# 感覚障害が動作に与える影響 — 脳卒中後のリハビリで見落とされがちな問題
脳卒中後のリハビリで注目されやすいのは運動麻痺です。「手が動かない」「足が上がらない」という問題は外見上分かりやすく、対応を考えやすい側面があります。一方、感覚障害は外から見えにくく、本人も説明しにくいことが多いため、十分に評価・対処されないまま見過ごされることがあります。
しかし感覚障害は、運動機能の回復に直接影響を与える重大な問題です。この記事では、脳卒中後に生じる感覚障害の種類と、それが動作・リハビリに与える影響を整理します。
脳卒中後に生じる感覚障害の種類
感覚は大きく「表在感覚」と「深部感覚」に分けられます。
表在感覚
皮膚表面への刺激を感知する感覚です。
- **触覚**:皮膚への接触を感知する
- **痛覚**:侵害刺激(傷つく可能性のある刺激)を感知する
- **温度覚**:温冷を感知する
脳卒中によってこれらが低下または消失すると、麻痺側の触れた感覚・熱さ・痛みを正確に感知できなくなります。
深部感覚(固有感覚)
関節・筋・腱からの情報をもとに、手足の位置や動きを感知する感覚です。
- **位置覚**:目を閉じた状態でも関節の角度・姿勢が分かる感覚
- **運動覚**:動きの方向・速さを感知する感覚
- **振動覚**:振動刺激を感知する感覚(骨格から感知される)
深部感覚の経路(後索内側毛帯路)は、痛覚・温度覚の経路(脊髄視床路)とは異なるため、「触覚は感じるが位置が分からない」「痛みは感じるが動きの感覚がない」という部分的な感覚障害が生じることがあります。
感覚障害が動作に与える具体的な影響
1. 運動学習の効率低下
運動学習は「動きを試み、その結果(フィードバック)を感知し、次の動きを修正する」というサイクルで進みます。感覚障害があると、このフィードバックが得られにくくなります。
例えば、手で物をつかむ練習をしても、物の硬さ・形状・接触面積などの触覚情報が乏しければ、「どれくらいの力でつかめばよいか」という学習が進みにくくなります。位置覚が低下していれば、「今手がどこにあるか」の情報なしに練習を繰り返すことになります。
感覚障害がある場合、同じ量の練習をしても、感覚が正常な場合と比べて運動学習の効率が落ちる可能性があります。
2. バランス障害への影響
直立姿勢やバランスの維持には、足底の触圧覚・足関節の固有感覚・体幹の位置覚が重要な役割を担っています。
脳卒中後に麻痺側下肢の深部感覚が低下している場合、足が地面に接触したときの情報が正確に得られないため、重心制御が不安定になります。「立っているが怖い」「どこに体重を乗せれば安全か分からない」という訴えは、感覚障害と関係していることがあります。
3. 歩行への影響
歩行は感覚情報と運動指令が連動することで成立します。立脚期の床からの圧力情報・足関節の角度情報・膝の位置感覚が正常に入力されないと、歩行パターンの乱れ・転倒リスクの増大につながります。
深部感覚障害がある場合、補償として視覚依存が高まります(目で足元を見ながら歩く)。暗い場所・視線を上げる必要がある場面でのバランス不安定は、この視覚依存を示している可能性があります。
4. 上肢の物品操作への影響
手で物をつかむ・放す・操作するためには、物との接触情報(硬さ・テクスチャー・重さ)と手指の位置情報の両方が必要です。
感覚障害があると、視覚で補完しながら動作を行うことはできますが、視覚に頼れない状況(引き出しの中を探る・ポケットから物を取り出すなど)での操作が著しく困難になります。
5. 痛みの感知低下による二次的リスク
表在感覚(特に痛覚・温度覚)が低下している場合、やけど・凍傷・圧迫による皮膚損傷に気づきにくくなります。入浴時の温度確認・長時間の同一姿勢を避けるための体位変換など、感覚障害を前提にした生活上の注意が必要です。
感覚障害の評価
感覚障害の評価は、適切な介入方針を決めるために不可欠です。主な評価方法を以下に示します。
表在感覚の評価
- **触覚**:綿球・筆などで刺激し、感じるかどうかを確認する
- **痛覚**:安全ピン等で軽く刺激し、痛みを感知できるか確認する
- **温度覚**:温水・冷水を入れた試験管で確認する
深部感覚の評価
- **位置覚**:閉眼下で、他動的に動かした関節の角度を当てさせるテスト
- **運動覚**:閉眼下で、関節が動かされた方向を答えさせるテスト
- **振動覚**:音叉を骨突出部に当て、振動を感知できるか確認する
統合的な感覚評価ツール
- **Rivermead Assessment of Somatosensory Performance(RASP)**:脳卒中患者の体性感覚を包括的に評価するツール
- **Nottingham Sensory Assessment(NSA)**:触覚・固有感覚・立体認知を評価する
感覚障害があるときのリハビリの工夫
視覚フィードバックの活用
位置覚・運動覚が低下している場合、鏡・ビデオフィードバック・視線を用いた動作確認を補助的に活用することができます。ただし視覚依存を強めすぎると、視覚なしで行動できる場面が制限されるため、段階的に視覚なしでも行える練習へ移行することが目標です。
鏡療法(ミラーセラピー)
非麻痺側の動きを鏡に映し、麻痺側が動いているように見せることで、感覚・運動の皮質表現を刺激する手法です。上肢の感覚障害・痛み(CRPS)に対する効果が研究されています(Moseley et al., 2008; Cochrane Review 2018)。
感覚刺激入力
麻痺側の皮膚への触覚・振動刺激を意図的に増やすことで、感覚野の再組織化を促す可能性が示されています。ただし「刺激を当てればよい」という単純な話ではなく、感覚刺激と動作練習を組み合わせることが重要です。
課題の難易度設定
感覚障害がある状態での運動学習は、感覚が正常な状態より時間がかかります。練習の反復量を増やす・難易度の段階設定をより細かくする・フィードバックをより明示的に与える(言語フィードバック・視覚フィードバック)などの調整が必要です。
よくある誤解
「感覚は戻らないから諦めるしかない」は正確ではない
感覚機能も神経可塑性の影響を受けます。感覚野・感覚経路の再組織化は、適切な感覚刺激と運動との組み合わせによって起きる可能性があります。ただし、運動機能と同様に回復の程度には個人差があり、損傷の部位・程度によって見通しが異なります。
「感覚が戻ったら運動も戻る」は単純すぎる
感覚障害と運動障害は、同じ脳損傷から生じていても独立したメカニズムを持ちます。感覚が回復しても、それだけで運動が自動的に回復するわけではありません。感覚回復と運動練習を組み合わせることが重要です。
まとめ
感覚障害は脳卒中後のリハビリにおいて重要でありながら見落とされやすい問題です。運動学習の効率・バランス・歩行・上肢操作・安全性のすべてに影響を与えます。
感覚障害の有無と種類を評価し、それに合わせたリハビリの工夫(視覚フィードバック・感覚刺激・練習量の調整)を行うことが、効果的な回復支援につながります。
リハビリについてのご相談
脳梗塞・脳出血後の感覚障害・上肢麻痺・歩行の問題でお困りの方は、脳卒中後遺症専門の自費リハビリスタジオActiveにお問い合わせください。
電話: 080-4360-4960
お問い合わせフォーム: https://strokeriha.com/contactform
公式サイト: https://strokeriha.com
参考文献
Carey, L. M., & Matyas, T. A. (2011). Frequency of discriminative sensory loss in the hand after stroke in a rehabilitation setting. Journal of Rehabilitation Medicine, 43(3), 257–263.
Tyson, S. F., Hanley, M., Chillala, J., Selley, A. B., & Tallis, R. C. (2008). Sensory loss in hospital-admitted people with stroke: characteristics, associated factors, and relationship with function. Neurorehabilitation and Neural Repair, 22(2), 166–172.
Doyle, S., Bennett, S., Fasoli, S. E., & McKenna, K. T. (2010). Interventions for sensory impairment in the upper limb after stroke. Cochrane Database of Systematic Reviews, (6).
