みなさんこんにちは。
脳梗塞リハビリActiveのこいだです。
当店でもかなりの頻度で活用している振動刺激ですが、効果があるの?
という声をよく耳にします。
多くのセラピストがリハビリ場面で使っている振動刺激ですが、なぜ痙縮や筋緊張の高い方に用いられるのか、どのような仕組みなのか?を理解されている方は、そこまで多くありません。
今回は、振動刺激を臨床でかなりの頻度で使っていると自負している私が、振動刺激について解説していきます!
ぜひ最後まで読んでいってくださいね!
\ こちらでも解説しています! /
振動刺激って何?
一定の周波数(Hz)と振幅(mm)をもったモーターによって発生する機械的振動を、身体の特定部位(筋・腱・皮膚・関節)に外部から加える刺激を指します。
その目的は、感覚受容器(主に筋紡錘や皮膚機械受容器)に機械的な振動刺激を加えることで、脊髄・脳に求心性入力を与え、反射の反応や可塑性(変化)を引き起こすことにあります。
求心性入力とは?
身体の末梢(皮膚・筋・関節・内臓など)から中枢神経(脊髄・脳)に向かって伝わる神経情報のこと。
- 求心性(afferent)=末梢→中枢へ
- 遠心性(efferent)=中枢→末梢へ
例:
- 手を触ったときの「触れた感じ」→ 求心性入力
- 脳が「手を動かせ」と命令する運動指令 → 遠心性出力
脳の可塑性とは?
脳・神経系が経験や外部刺激に応じて、その構造・機能・ネットワークを変化させる能力のこと。
- 「plasticity」は「柔軟に変形可能な性質」を意味します。
- つまり、脳は固定的な配線ではなく、経験や入力によって“形を変える”能力を持つ。
「脳の可塑性(Neuroplasticity)」についてですが。
神経生理学的な定義とその臨床的意味を整理します。
✅ 神経生理学的には3つの階層で定義される
レベル 内容 臨床での意義 ① シナプスレベルの可塑性 神経間の結合強度が変化する(LTP/LTDなど) 学習・記憶・運動再学習の基盤 ② ネットワークレベルの可塑性 複数の神経回路・皮質マップが再編成される 脳損傷後の代償的機能再建(健側運動野の再活性など) ③ 構造的可塑性 神経新生、軸索伸長、樹状突起の再構築など 長期的なリハビリ後の機能改善の根拠
✅ 代表的な神経生理メカニズム
現象 説明 関連研究 LTP(Long-Term Potentiation) 同時発火が続くとシナプス伝達効率が上がる(“fire together, wire together”) Bliss & Lømo, 1973(海馬) LTD(Long-Term Depression) 逆に非同期発火が続くとシナプス効率が下がる 標的筋の抑制にも活用 使わない部位の可逆的な沈静化 不使用により皮質マップが縮小 使わない腕の運動野縮小(ミラーセラピー導入理由)
✅ 脳卒中後の可塑性:何が起こっているか?
時期可塑性の現象 特徴 急性期 自発的な再編成、拡散的な活動 悪い意味でのマルアダプテーションも起こりやすい 亜急性期 活動依存性の再構築が起こる 外部からの刺激が最も有効に働く期間(「可塑性のゴールデンタイム」) 慢性期 可塑性の余地はあるが限定的 反復・課題指向・意図的な運動が必要不可欠 一言で表すならば…
脳の可塑性とは、「使った回路は強くなり、使わない回路は弱くなる」という脳の適応性であり、脳卒中リハビリはその“再配線”を意図的に誘導する過程です。
- Nudo, R. J. (2006). Mechanisms for recovery of motor function following cortical damage. Current Opinion in Neurobiology, 16(6), 638–644. https://doi.org/10.1016/j.conb.2006.10.003
- Kleim, J. A., & Jones, T. A. (2008). Principles of experience-dependent neural plasticity: Implications for rehabilitation after brain damage. Journal of Speech, Language, and Hearing Research, 51(1), S225–S239. https://doi.org/10.1044/1092-4388(2008/018)
振動刺激で筋緊張が抑制される仕組みですが、
結論から先に言うと…
振動刺激は筋肉の中にある「筋紡錘(きんぼうすい)」という感覚器官を刺激し、脳や脊髄の「抑制システム」を活性化させることで筋肉の緊張を下げます。複数の仕組みが重なり合って効果を発揮するんです!
振動がもたらす5つの効果
振動による筋緊張抑制は、実は5つの異なる仕組みによって起こります。順番に見ていきましょう!
①「シナプス前抑制」—神経伝達物質の放出を抑える
振動(80〜100Hzくらい)を筋肉に与えると、筋紡錘から「Ia線維」という神経が高速で発火します。すると脊髄内で「GABA」という抑制性の物質が働き、筋肉を収縮させる指令の伝達をブロック!
例えるなら: 電車のブレーキのようなもの。通常走っている電車(神経伝達)に急ブレーキをかけます。
効果: 振動を与えている間にすぐ現れる即効性があります。
②「ホモシナプス性抑圧」—神経が疲れて伝達効率が下がる
同じ神経(Ia線維)が何度も何度も興奮すると、そのうち「疲れ」のような状態になり、信号伝達の効率が下がっていきます。
効果: 振動後も数分間続く効果があり、特に脳卒中後の痙縮(けいしゅく)改善に役立ちます。
③「ポストシナプティック抑制」—筋肉を動かす神経細胞を直接抑える
振動により一時的に筋肉が収縮すると、今度は「抑制性の介在ニューロン」が活動して、筋肉を動かすα運動ニューロンを抑制します。
主な回路:
- 拮抗筋(反対側の筋肉)を抑制する回路
- 収縮している筋肉自身を抑制する回路
- 再帰的に抑制するレンショウ細胞の回路
効果: 慢性的な筋緊張に効果を発揮しますが、脳卒中などの場合はこの仕組みが弱いことも。
④「筋紡錘感度の低下」—センサー自体が鈍感になる
長時間振動を続けると、筋紡錘というセンサー自体が「慣れ」を起こし、同じ刺激でも反応が鈍くなります。
例えば長時間同じ香りをかいでいると、だんだん感じなくなる「嗅覚の順応」のような現
効果: 筋紡錘の感度が下がることで、筋肉の伸張反射(急に伸ばされたときに反射的に収縮する反応)が弱まり、筋緊張が低下します。
⑤「中枢神経の可塑的変化」—脳や脊髄の回路そのものが変わる
振動刺激を繰り返し与えると、脊髄や脳の回路そのものに「長期抑圧」という変化が起き、過剰な興奮を抑える仕組みが強化されます。
例えるなら: 車の通りすぎる音がうるさい家に住んでいるうちに、その音を無視できるようになる「脳の適応」のような現象。
効果: 継続的な治療で数週間持続する効果が得られ、慢性的な痙縮に特に有効です。
全体像:重層的な抑制システム
これら5つの仕組みは同時並行的に起こり、次のような「抑制カスケード」を形成します:
振動刺激(80-100Hz)
↓
筋紡錘が活性化 → Ia線維が発火 → 脊髄に信号伝達
↓
①②③ 脊髄レベルの抑制メカニズム作動
↓
α運動ニューロンの興奮性低下 → 筋緊張減少
+
④ 筋紡錘自体の感度低下
+
⑤ 脳・脊髄の回路書き換え
↓
結果:短期的&長期的な筋緊張抑制効果
臨床応用のポイント
- 急性期の痙縮: 短時間(10〜15分)の振動で①②の効果を狙う
- 慢性期の痙縮: 定期的な振動(20〜30分×週3回程度)で⑤の効果を期待
- 最適周波数: 80〜100Hz(筋紡錘が最も反応する周波数帯)
- 注意点: 極端な筋緊張がある場合は、医師や専門家の指導のもとで実施を
まとめ
振動刺激による筋緊張抑制は、単なる「筋肉をほぐす」だけでなく、神経系の複雑な抑制メカニズムを活性化させる科学的な根拠のある治療法です。特に脳卒中後の痙縮や慢性的な筋緊張に効果的で、リハビリテーションの現場でも広く活用されています。
専門的な効果のメカニズムを知ることで、自宅でのセルフケアでも効果的な振動器具の使い方ができるようになりますね!