「肘を曲げようとすると肩も上がってしまう」「腕を前に出そうとすると、手が握り込んでしまう」——こうした現象を経験されている方は少なくありません。担当のセラピストから「共同運動が出ている」と言われ、どういう意味なのか気になっている方もいるかもしれません。
この記事では、共同運動パターンとは何か、なぜ起こるのか、そしてリハビリでどう向き合うかを整理します。
結論:共同運動パターンとは何か
まず結論から示します。
共同運動パターンとは、脳卒中後に現れる「複数の関節が連動して動く定型的なパターン」です。本来は個別に動かせるはずの関節・筋肉が、ひとつのまとまりとして動いてしまう現象です。上肢では「屈曲共同運動(肩・肘・手首が同時に屈曲方向へ動く)」、下肢では「伸展共同運動(股関節・膝・足首が伸展・内反方向へ動く)」が代表的です。
この現象は意志の弱さや努力不足ではなく、皮質脊髄路(CST)の損傷に伴う神経回路の変化によって生じると考えられています。

共同運動の神経学的背景
CSTとRSTの役割分担
脳卒中後に共同運動が現れる背景として、現在最も支持されている仮説が「網様体脊髄路(RST)の脱抑制」です。通常、一次運動野(M1)はCSTを通じてRSTへの入力を調整しています。RSTは近位筋(肩・体幹・股関節周囲)の粗大な制御に関わる下行性経路で、精緻な随意運動よりも姿勢保持・粗大運動に関与します。
CSTが損傷されると、この調整機能が低下し、RSTが相対的に過剰に活動する状態(脱抑制)が生じると考えられています。その結果、近位筋優位の定型的な収縮パターン——これが共同運動パターンです。
Zaaimi らの研究(2012年, Brain)では、錐体路を損傷させたマカクザルにおいて、網様体脊髄路から屈筋運動ニューロンへの接続が選択的に強化されることが確認されています。また、Karbasforoushan らの研究(2019年, Nature Communications)では、慢性期脳卒中患者において非損傷側の内側網様体脊髄路の完全性増加が上肢障害の重症度と相関することが示されています。ただし、これらの証拠の多くは動物実験や神経画像による間接的な評価であり、「この機序が関与している可能性が高い」という表現が現時点では適切です。

上肢の屈曲共同運動:何が連動するか
上肢の屈曲共同運動は、おおむね以下の要素が一体となって動く傾向があります。
- 肩甲骨:挙上・後退
- 肩関節:外転・外旋
- 肘関節:屈曲
- 前腕:回外
- 手関節・手指:屈曲
「肘を曲げようとすると肩が上がる」「腕を前方へ伸ばそうとすると指が握り込む」といった現象は、この屈曲共同運動の構成要素が連動して活動することで起こります。Dewald & Beer(2001年, Muscle & Nerve)は、片麻痺患者における複数関節をまたぐ異常なトルク連結パターンを定量的に記録しました。なお、これらのパターンには個人差があり、損傷部位・損傷範囲・発症からの経過によって異なります。

共同運動と痙縮の違い
共同運動と痙縮は混同されやすいですが、別の病態です。
痙縮は、他動的に関節を動かした際に速度依存性の筋緊張亢進が生じる現象です。検者が患者の腕を受動的に動かしたとき、素早く動かすほど抵抗が強まる——これが痙縮の特徴です。共同運動は、患者が能動的に随意運動を行おうとした際に、意図しない筋群が連動して活動するパターンです。随意運動の「試み」がきっかけになる点が、痙縮と根本的に異なります。
両者の区別が重要な理由は、介入の方向性が異なるからです。痙縮には筋緊張の調整を目的とした介入が検討されますが、共同運動への対応は「どの課題・どの難易度でどう練習するか」という課題設計の問題です。
Brunnstromステージとの対応
Brunnstrom分類は、脳卒中後の運動回復を6つの段階に記述したものです。共同運動パターンの変化がこの分類の中核をなしています。ステージII〜IIIが、RST脱抑制の影響が最も強く出やすい段階と考えられています。
重要な注意として、Brunnstromは回復の「軌跡の記述」であり、予測モデルではありません。ステージが直線的に進まない患者、上肢と下肢でステージが大きく異なる患者は珍しくありません。あくまで「現在の機能状態の整理ツール」として使うことが重要です。

よくある誤解
誤解1:「共同運動は使わせてはいけない」
共同運動を一律に禁じる考え方は一面的です。CSTの損傷が重篤な段階では、共同運動パターン内での随意収縮が「能動的な筋収縮を引き出せる唯一の手段」である場合があります。問いは「今この患者に、共同運動の活用が次のステップへの橋渡しになるか、固着のリスクになるか」です。
誤解2:「頑張って動かせば共同運動は減る」
神経可塑性は「条件が整えば機能する機構」です。課題の難易度・反復量・フィードバックの質、残存するCST機能の程度が条件になります。Cheung らの研究(2012年, PNAS)では、筋シナジーパターンの変化が障害の重症度と発症後経過時間に対応することが示されています。
誤解3:「共同運動があるから非麻痺側だけで対処すればいい」
麻痺側を使わない習慣が続くと皮質の代表領域が縮小しうるという「習得された不使用」の概念があります。共同運動パターンの範囲であっても、粗大な関与(支える・押さえる・持つ)を日常的に確保することに意味があると考えられています。
リハビリで考えること
共同運動が強い段階(ステージII〜III):共同運動パターンを活用した随意収縮の機会確保を優先します。Lang & Schieber(2004年, Journal of Neurophysiology)が示すように、CSTの残存機能が限られている場合、高負荷・高速度の課題では共同運動パターンがより強固に活性化されやすくなります。難易度の選択が重要です。
選択的運動への移行(ステージIV以上):共同運動が誘発されにくい課題条件(低負荷・低速度・目標明確・フィードバックあり)でのトレーニングが中心になります。「何をするか」よりも「どのように設定するか」が回復か代償かの分岐点になります。
代償と回復の区別:共同運動パターンを用いた粗大把握の達成は「代償」、選択的な随意運動の再獲得は「回復」です。この区別を曖昧にしたまま介入が続くと、代償を強化しながら回復の余地を狭めてしまう可能性があります。

まとめ
共同運動パターンは、CSTの損傷に伴うRSTの脱抑制によって生じると考えられている、定型的な筋活動パターンです。意志や努力の問題ではなく、神経回路の変化に基づく現象です。「共同運動があるから回復しない」でも「頑張れば分離運動になる」でもなく、現在の制限因子を評価で特定し、その結果に基づいて課題を設計することが出発点です。
Activeでは初回から評価によって制限因子を絞り込み、代償か回復かの方向性を明示したうえで課題を設計します。「なぜその練習をしているのか」を理由ごとお伝えすることを大切にしています。
参考文献
- Dewald, J. P., & Beer, R. F. (2001). Abnormal joint torque patterns in the paretic upper limb of subjects with hemiparesis. Muscle & Nerve, 24(2), 273–283. PMID: 11180211
- Zaaimi, B., Edgley, S. A., Soteropoulos, D. S., & Baker, S. N. (2012). Changes in descending motor pathway connectivity after corticospinal tract lesion in macaque monkey. Brain, 135(Pt 7), 2277–2289. https://doi.org/10.1093/brain/aws115
- Karbasforoushan, H., Cohen-Adad, J., & Dewald, J. P. A. (2019). Brainstem and spinal cord MRI identifies altered sensorimotor pathways post-stroke. Nature Communications, 10(1), 3524. https://doi.org/10.1038/s41467-019-11244-3
- Lang, C. E., & Schieber, M. H. (2004). Reduced muscle selectivity during individuated finger movements in humans after damage to the motor cortex or corticospinal tract. Journal of Neurophysiology, 91(4), 1722–1733. https://doi.org/10.1152/jn.00805.2003
- Cheung, V. C. K., Turolla, A., Agostini, M., Silvoni, S., Bennis, C., Kasi, P., Paganoni, S., Bonato, P., & Bizzi, E. (2012). Muscle synergy patterns as physiological markers of motor cortical damage. Proceedings of the National Academy of Sciences, 109(36), 14652–14656. https://doi.org/10.1073/pnas.1212056109
- Brunnstrom, S. (1970). Movement Therapy in Hemiplegia: A Neurophysiological Approach. Harper & Row.
この記事は医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を代替するものではありません。症状については担当医療者にご相談ください。

