着替えのときに麻痺側の袖だけを探さない、整容で片側だけを残す、腕が机の端にあっても自分から位置を直さない。こうした様子を見て、すぐに「感覚がないから」と結論づけることはできません。触覚や位置覚の低下、周囲の空間への注意の偏り、失行、視野障害、痛み、運動麻痺が重なって、似た見落としに見えることがあるためです。

この記事では、脳卒中後の身体図式障害を、感覚障害や半側空間無視と混同せずに評価し、生活動作の課題設計へつなげる考え方を整理します。身体図式は、今ある自分の手足の位置や大きさ、体の一部としてのまとまりを、感覚・視覚・運動経験から更新し続ける働きです。診断名を自己判断するためではなく、何を評価すれば介助と練習の優先順位を決められるかを知るためにお読みください。

結論!服の袖を見落とすときは、感覚だけで決めません

身体図式の問題が疑われるときは、触れたことが分かるかだけでなく、本人が自分の体の一部を見つけ、位置づけ、動作の中で使えるかを分けて確認します。同じ「袖に腕を通しにくい」でも、目を閉じると腕の位置が分かりにくいなら位置覚、視線を向けないなら空間性注意、動かし方の手順が崩れるなら失行や遂行機能を優先して検討します。

ここで大切なのは、見落としを本人の意欲の問題にしないことです。本人が気づかないまま衣服を引っ張ったり、車いすのアームレストに腕を挟んだりする場合があります。安全確保と原因の切り分けを同時に行うことが、生活場面での最初の介入になります。

身体の情報を感覚、身体表象、行為に分けて考える図

なぜ起こるのか|身体図式は「感覚」だけの名前ではありません

身体図式という言葉は一つに見えても、臨床では少なくとも三つの情報を分ける必要があります。第一に、触覚、温冷覚、位置覚、運動覚のような身体から入る感覚情報です。第二に、その手や腕が自分の体のどこにあるか、左右や部位をどう表すかという身体表象です。第三に、衣服を手繰る、コップに手を伸ばす、顔を拭くといった行為のなかで情報を使う能力です。

脳卒中では、一次感覚の障害だけでなく、注意、視空間認知、言語、行為の計画、運動出力のどこにも問題が生じ得ます。身体の片側への注意が向きにくい状態は、個人空間に対する無視、すなわちパーソナルネグレクトとして扱われることがあります。これは周囲の机や壁を見落とす半側空間無視と同時に起こることもありますが、両者が別々に現れる報告もあります。したがって、机上の線分二等分や抹消課題だけが良好でも、着替えや整容で問題がないとは限りません。

身体表象の障害は、特定の経路が一つ壊れたためと単純には説明できません。近年のレビューでは、身体への注意、感覚、運動、所有感、身体部位の知識を含む複数の構成要素として扱われています。所見から単一の脳部位や神経経路を断定しないことが、過剰な説明を避けるうえで重要です。

よくある勘違い|感覚障害、半側空間無視、失行を同じにしない

感覚障害では、触れた場所、物の材質、関節の位置が分かりにくくなります。視覚を使うと成績が上がることもあります。半側空間無視では、食卓の片側、部屋の片側、鏡に映る片側など、体の外の空間に注意が向きにくいことが中心です。身体図式やパーソナルネグレクトが前景にある場合は、本人の腕、顔、衣服の片側など、自分の体に属する空間の扱いに偏りが見られます。

一方で、失行では「そこに腕がある」と分かっていても、ボタンを留める、袖を通す、歯ブラシを使うといった目的動作の系列を組み立てにくいことがあります。肩痛、可動域制限、痙縮、筋力低下でも、腕を避ける行動は起こります。観察された動きだけで、注意・感覚・認知・運動のどれか一つに決めないことが必要です。

感覚障害、半側空間無視、身体図式の障害を生活場面で鑑別する図

評価で分けるならこの順番|数字の前に条件をそろえます

評価は、危険がない座位や支持のある環境から始めます。まず、食事、整容、上衣の着脱、移乗前後で、どの側のどの部位を見落とすかを観察します。そのうえで、視覚を使う条件と使わない条件、触れる前と触れた後、声かけの前後を比べます。反応が変わる条件は、次に検証する仮説になります。

観察する場面確認する点考える分岐
着替え麻痺側の袖、腕、裾に視線が向くか空間性注意、身体への注意、痛み、手順
整容顔や腕の片側に手が届くかパーソナルネグレクト、可動域、失行
部位を指す目を開けた条件と閉じた条件で変わるか視覚代償、位置覚、言語理解
物を使う自分の腕を保護し、課題に参加できるか運動出力、注意、身体表象、環境設定

標準化された評価だけで除外しようとしないことも重要です。Fluff Testのように身体上の標的を探索する検査、Vest Testのように身体前面の探索をみる検査、行動観察としてのCatherine Bergego Scaleなどは情報になります。ただし、検査の得点が一つ良い、または悪いだけで確定しないことが原則です。机上検査と実際の生活動作を組み合わせることが、見落としを減らします。

着替え、整容、腕の位置、再評価を順に確認する評価フロー図

介入を設計するならこう考えます|Activeの8ステップで仮説を試します

Activeでは、最初から「身体図式を良くする練習」を決めません。第一に問題点を具体化します。例えば「上衣の麻痺側の袖を探さず、介助者が示すまで腕を出さない」と記録します。第二に、位置覚、体への注意、視野、疼痛、関節可動域、失行、理解面などの原因を推測し、第三に安全性と生活への影響を踏まえて順位づけします。

第四に、視覚的な目印を一時的に置く、衣服の置き方を変える、声かけを一つに絞るなど、デバイスや環境を短時間だけ変えて反応を確かめます。目印で袖に手が向くのか、触れてからなら気づくのか、介助で腕を置けば次の動作が出るのかを比較します。代償がその場の安全を高めることと、身体の情報を使う能力が変わることは別です。どちらを狙っているかを記録します。

第五に必要な能力を分解します。座位保持、痛みなく手を出す可動域、手触りや位置の弁別、視線の移動、選択して行為を始める力が候補になります。第六に、これらを使う一つの課題を設定します。たとえば、見える色の目印から始め、触覚の違う布を選び、最後に実際の上衣の袖を通すというように、生活目標へつなげます。第七に難易度が適切な範囲で反復し、第八に同じ条件で結果を再評価します。

研究では、身体への気づきの障害を対象とする評価法や介入法は多様で、統一した訓練処方はまだ十分に確立していません。だからこそ、根拠の名称だけで介入を選ばず、本人の反応を短時間で検証する臨床推論が必要です。

安全、手がかり、本人の選択、生活課題の順に課題を設計する図

自宅と生活ではここに注意します|急な変化は練習で様子を見ません

ご家族は、本人の腕や足を無理に引っ張って気づかせようとしないでください。肩痛や亜脱臼、皮膚の傷、圧迫、転倒の危険がある場合は、まず姿勢と環境を整えます。衣服は麻痺側の袖が見つけやすい位置に置き、椅子やベッド周囲の障害物を減らし、介助者は一度に複数の指示を重ねないようにします。

一方で、毎回すべてを代わりに行うと、本人が視線を向け、触れ、選ぶ機会が減ることがあります。安全が確保できる範囲で「腕はどこにありますか」「袖に触れられますか」と短く問い、待つ時間をつくります。できなかった回数だけでなく、どの手がかりならできたかをメモすると、次の評価に役立ちます。

ただし、急に片側を認識しにくくなった、新しい混乱が出た、強い頭痛、ろれつの回りにくさ、顔や手足の急な変化がある場合は、自主練習で判断を先延ばしにせず医療機関へ相談してください。

変化を見るアウトカム|「できた」だけでは終わらせません

再評価では、同じ上衣、同じ座位、同じ声かけ量で、麻痺側の袖や腕を見落とした回数、開始までの時間、必要な介助量、本人が自ら修正できた回数を記録します。さらに、コップを取る、車いすで腕を保護する、整容で片側を扱うなど、目標となる生活場面へ移っているかを確認します。

研究レビューでは、パーソナルネグレクトや身体表象の問題と、運動、移動、ADLの低下との関連が示されています。ただし多くは観察研究であり、個人の将来を予測するものではありません。アウトカムは予後を断定する数字ではなく、次の課題を続けるか、変えるか、支援を増やすかを決める材料です。

見落とし、介助量、時間、本人の気づきを同じ生活場面で再評価する図

論文からどこまで言えるか|評価の重ね合わせが必要です

Connellらの感覚障害の前向き観察研究では、脳卒中後の触覚、立体認知、位置覚の障害は一致せず、複数の感覚モダリティを評価する必要性が示されました。これは、触覚だけを検査して身体の扱い全体を決められない理由の一つです。PMID: 18678576。

Caggianoらのレビューは、パーソナルネグレクトと周囲空間への無視が同時に起こることも、分離して現れることもあるとまとめています。個人空間への注意は、机上の空間課題だけでは捉えきれない可能性があります。PMID: 30547412。

Embrechtsらのシステマティックレビューでは、脳卒中後の身体表象に関わるパーソナルネグレクトは、運動制御、移動、ADLの低下と関連していました。一方で、評価法の限界と研究数の不足も指摘されており、単一の尺度で判断する根拠にはなりません。PMID: 37591497。

Parryらのスコーピングレビューは、脳卒中後の身体への気づきを扱う評価法と介入法が多岐にわたることを示しました。これは「身体図式障害」という言葉を使うときほど、何を測り、何を変えようとしているのかを明確にすべきだという示唆になります。PMID: 36189909。

Activeで見落としやすい分岐|見えているのに使えない、をそのままにしません

Activeでは、本人が麻痺側の腕を見ているのに動作に入れない場合、単純に「注意はある」とは扱いません。視線を向けられること、部位を自分の体として位置づけられること、痛みなく手を動かせること、目的動作に組み込めることは別だからです。逆に、視覚的な目印で一時的に袖へ手が向く場合も、代償が有効なのか、触覚や位置覚を使う課題へ進める余地があるのかを再評価します。

原因を一つに絞る前に、条件を一つだけ変えて反応を比べる。この手順を繰り返すことで、介助を増やすべき場面と、本人が試せる場面を分けやすくなります。

最後にもう一度、要点を整理します

脳卒中後に自分の腕や衣服の片側を扱いにくいとき、感覚障害だけが原因とは限りません。身体への注意、身体表象、周囲空間への注意、失行、痛み、運動麻痺を、生活動作のなかで分けて観察することが出発点です。安全を整え、短時間の試行で仮説を確かめ、必要な能力を一つずつ課題にし、同じ場面で再評価してください。

https://strokeriha.com/unilateral-spatial-neglect-walking-stroke/

参考文献

  1. Connell LA, Lincoln NB, Radford KA. Somatosensory impairment after stroke: frequency of different deficits and their recovery. Clinical Rehabilitation. 2008;22(8):758-767. PMID: 18678576. DOI: 10.1177/0269215508090674
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