今回は、局所振動刺激が脳卒中リハビリにおいてどのように用いられるのか?を痙縮や運動障害(運動麻痺など)、バランスといった面から効果を解説していきます。

今回の局所振動刺激は筋緊張に対して効果がありますが、
筋緊張というものをまず知っておく必要があります。

筋肉には一定の張りがあります。

この張りはなんで必要なのでしょうか?

それが、こちら

姿勢を維持したり動作をうまく行うためにはこの筋緊張という張りが必要になります。

しかしそれが過剰に出てしまう病態があり、

それが脳卒中後に痙縮と呼ばれる症状として出現することがあります。

この痙縮に対して有効とされる介入方法は様々ありますが、その一つは振動刺激です。

運動障害や筋緊張異常(痙縮)への効果

脳卒中後には上肢の運動障害や下肢の運動障害が生じます。

脳卒中後には約 55% ~ 75% は上肢の運動機能障害を患っていると言われています。

Emerson JR, Binks JA, Scott MW, Kenny RPW, Eaves DL. Combined action observation and motor imagery therapy: a novel method for post-stroke motor rehabilitation. AIMS Neurosci. 2018 Dec 21;5(4):236-252.

手足が思うように動かせなくなってしまう原因にはいくつかあり、運動麻痺や感覚障害、筋緊張異常(痙縮、低緊張)、姿勢制御障害(重心の制御ができない、前もって姿勢を調整できない)など多岐にわたります。

このうち、万能なリハビリは現状ありませんが、様々なリハビリがどのような効果があるのかを検討して、目標の達成のために、原因を明確にして最適なリハビリを選択していくことが重要です。

今回はその中でも局所振動刺激が運動障害に及ぼす効果について考えていきます。

上肢に対する局所振動刺激の効果ですが、

この慢性脳卒中患者における上肢痙縮治療に局所筋肉高周波振動を用いた効果を評価したものです。32名の患者(男性21名、女性11名、平均年齢約62歳)が無作為に2つのグループに分けられ、一方は高周波(300Hz)の局所筋肉振動治療を、もう一方は偽療法を受けました。治療は週に3回、各30分、全12セッション行われ、多角的な評価スケールで効果を測定。結果、振動治療群では握力、痛みの軽減、生活の質が統計的に有意に改善し、痙縮も減少しました(P<0.05)。この治療法は、高効率、低コスト、反復可能な使用プロトコルを持つため、慢性脳卒中患者のリハビリテーションに有望な手段とされました

Costantino C, Galuppo L, Romiti D. Short-term effect of local muscle vibration treatment versus sham therapy on upper limb in chronic post-stroke patients: a randomized controlled trial. Eur J Phys Rehabil Med. 2017 Feb;53(1):32-40.

といった報告があります。

理学療法と振動刺激を併用した介入の効果として

rMV (筋振動)+ PT終了後少なくとも2週間持続し、痙縮の軽減と伸展筋の増加が認められた。
痙縮の軽減と運動機能の増加と並行していた。痙縮の程度と皮質内運動量の間に有意な相関がみられた。
PT(理学療法)を併用したrMVは、軽症から中等症の神経リハビリテーションにおける非薬理学的介入として使用できる可能性がある。

Marconi B, Filippi GM, Koch G, Giacobbe V, Pecchioli C, Versace V, Camerota F, Saraceni VM, Caltagirone C. Long-term effects on cortical excitability and motor recovery induced by repeated muscle vibration in chronic stroke patients. Neurorehabil Neural Repair. 2011 Jan;25(1):48-60. 

といった形で、運動障害に対する効果が多く報告されている。

また、

局所振動刺激は、亜急性期脳卒中患者の感覚経路の有効性を高め、感覚運動野の可塑的変化を誘導することによって中枢感覚運動統合を促進することである可能性がある。

Wang L, Wang S, Zhang S, Dou Z, Guo T. Effectiveness and electrophysiological mechanisms of focal vibration on upper limb motor dysfunction in patients with subacute stroke: A randomized controlled trial. Brain Res. 2023 Jun 15;1809:148353.

神経生理学的にも効果が検討されて始めているようです。

使用例として

といった用い方をします。

バランス能力への効果

バランスを保つことは、日常生活において重要な要素です。

実は局所振動刺激の効果としてバランス能力の向上が期待できます。
局所振動刺激は、バランスの向上に効果的な方法として、多くの研究で検証されています。

この刺激は、身体の部位に特定の振動を与えることで、神経系と筋肉を刺激します。
結果として、バランス感覚や筋肉の協調性が向上し、姿勢制御が強化されます。特に足の裏への局所振動刺激は、体幹の安定性を高めるために効果的です。

体重移動や体重負荷トレーニング中に麻痺側の踵と、アキレス腱と前脛骨筋腱にそれぞれ1つずつ振動子がある。アキレス腱と前脛骨筋腱にそれぞれ1個ずつに振動周波数90Hz、刺激振幅15μmで振動刺激を与えるといった内容を1 日 30 分間、週 5 回、6 週間を行った結果、姿勢動揺の軽減が認められた。また、歩行速度、歩調、歩幅、片肢支持時間も改善が認められた。

Lee SW, Cho KH, Lee WH. Effect of a local vibration stimulus training programme on postural sway and gait in chronic stroke patients: a randomized controlled trial. Clin Rehabil. 2013 Oct;27(10):921-31.

といった報告や、

即時的な振動刺激による効果を検討した研究もあります。

脳卒中患者の転倒リスクと姿勢安定性に対する足底振動の即時効果について検討されたが、
立ち上がる能力がある脳卒中患者の足底に15分間局所的な振動を与えることで、脳卒中患者のバランス障害が改善することがわかった。

Önal B, Karaca G, Sertel M. Immediate Effects of Plantar Vibration on Fall Risk and Postural Stability in Stroke Patients: A Randomized Controlled Trial. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2020 Dec;29(12):105324.

バランス能力を高めてから課題指向型トレーニングや歩行練習を行いたいといった場合に、こういった即時効果を狙っていくことも可能な方法になってくると考えられます。

もちろん長期的な効果を検討していくにはまだまだ十分な結果があるとは言えないのですが、こういった方法に加えて、その他のリハビリを組み合わせていくことは一つの考え方として良いのではないか?と考えています。

最後まで読んでいただきありがとうございました!