「立った直後や最初の一歩で、麻痺側の膝がカクッと折れそうになる」「平地は何とか歩けても、方向転換や疲れた夕方に膝を支えられない」。脳卒中後には、このような膝折れが、歩く距離や外出への自信を小さくすることがあります。
膝折れは、単に大腿四頭筋が弱いから起こる、と決められる現象ではありません。足が床に着く位置、足関節の動き、股関節と体幹の位置、痛み、感覚、注意、装具や杖の使い方が重なり、立脚初期に身体を支えきれない時に見えます。この記事では、脳卒中後の膝折れを、原因の見立て、評価、介入の順に整理します。
結論!膝折れは「膝だけ」の問題にせず、足が着いてから体重を受ける瞬間を見ます
脳卒中後の膝折れでは、膝が曲がった事実よりも、いつ、どの方向へ、何を支えられずに曲がったかを確認します。多くは、麻痺側の足が接地して身体の重さを受け始める立脚初期に目立ちます。しかし、立脚の途中で急に沈むのか、方向転換だけで出るのか、階段を下りる時だけ不安定なのかで、候補となる原因は変わります。
最初に必要なのは、膝を伸ばす練習を急ぐことではなく、膝折れが出る一歩を安全に観察して原因候補を順位づけることです。痛みや転倒の危険がある時は、無理に歩行量を増やさず、手すり、杖、歩行器、介助、装具を含めて安全を先に確保します。

なぜ膝が折れそうになるのか|床反力と身体の位置で膝に必要な働きが変わります
歩行で足が床に接地すると、床から身体へ床反力が返ります。この力が膝関節の前を通るか後ろを通るか、そして体幹と骨盤が足の上にどのように乗るかで、膝を支えるために必要な筋活動と関節のモーメントが変わります。ここでいうモーメントは、関節を曲げる、または伸ばす方向に働く回転の力です。
立脚初期に体幹が後ろに残る、足部が急に底屈して前足部で接地する、麻痺側へ荷重を移せない、膝が曲がる方向の外力を制御できない、といった条件が重なると、膝は安定しにくくなります。麻痺側の膝伸展筋の随意性や筋出力が低いことは一つの候補ですが、筋力検査の値だけで、歩行中の膝の不安定さを説明することはできません。
脳卒中後の歩行を筋骨格モデルで解析した小規模な横断研究では、麻痺側で立脚期の膝伸展筋と足関節底屈筋の力が低く、膝屈筋の力が高いという特徴が報告されています。ただし参加者は9人であり、特定の人の膝折れの原因をこの結果だけで決めることはできません。臨床では、足関節、膝、股関節、体幹を一つの支持連鎖として見る必要があります。
また、深部感覚が低下して足底への荷重や膝の位置を感じにくい場合、本人が膝を伸ばしているつもりでも、接地の瞬間に姿勢を修正しにくいことがあります。疼痛、足関節の可動域制限、疲労、恐怖心、注意の低下も、同じように立脚期の調整を難しくします。膝折れは、運動麻痺と感覚、力学、環境が交わる時に現れる可能性があります。
よくある誤解:反張膝と膝折れは同じではありません
膝が不安定に見えると、「膝が弱い」と一つにまとめられがちです。しかし、膝が曲がって沈む膝折れと、膝が伸び過ぎる反張膝は同じではありません。反張膝では、立脚期に膝が過伸展方向へ移動します。膝折れでは、荷重を受ける時に膝屈曲方向へ崩れ、支えや介助を必要とすることがあります。
見た目が似ていても、接地から立脚中期までの膝角度、足関節の位置、骨盤の移動、本人が取る代償を別に確認します。「膝が伸びない」ように見えても、膝そのものの可動域制限なのか、恐怖から身体を前へ運べないのか、股関節が後ろに残るのか、足関節が急に底屈するのかで、対応は異なります。
もう一つの誤解は、装具を使うと回復の練習ができなくなる、という考え方です。装具や補助具は、必ずしも能力の代わりになるだけのものではありません。転倒を避け、適切な荷重や反復の条件を一時的につくるために使える場合があります。一方で、装具の種類や設定が歩行に合わない場合は、別の場所に過剰な負担を作る可能性もあります。装具を使うかどうかではなく、使った時に何が変わり、何を再評価するかが重要です。

評価で分けるならこの順番です|一歩の中で原因候補を絞ります
Activeでは、まず生活場面を一文で具体化します。たとえば「玄関で方向を変えて右足に体重を乗せると膝が折れ、左手で壁をつかむ」「買い物の帰りで疲れると、麻痺側の立脚時間が短くなる」と記録します。「膝が弱い」だけでは、次の検査や課題を決められません。
| 見る局面 | 観察すること | 考える候補 |
|---|---|---|
| 接地の直前 | 足が前に出る量、踵か前足部か、視線、体幹の位置 | つま先の引っかかり、足関節背屈、恐怖、歩行速度 |
| 荷重応答 | 膝がどの時点で曲がるか、骨盤が足の上に移るか、手すりへの依存 | 膝伸展の随意性、足部の安定、体幹制御、疼痛 |
| 立脚中期 | 膝の角度、下腿の前傾、足底の接地、反対側の振り出し | 足関節可動域、感覚、荷重許容、装具設定 |
| 条件が変わる時 | 速度、方向転換、段差、疲労、二重課題での変化 | 予測的姿勢制御、注意、持久性、環境への適応 |
次に、座位・立位・歩行を切り離さずに確認します。座位で膝を伸ばせることと、歩行中に膝を支えられることは同じではありません。手すりを持った立位で麻痺側へゆっくり荷重を移す、前後に重心を動かす、低い台に足を乗せ下ろす、短い距離を条件を揃えて歩く、といった段階で、いつ不安定になるかを見ます。
仮説を立てたら、支持物、足部の位置、歩行速度、装具、課題の難しさを一つだけ変え、一時的に膝折れがどう変わるかを確かめます。例えば、手すりで上肢支持を増やすと膝折れが減るなら、下肢だけでなく荷重への恐怖や体幹の支持条件が関与している可能性があります。踵接地を作りやすい設定で変化するなら、足関節と下腿の位置を優先して確認します。これは診断を確定する検査ではなく、次に必要な能力を絞るための仮説検証です。

介入を設計するなら、膝を固定する前に「支えられる条件」を作ります
転倒リスクが高い場合は、まず適切な見守りと支持を用意します。その上で、必要な能力を、麻痺側へ体重を移す、足底からの情報を使う、膝と足関節の位置を保つ、体幹を足の上へ運ぶ、次の一歩へつなげる、というように分けます。課題は、膝を意識して伸ばし続けることではなく、生活で必要な支持局面を安全に反復できる形にします。
たとえば、平行棒や手すりで安全を確保し、麻痺側の足の上へ骨盤を小さく移す課題から始めます。膝が急に沈まない範囲で、前後・左右の荷重移動、足部の接地位置、体幹の向きを変えます。次に、短い歩行で接地から荷重応答までを練習し、必要に応じて停止と再開、方向転換、段差へ進みます。痛みの増加、膝折れの頻度、介助量が悪化するなら、負荷を戻して原因仮説を見直します。
慢性期の歩行可能な脳卒中者を対象とした歩行機能の診療ガイドラインは、歩行速度や距離を目標にする場合、個人の心血管状態と安全性を確認した上で、中等度から高強度の歩行練習を提案しています。ただし、この推奨は「膝折れがある人なら高強度にすべき」という意味ではありません。膝折れの原因、見守りの必要性、装具の適合、疼痛、心血管リスクを評価し、安全に反復できる強度と課題を選ぶことが前提です。
AFOについてのメタ解析では、19研究・434人の脳卒中者を統合し、短期または即時の比較で歩行速度、ケイデンス、歩幅などに差が報告されました。ただし、研究ごとに対象者、装具の構造、測定時点が異なり、膝折れへの最適な設定を一律には示していません。膝不安定性に対する装具の系統的レビューも、痛みや転倒など生活上の重要なアウトカムについては質の高い研究が不足していると結論しています。装具は、使った歩行と外した歩行を同じ条件で比べ、本人の安全と目標に沿って判断します。

自宅と生活場面では、膝折れを一人で試さないことが先です
自宅で「膝を鍛えよう」と、支えのない場所で片脚荷重や階段練習を繰り返すことは危険です。膝折れがある時は、転倒だけでなく、膝、足関節、肩、手首への二次的な外傷につながることがあります。急に膝が支えられなくなった、痛みや腫れが強い、しびれが変わった、めまい、胸部症状、意識の変化がある場合は、練習を続けず医療機関へ相談してください。
ご家族は、膝を押して伸ばそうとするよりも、どの条件で起こるかを記録する助けになれます。
- 歩き始め、方向転換、段差、疲れた時のどこで膝折れが出るか
- 足が踵から着くか、前足部から着くか
- 手すりや杖を使うと、膝折れや介助量が変わるか
- 痛み、靴、床の滑り、照明、荷物で変化するか
- 膝が沈む前に、本人が止まる、つかまる、助けを求めることができるか
手すりや歩行器を使うことは、歩行をあきらめることではなく、転倒を避けて必要な活動を続けるための代償戦略です。一方で、支持があれば何ができるかを確認することは、練習で改善を目指せる条件を探す評価にもなります。代償と回復は同じではありませんが、両方を目的に応じて使い分けます。
アウトカムは膝角度だけで終わらせません|生活での支持性を同じ条件で確かめます
再評価では、膝折れの回数だけでなく、どの距離で、どの速度で、どの補助具を用い、どの程度の介助が必要だったかを揃えて記録します。10m歩行テスト、Timed Up and Go、6分間歩行テストなどは変化を読む助けになりますが、数値が上がっても、方向転換や段差で膝が折れるなら生活上の安全性は別に確認します。
本人の目標に沿ったアウトカムを置くことが重要です。例えば「玄関からトイレまで、手すりを使って見守りなしで歩ける」「買い物中に疲れても、膝が沈む前に休憩を選べる」「段差の前で立ち止まり、足の位置を整えられる」といった生活上の変化を、歩行の数値と並べて確認します。
Activeでは、問題点を見つけ、原因候補を推定し、優先順位をつけます。次に、支持物、足部、歩行速度、装具などを一時的に変え、反応から必要な能力を分析します。課題を適切な難易度で反復し、その都度アウトカムを確認して仮説を更新します。膝折れを一つの筋肉の問題にしないことが、転倒を減らし、歩行を生活へつなぐ出発点です。

最後に:膝が折れそうな一歩には、次の評価を決める情報があります
脳卒中後の膝折れは、膝伸展筋の力だけでは説明できません。接地、床反力、足関節、体幹、感覚、疼痛、疲労、環境を一歩の中で見て、原因候補を分けます。安全な支持条件を確保し、何を変えると膝が支えやすくなるかを確かめてから、必要な能力を課題に落とし込みます。
膝を固定することだけ、歩行量を増やすことだけを目的にせず、本人が必要とする移動場面で、どの条件なら安全に体重を支えられるかを見つけます。その条件を少しずつ広げ、同じ方法で再評価することが、回復を目指す練習と生活を守る工夫の両方につながります。
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