脳卒中後、「コップを取ろうとして腕を上げると、肘が曲がり、手も握り込んでしまう」という困りごとは少なくありません。努力しているのに、狙った関節だけを動かせない。この現象は共同運動パターンとして説明されることがあります。
ただし、腕が曲がることだけで共同運動と決めるのは正確ではありません。痙縮、関節の拘縮、肩の痛み、疲労、非麻痺側で強く踏ん張った時の連合反応でも、見かけ上は似た動きになります。大切なのは、どの条件で、どの関節が、どの順番で結びつくのかを観察することです。この記事では、共同運動の意味、背景にある神経学、評価の分け方、課題の設計、自宅で注意したいことまでを整理します。
- 結論!共同運動は「動かない腕」ではなく、関節を分けて使いにくい状態です
- なぜそう見えるのか|選択的な出力が減ると、動きがまとまりやすくなります
- よくある誤解|痙縮、拘縮、痛みと同じ言葉にしないでください
- 評価で分けるならこの順番|Activeの8ステップで仮説を確かめます
- 評価表|観察を「できた・できない」で終わらせないために
- 介入を設計するならこう考える|共同運動を強める条件を調整します
- 自宅と生活場面で気をつけること|回数より、条件と安全をそろえます
- 変化を見るアウトカム|角度だけでなく、生活で使えるかを確認します
- 文献からどこまで言えるか|肩の負荷は分離運動を変える可能性があります
- Activeで見落としやすい分岐|「手が開かない」を手だけの問題にしないでください
- 最後にもう一度|共同運動は、条件を変えて初めて見えてきます
- 参考文献
- 次に読むべき記事
結論!共同運動は「動かない腕」ではなく、関節を分けて使いにくい状態です
共同運動とは、本来は別々に調整できる複数の関節が、ある努力をきっかけにまとまって動きやすくなる状態です。上肢では、肩を外転して腕を持ち上げようとすると、肘屈曲、前腕回外、手関節や手指の屈曲が同時に出やすい屈曲共同運動が代表的です。下肢では、股関節や膝、足関節が一定の組み合わせで動き、足を振り出す時に必要な分離運動を妨げることがあります。
腕が上がること自体は、必ずしも回復を意味しません。肩を使うほど肘が曲がり、手を開けなくなるなら、目的動作に必要な「関節を分ける能力」は別に確認する必要があります。反対に、支えを増やすと肘を伸ばせる、負荷を下げると手指が開くなら、能力が完全に失われたわけではなく、課題条件が今の制御能力を超えている可能性があります。
代償は目的を達成するために別の動きを使う戦略であり、共同運動そのものとは区別します。例えば、体幹を前に倒して棚へ手を届かせることは代償になり得ます。一方、肩を上げる努力に肘屈曲が意図せず重なることは、関節間の異常な結びつきとして評価する対象です。

なぜそう見えるのか|選択的な出力が減ると、動きがまとまりやすくなります
随意運動では、皮質脊髄路を含む下降性の神経経路が、必要な筋に必要なタイミングで出力を届けます。とくに手指や手関節の細かな分離運動では、この選択性が重要です。脳卒中でこの出力が低下すると、肩、肘、手をそれぞれ別に調整する余地が小さくなります。
その時に代わりに使われやすいと考えられている経路の一つが、脳幹を通る網様体脊髄路です。この経路は近位部の姿勢や大きな力の発揮にも関わりますが、皮質脊髄路ほど手指を一点ずつ分けて操作するための経路ではありません。肩を支える、腕を重力に抗して持ち上げるといった負荷が増えるほど、肘や手指の屈曲が伴いやすくなることがあります。
McPhersonらは、慢性期の中等度から重度の片麻痺がある25人を対象に、肩外転負荷を増やした課題で脳活動と共同運動を調べました。肩を使う負荷が高くなるほど、非損傷側半球と網様体脊髄系への依存が増え、肘・手関節・手指屈曲が出やすくなるという解釈を示しています。これは共同運動を「努力不足」や「硬い筋肉」だけで説明できない理由です。
ただし、この研究は特定の重症度と課題条件で得られた結果です。一人ひとりの共同運動を、画像所見だけ、あるいは一つの神経経路だけで断定することはできません。感覚、疼痛、関節可動域、注意、疲労、課題への慣れも、見える動きを変えます。
よくある誤解|痙縮、拘縮、痛みと同じ言葉にしないでください
共同運動を正しく扱う第一歩は、似て見える現象を分けることです。痙縮は、筋を素早く伸ばした時に抵抗が増えやすい速度依存性の現象です。拘縮は、筋・腱・関節包などの構造的な短縮により、ゆっくり動かしても可動域が限られる状態です。痛みでは、防御的な筋活動が混ざり、本人が動かしたくても動かせないことがあります。
| 見える現象 | まず確かめること | 共同運動との違い |
|---|---|---|
| 肩を上げると肘が曲がる | 支持量や肩外転負荷で変わるか | 努力した動作条件で関節の連結が再現されやすいです |
| 速く伸ばすと抵抗が強い | 速度を遅くして抵抗が変わるか | 速度依存性が強ければ痙縮の影響を考えます |
| ゆっくりでも伸びない | 他動可動域、終末感、痛み | 拘縮や関節由来の制限を先に考えます |
| 反対側で力を入れると麻痺側も曲がる | 咳、立ち上がり、強い握りで変化するか | 連合反応が重なっている可能性があります |
「筋肉が硬いから伸ばす」と介入を決める前に、条件を変えて現象が変わるかを見ます。受動運動で十分に肘が伸びるのに、腕を挙げた瞬間だけ曲がるなら、可動域だけを増やしても主問題に届かない可能性があります。反対に、安静時から可動域が限られ、痛みも強い場合は、分離運動の練習量を増やす前に、疼痛と関節の状態を評価します。

評価で分けるならこの順番|Activeの8ステップで仮説を確かめます
共同運動の評価は、「肘が曲がった」という結果だけを記録して終わりません。Activeでは、問題点を見つけ、原因を推測し、優先順位をつけ、条件を一時的に変えて仮説を検証し、必要能力を分解して課題を設定し、反復後にアウトカムで再評価します。
- 問題点を具体化します。「棚に手が届かない」ではなく、到達の途中で肩がすくむのか、肘が屈曲するのか、手が開かないのか、どの場面で失敗するのかを記録します。
- 原因を複数挙げます。共同運動、筋力低下、感覚障害、痙縮、疼痛、体幹の不安定さ、注意の低下を候補にします。
- 優先順位を決めます。可動域や疼痛が安全に課題を行う前提を崩していないかを先に確認します。そのうえで、動作を最も制限する条件を選びます。
- 一時的に条件を変えます。前腕をテーブルに置く、肘を支える、肩の挙上角度を小さくする、物を軽くするなどで、肘や手指の分離が変わるかを見ます。これは原因を治す操作ではなく、仮説を確かめる試行です。
- 必要能力を分解します。座位での骨盤・体幹の安定、肩甲帯の位置、肩外転に対する耐性、肘伸展、手関節背屈、手指伸展、視覚と体性感覚の利用を整理します。
- 課題を設定し、反復と再評価を行います。成功率だけでなく、肩負荷、肘角度、手指の開き、体幹代償、疼痛を同じ条件で記録します。
支えを増やして動きがよくなるなら、支えを外すことだけを目標にせず、何を支えると分離が出るのかを手がかりにします。支持面の高さや前腕の支持は、課題の難易度を調整するための道具になります。

評価表|観察を「できた・できない」で終わらせないために
以下は診断用の尺度ではなく、セッション内の観察を揃えるための評価表です。家族が自宅で行う場合は、転倒や肩痛の危険がない範囲にとどめ、強く引っ張ったり、無理に腕を上げたりしないでください。
| 観察場面 | 見る項目 | 仮説につながる所見 |
|---|---|---|
| テーブル上で前へ滑らせる | 肘伸展、手関節背屈、体幹前傾 | 支持下で分離が出れば、抗重力負荷が影響している可能性があります |
| 肩の高さまで前方へ伸ばす | 肩外転、肘屈曲、手指屈曲の同時出現 | 肩負荷で連結が強くなるかを確認します |
| 軽い物をつかんで運ぶ | 把持の開始・解除、到達軌道、速度 | 手指の開閉が到達と干渉するかを見ます |
| 他動で肘と手関節を動かす | 抵抗の速度依存性、終末感、疼痛 | 痙縮、拘縮、疼痛の寄与を分けます |
| 反対側の努力を増やす | 麻痺側の不随意な屈曲 | 連合反応が課題に重なっていないかを確認します |
Fugl-Meyer Assessmentの上肢運動項目は、共同運動のなかでの運動と、共同運動から外れた分離運動を観察する枠組みを持ちます。しかし、点数だけでは食器を棚から取る、衣類の袖へ手を通すといった生活課題の成否までは分かりません。尺度は変化を追うために使い、動作観察は次の課題を決めるために使います。
介入を設計するならこう考える|共同運動を強める条件を調整します
共同運動がある人に、重い物を持って何度も腕を上げる練習をすればよいとは限りません。肩外転の要求が大きすぎると、肘や手指の屈曲が強まり、本人が「伸ばしたい」意図と異なる動きを繰り返すことがあります。まずは、目的の関節を分けて動かせる条件をつくり、そこから負荷を少しずつ上げます。
たとえば、前腕を滑りやすい面に置き、座位で体幹を安定させ、前方にある目標へ手を伸ばします。肘伸展と手関節背屈が出るなら、次は支持面の摩擦や高さを変えます。さらに、物を取る、置く、方向を変えるといった生活に近い目標へつなげます。課題の目的は、見た目を整えることではなく、必要な関節を必要なタイミングで使うことです。
Yaoらの小規模クロスオーバー研究では、慢性期脳卒中の9人で、肩外転負荷の程度によって到達距離と介入への反応が異なりました。この結果は、同じ人でも課題負荷により表れる運動が変わることを示します。「できない」ではなく、「どの負荷なら分離が保てるか」を探すことが課題設定の出発点です。
一方、反復だけで関節分離が必ず増えるとは言えません。疼痛がある、肩の支持性が低い、疲労で姿勢が崩れる、理解や注意に課題がある場合は、課題の前提を調整します。電気刺激、装具、振動刺激なども、目的動作がどう変化するかを確認して選ぶべきであり、機器を使うこと自体を目標にしません。

自宅と生活場面で気をつけること|回数より、条件と安全をそろえます
家で練習する場合は、痛みを我慢して高い位置へ腕を上げ続けないでください。肩がすくみ、肘と手が強く曲がる練習を長く続けると、何を練習したのかが曖昧になります。まずは椅子とテーブルを使い、足底が床につく安定した座位で、前腕が支えられた状態から始める方が、動きの変化を観察しやすくなります。
家族は、麻痺側上肢を強く引っ張らないこと、本人の肩の痛みや表情の変化を確認すること、課題を急がせないことが重要です。介助で腕を動かせても、本人が関節を分けて動かせたことにはなりません。「前腕を置くと肘が伸びやすい」「物を軽くすると手が開きやすい」といった条件をメモすると、次回の評価に役立ちます。
急に麻痺が強くなった、言葉が出にくい、顔のゆがみが出た、強い頭痛や新しい胸痛がある場合は、リハビリを続けず緊急の医療相談が必要です。普段と異なる肩痛、腫れ、赤み、外傷後の変形がある場合も、無理な自主練は避けてください。
変化を見るアウトカム|角度だけでなく、生活で使えるかを確認します
共同運動への介入では、評価とアウトカムを最初に決めます。例えば、テーブル上の到達で「肘がどこまで伸びるか」、肩の高さまで手を伸ばす時に「手指が開いたまま保てるか」、コップを取って置く時に「体幹をどの程度使うか」、その後に「肩痛や疲労が増えないか」を同じ条件で見ます。
上肢のFugl-Meyer Assessment、Action Research Arm Test、Motor Activity Logなどは、目的に応じて組み合わせられます。Fugl-Meyer Assessmentは運動障害の変化、Action Research Arm Testは物品操作を伴う上肢機能、Motor Activity Logは生活での使用量と使用の質を捉える補助になります。一つの点数が上がっただけで、代償ではなく回復が起きたと結論づけないことが重要です。動画、角度、成功率、痛み、本人が実際に使いたい生活課題を合わせて再評価します。
文献からどこまで言えるか|肩の負荷は分離運動を変える可能性があります
共同運動は観察研究と実験課題でよく報告されてきました。Ellisらは慢性期脳卒中の18人を対象に、肩外転トルクを高めると到達可能な作業範囲が小さくなり、肘屈曲との異常な結びつきが増えることを報告しました。McPhersonらは、肩外転負荷に伴う皮質活動と脳幹由来経路への依存増加を示唆しました。これらは、肩を使うほど肘が曲がるという臨床所見の背景を考える助けになります。
一方で、研究室内のトルク課題を、すべての食事・更衣・家事動作へそのまま当てはめることはできません。対象者の重症度、発症からの期間、損傷部位、感覚障害、疼痛、練習歴によって結果は変わります。エビデンスは仮説の優先順位を助けますが、個別の介入を自動的に決めるものではありません。
Activeで見落としやすい分岐|「手が開かない」を手だけの問題にしないでください
Activeで多く確認するのは、机の上では手指が少し開くのに、腕を前へ出した瞬間に手が閉じてしまう分岐です。この場合、手指の筋だけを見ても原因の一部しか捉えられません。座位での体幹保持、肩甲帯の位置、肩外転に必要な出力、肘伸展、感覚情報の利用を順に確認すると、どの条件で分離が失われるかが見えてきます。
逆に、肩の負荷を下げても手が開かず、受動でも手関節や手指の可動域が制限されている場合は、共同運動だけを主因にしない方が安全です。痙縮、拘縮、痛み、浮腫、皮膚状態、装具の適合などを分けて評価します。原因を一つに固定しないことが、遠回りに見えても課題を適切にする近道です。
最後にもう一度|共同運動は、条件を変えて初めて見えてきます
共同運動は、脳卒中後に関節を分けて使いにくくなる現象です。肩を使うほど肘や手指が曲がるという見え方は重要ですが、それだけで痙縮や拘縮と混同してはいけません。問題点を具体化し、複数の原因を挙げ、支持・姿勢・負荷を変えて仮説を確かめ、必要な能力から課題を組み立て、生活動作で再評価します。
「腕が上がるか」だけではなく、「どの条件なら肘を伸ばし、手を開いたまま目的動作を行えるか」を見ることで、練習の難易度をより適切に設定できます。変化の余地は、まず今の条件で何が分けて動かせるかを丁寧に見極めるところから探します。
参考文献
- McPherson JG, Chen A, Ellis MD, Yao J, Heckman CJ, Dewald JPA. Progressive recruitment of contralesional cortico-reticulospinal pathways drives motor impairment post stroke. Journal of Physiology. 2018;596(7):1211-1225. PMID: 29457651. DOI: 10.1113/JP274968.
- Ellis MD, Schut I, Dewald JPA. Shoulder abduction-induced reductions in reaching work area following hemiparetic stroke: neuroscientific implications. Experimental Brain Research. 2007;176(2):288-297. PMID: 17634933. DOI: 10.1007/s00221-007-1029-6.
- Yao J, Drogos J, Veltink F, et al. The effect of transcranial direct current stimulation on the expression of the flexor synergy in the paretic arm in chronic stroke is dependent on shoulder abduction loading. Frontiers in Human Neuroscience. 2015;9:262. PMID: 26029081. DOI: 10.3389/fnhum.2015.00262.
- McPherson LM, Dewald JPA. Abnormal synergies and associated reactions post-hemiparetic stroke reflect muscle activation patterns of brainstem motor pathways. Frontiers in Neurology. 2022;13:934670. PMID: 36299276. DOI: 10.3389/fneur.2022.934670.
- Koh K, Oppizzi G, Baghi R, Kehs GJ, Zhang LQ. Loss of Joint Individuation and Abnormal Synergy Post Stroke in Upper Limb Movements. Neurorehabilitation and Neural Repair. 2025;39(9):715-727. PMID: 40539418. DOI: 10.1177/15459683251340914.
- Crow JL, Kwakkel G, Bussmann JBJ, et al. Are the hierarchical properties of the Fugl-Meyer assessment scale the same in acute stroke and chronic stroke? Physical Therapy. 2014;94(7):977-986. PMID: 24677254. DOI: 10.2522/ptj.20130170.




