心理測定特性を検討しました。CBSは従来の検査と関連しつつ、日常行動での無視をより捉えやすい可能性が示されました。ただし、これは生活観察だけで全てを診断できるという意味ではありません。PMID: 12589620。
Marquesらの横断的検証研究では、脳卒中後の半側空間無視がある22名で、CBSの内的一貫性と評価者間の信頼性が検討されました。言語や文化に合わせた実施手順、評価者の訓練が前提になることを示す研究です。PMID: 31073383。
Nishidaらは、日本の回復期リハビリテーション病院において、CBSの詳細な実施手順であるKF-NAP日本語版を、亜急性期脳卒中者で検討しました。観察者間の信頼性と、BITやFIMとの関連が報告されています。単純な採点用紙ではなく、観察手順の共有が重要であることを示唆します。PMID: 33628337。
Overmanらのシステマティックレビューとメタ解析は、脳卒中後の視空間無視の回復経過について、研究間のばらつきと時期別データの不足を指摘しました。個人の見通しを一つの尺度や一時点の得点だけで決めない根拠になります。PMID: 39016005。
最後にもう一度、要点を整理します
Catherine Bergego Scaleは、半側空間無視が生活動作にどう現れるかを捉えるための有用な尺度です。ただし、点数だけで安全性、原因、回復を決めるものではありません。机上検査、生活動作、視野や運動・感覚の評価を組み合わせ、見落とす側、条件、手がかりへの反応、生活上の結果を具体的に記録してください。そこから、代償と回復を分け、本人にとって意味のある安全な課題へつなげます。
参考文献
- Azouvi P, Olivier S, de Montety G, et al. Behavioral assessment of unilateral neglect: study of the psychometric properties of the Catherine Bergego Scale. Arch Phys Med Rehabil. 2003;84(1):51-57. PMID: 12589620. DOI: 10.1053/apmr.2003.50062
- Marques CLS, de Souza JT, Gonçalves MG, et al. Validation of the Catherine Bergego Scale in patients with unilateral spatial neglect after stroke. Dement Neuropsychol. 2019;13(1):82-88. PMID: 31073383. DOI: 10.1590/1980-57642018dn13-010009
- Nishida D, et al. Behavioral Assessment of Unilateral Spatial Neglect with the Catherine Bergego Scale Using the Kessler Foundation Neglect Assessment Process in Patients with Subacute Stroke during Rehabilitation in Japan. Behav Neurol. 2021;2021:6610074. PMID: 33628337.
- Overman MJ, Binns E, Milosevich ET, Demeyere N. Recovery of Visuospatial Neglect With Standard Treatment: A Systematic Review and Meta-Analysis. Stroke. 2024;55(9):2325-2339. PMID: 39016005. DOI: 10.1161/STROKEAHA.124.046760
- Harvey M, et al. Impacts of Prism Adaptation Treatment on Spatial Neglect and Rehabilitation Outcome: Dosage Matters. Neurorehabil Neural Repair. 2022;36(10):596-606. PMID: 35673990. DOI: 10.1177/15459683221107891
- O’Connor K, et al. Unilateral Spatial Neglect May Not Be Detected by Performance-Based Functional Neglect Assessment. Am J Occup Ther. 2024;78(3):7803205070. PMID: 38350038.




