手は動くのにコップを落とす、目で見ていればつかめるのに見ないと指の位置が分からない、歩くと足底が床を踏んだ感覚が曖昧になる。脳卒中後には、このような困りごとが起こります。すると「感覚がないから動かない」と一つにまとめたくなりますが、ここには大切な分岐があります。感覚の障害があっても随意運動がまったくできなくなるとは限りません。一方で、感覚の情報が使いにくいことで、動作の正確さ、安全性、練習の進み方が変わる可能性があります。

この記事では、触覚、位置覚、立体認知を分けて考え、運動麻痺、痛み、関節可動域、注意や視覚の問題とどう見分けるかを整理します。当事者とご家族には「何を観察すればよいか」を、理学療法士・作業療法士には「評価から課題をどう設計するか」を持ち帰れる内容にします。

結論!感覚障害があっても、動かない理由を一つに決めません

脳卒中後の随意運動は、筋力だけで決まるものではありません。狙った位置へ手足を動かすためには、運動指令だけでなく、触れた感覚、関節がどこにあるかという位置の情報、視覚、注意、痛み、関節の動かしやすさを、その場で利用する必要があります。

したがって、感覚障害がある人で動作が不安定でも、原因が感覚だけとは限りません。反対に、筋力検査である程度動かせるように見えても、目を閉じた瞬間に位置が分からず、手を探すような動きになるなら、感覚の情報が課題を制約している可能性があります。

ここで区別したいのは、代償と回復です。視覚をよく使って手元を見続けることで食事ができるようになることは、生活では重要な代償です。しかし、視覚を外した条件でも手の位置を推定し、物を扱えるようになったかは別の問いです。どの条件ならでき、どの条件で崩れるかを分けて記録することで、次に必要な練習が見えてきます。

脳卒中後の感覚障害では触覚、位置覚、立体認知を分けて評価することを示す図解

なぜそう見えるのか|動作は感覚入力を使って途中で調整されます

随意運動とは、単に「動かしたい」と思って筋肉を収縮させるだけではありません。たとえばコップをつかむとき、脳は指を閉じる指令を出しながら、指先がコップに触れたか、握る力が強すぎないか、手首が傾きすぎていないかを感覚情報から受け取り、次の動きを調整します。位置覚は、手足を見ていない時間にも関節の位置や動く方向を見積もるための情報の一部です。

脳卒中では、感覚野や視床、白質の経路、あるいは複数のネットワークが関わることで、触覚、痛覚、温度覚、振動覚、位置覚、二点識別、立体認知などに異なる障害が生じることがあります。「しびれがある」という訴えだけでは、どの感覚が、どの課題で問題になるかは決まりません。

米国心臓協会・米国脳卒中協会のガイドラインは、脳卒中後の感覚障害として触覚、視覚、聴覚などを評価することを推奨しています。ガイドラインで示される感覚障害の頻度には研究ごとの幅がありますが、体性感覚の障害は珍しくなく、微細な手の操作や活動・参加の制約と関係します。ここから臨床で言えるのは、動作観察に感覚評価を足す価値がある、ということです。感覚所見だけで生活能力を決めることはできません。

一方、感覚と運動の関係を因果関係として単純化することにも注意が必要です。発症早期の上肢を追跡したZandvlietらの研究では、体性感覚の回復は上肢運動回復のばらつきに関係しましたが、感覚障害が運動回復を一方向に決めると証明した研究ではありません。感覚は「動かない原因候補」の一つであり、運動麻痺と同じではありません。

よくある誤解|しびれ、痙縮、拘縮、運動麻痺は同じではありません

感覚障害と混ざりやすいものを先に分けておくと、評価がぶれにくくなります。

見えている困りごと考える候補評価で確かめたいこと
コップを落とす触覚・位置覚、握力、手指の選択性、注意接触に気づくか、力を調整できるか、見ている時と見ない時で差があるか
手を探すように動かす位置覚、視覚への依存、失調、注意視覚を使える条件と遮る条件で位置を再現できるか
腕が硬くて動かしにくい痙縮、拘縮、筋短縮、疼痛、共同運動速度依存性、他動可動域、痛み、随意運動時のパターン
足を置く位置が安定しない足関節の位置覚、筋力、視覚、前庭、注意、装具条件座位・立位・歩行での差、床面と視覚条件による変化

痙縮は、伸ばす速度が速いほど抵抗が増えやすい上位運動ニューロン症候群の一要素です。拘縮は、関節包、筋・腱などの構造的な変化を含む可動域制限です。筋短縮も独立した要素です。これらを「感覚が鈍いから硬い」と一括りにすると、介入の標的を誤る可能性があります。また、共同運動は選択的な関節運動が難しい状態であり、触覚が保たれていても生じます。

痛みも見落とせません。肩、手指、足部に痛みがあると、本人は感覚が分かりにくいと表現することがありますが、実際には痛みを避ける動作、恐怖、荷重の減少が課題を変えている場合があります。感覚検査の結果と、痛みを伴う動作の失敗を同じ所見として扱わないことが重要です。

脳卒中後に動かない理由を感覚入力、随意性、痛みと可動域に分けて評価する図解

評価で分けるならこの順番|問題点から仮説検証までの8ステップ

Activeでは、評価なくして介入を決めません。感覚障害が疑われるときも、問題点、原因候補、試行、再評価をつなげます。

  1. 問題点を具体化します。「手が使いにくい」ではなく、ボタンをつまむ時、硬貨を探す時、暗い場所で杖を持つ時など、いつ失敗するかを確認します。
  2. 原因候補を並べます。触覚、位置覚、立体認知、運動麻痺、疼痛、可動域、注意、視野、失調を候補にします。
  3. 順位づけをします。その課題を最も強く制約していそうな要素から、短時間で確かめます。
  4. 一時的に条件を変えます。目で見られるようにする、対象物を大きくする、手関節を支える、触れる位置を明確にするなど、仮説に沿った条件を用います。
  5. 必要な能力を分析します。必要なのは触れたことへの気づきか、関節位置の推定か、対象物を識別する力か、あるいは選択的な指の運動かを分けます。
  6. 課題を設定します。感覚だけを切り離して終わらず、実際に使う課題へ段階的につなげます。
  7. 難易度が適切なら反復します。成功しすぎる課題でも、失敗が続く課題でも、何を学習したかが不明瞭になります。
  8. アウトカムで再評価します。感覚検査の点だけでなく、食事、整容、着替え、歩行など本人の生活目標で変化を確かめます。

ベッドサイドでは、左右差の確認だけで終わらせず、非麻痺側を基準に同じ条件で比較します。ただし非麻痺側も脳卒中後にまったく影響を受けないとは限りません。本人の普段の反応、疲労、注意、失語の影響を含めて解釈します。

評価方法は目的に合わせます。軽擦、圧、関節位置の再現、物品の触覚識別、二点識別などは、それぞれ異なる情報をみます。標準化された評価としては、Nottingham Sensory Assessmentの改訂版や、Fugl-Meyer Assessmentの感覚項目が用いられます。尺度の点数は入口であり、点数だけで課題内容を決めません。実際の動作、見える条件と見えない条件、姿勢や支持の違いまで見て初めて仮説を絞れます。

視覚あり、視覚なし、触って確認する条件を比べて脳卒中後の感覚と動作を評価する図解

介入を設計するならこう考える|感覚だけの練習で終わらせません

感覚に焦点を当てた練習は、ただ触る回数を増やせばよいわけではありません。何を区別するのか、本人がどう答えるのか、難易度をどう変えるのか、使う課題へどう戻すのかを決めます。

上肢では、材質や大きさの異なる安全な物品に触れ、見ないで違いを言葉にする、二つから選ぶ、日用品を触って識別する、といった課題が候補になります。位置覚では、療法士が安全な範囲で関節を動かし、位置や動く方向を答えてもらう課題を、視覚の有無や姿勢を変えて組み立てます。ここで大切なのは、正答だけを数えるのではなく、視覚に頼ったか、手を探す動きが出たか、疼痛が増えたかも記録することです。

下肢では、座位での足関節位置の確認だけで歩行練習を決めません。足底の接地を感じにくい人では、立位での荷重の左右差、足部を置く位置、床面が変わった時の歩幅、視線を外した時のふらつきなどを安全に確認します。転倒の危険がある場合、家庭で目を閉じた立位練習や不安定な床面での練習を自己判断で行うことは勧められません。

CareyらのSENSe試験は、発症から6週以上経過した感覚障害のある50人を、感覚識別訓練または非特異的な感覚刺激への反復曝露に無作為化しました。合計10時間の訓練後、感覚識別訓練群は感覚能力の変化で群間差を示し、その差は6週および6か月の追跡でも維持されました。この結果は、構造化した感覚識別課題を検討する根拠になります。ただし、対象者、訓練内容、アウトカムが限られるため、すべての手の使用やADLに同じ大きさの変化が起こることを意味しません。

Turvilleらのシステマティックレビューは、脳卒中後上肢の体性感覚再学習について、研究数と方法のばらつきがあることを示しつつ、感覚識別の変化を支持する結果を報告しました。研究の平均結果を、その人の生活動作への効果保証に置き換えないことが必要です。実際には、感覚練習と目的の動作練習を結び、本人の目標で再評価します。

自宅と生活場面では安全を先に置きます

感覚が鈍い場合、熱さ、鋭い物、強い圧迫、皮膚の傷に気づきにくいことがあります。特に糖尿病、末梢循環の問題、視覚障害が重なる場合は、皮膚トラブルの見落としに注意が必要です。入浴前の湯温、調理時の熱源、装具や靴による圧迫、手指の傷は、視覚で確認する習慣を作ります。

自宅練習は、テーブル上で安定した姿勢を確保し、落としても危険の少ない物品から始めます。感覚を確かめる練習の後は、同じ感覚を生活の目的へつなぐ一つの課題を置きます。たとえば、タオルの材質を見ないで選ぶ練習の後に、タオルをたたむ。硬貨の違いを確かめた後に、財布の中から必要な硬貨を探す、といった流れです。家族は正解を急がせるのではなく、見ていたか、触って確かめたか、疲労で反応が変わったかを観察します。

しびれの急な変化、急な筋力低下、ろれつが回らない、顔のゆがみ、今までと違う強い頭痛などがあれば、リハビリの練習で様子を見るのではなく、速やかな医療相談が必要です。

脳卒中後の感覚練習を触る、選ぶ、使うと生活課題へつなげる図解

変化を見るアウトカム|感覚の正答と生活の変化を並べて確認します

再評価は、初回と同じ条件で行います。感覚所見の例としては、関節位置を正しく答えられた回数、対象物を識別できた割合、二点識別の反応などがあります。しかし、それだけでは生活の意味が分かりません。本人と決めた課題で、たとえば「見続けなくてもコップを持てたか」「ポケットから鍵を探す時間がどう変わったか」「足元を見ずに安全に一歩を置けたか」を確認します。

Ofekらの慢性期脳卒中後の下肢感覚障害を対象とした多施設RCTでは、10回、各45分の明示的感覚再学習と反復曝露を比較し、両群で感覚、バランス、歩行、参加に臨床的に意味のある前後変化が報告されましたが、群間差は示されませんでした。この研究からは、感覚を扱う構造化した練習の可能性が示される一方、どの方法が常に優れるかは結論できません。結果を見て、仮説と課題の難易度を更新することが臨床の中心です。

Activeで見落としやすい分岐|「感じない」と「使えていない」を分けます

Activeで多く確認しているのは、「触っていることは分かるが、物を区別する情報として使えていない」場合です。もう一つは、「位置はある程度分かるが、運動麻痺や共同運動のために、その情報を動作へ反映できない」場合です。どちらも本人には「手が言うことを聞かない」と感じられますが、優先する課題は異なります。

前者では、感覚を言語化し選択へつなぐ練習と、日用品を使う課題を結びます。後者では、可動域、疼痛、選択的運動、姿勢支持を整えたうえで、得られた感覚情報を使う難易度へ進みます。短時間の試行で手の位置、接触の気づき、動作の安定性に変化が出るかを確認し、刺激や補助具を外した後にも同じ変化が残るかを再評価します。一時的に楽になることと、能力が獲得されることは分けて判断します。

最後にもう一度|感覚障害を動作の仮説に変えるために

感覚障害があるからといって、随意運動が一律にできなくなるわけではありません。触覚、位置覚、立体認知のどれが課題に関係するのかを、運動麻痺、痛み、可動域、注意、視覚と分けて評価します。そのうえで、条件を少し変える試行を行い、必要な能力を分析し、生活に近い課題へ反復をつなげます。

感覚の検査は診断名を増やすためではなく、次の課題を具体的にするために行います。何が分からないのか、どの条件で崩れるのか、何を使えば少し変わるのかを確かめ、感覚の点と生活の変化を並べて再評価していきます。

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参考文献

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  3. Turville ML, Cahill LS, Matyas TA, Blennerhassett JM, Carey LM. The effectiveness of somatosensory retraining for improving sensory function in the arm following stroke: a systematic review. Clin Rehabil. 2019;33:834-846. DOI: 10.1177/0269215519829795 PMID: 30798643.
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