脳卒中後に「歩けるようになりたい」「手をもっと使えるようにしたい」と思ったとき、最初に必要なのは、訓練の種類を決めることではありません。いま困っている動作が、どの条件で、何によって崩れるのかを分けて確かめることです。
立ち上がれるのに歩くとふらつく、手は動くのにコップを落とす、座っているときは安定しているのに方向転換で止まる。見た目が似ていても、運動出力、感覚、関節の可動性、痛み、注意、心肺の余力、環境への適応のどこに主な問題があるかは同じではありません。点数だけでは、この違いは読み切れません。
この記事では、脳卒中リハビリで行う評価を、当事者・ご家族・初学者のPT・OTが同じ地図で理解できるよう整理します。診断のための画像検査と、生活動作を変えるためのリハビリ評価を区別し、結果を次の課題設計へつなげる順番を解説します。
- 結論!脳卒中リハビリの評価は「4つをつなぐ」ために行います
- まず区別したいこと|画像検査とリハビリ評価は役割が違います
- なぜ同じ「動かしにくい」でも中身が違うのか
- 評価で分けるならこの順番|問題点から仮説を絞ります
- 運動機能は「力があるか」だけでなく、分けて動かせるかを見ます
- 感覚は「感じる」だけでなく、動作に使えるかを確かめます
- 歩行とバランスは、転ばなかったかだけで終わらせません
- 生活動作の評価で、練習が暮らしへ届いているかを確認します
- アウトカムは「何が変われば成功か」を先に決めます
- Activeで見落としやすい分岐|評価表を埋めた後に見ること
- 最後に|評価は「できない理由」を固定するためのものではありません
- 次に読むべき記事
- 参考文献
結論!脳卒中リハビリの評価は「4つをつなぐ」ために行います
評価で見るべき4つは、運動、感覚、姿勢・歩行、生活動作です。ただし、4つを別々の点数として並べるだけでは不十分です。実際には「どの動作で困るか」から出発し、その場面で4つがどう関係しているかを確かめます。
| 評価の層 | 確かめること | 次の判断 |
|---|---|---|
| 運動 | 関節ごとに動かせるか、分離して動くか、力を調整できるか | 随意性の不足か、動作の選び方の問題かを分けます |
| 感覚 | 触れた場所、位置、重さや素材の違いを使えるか | 見て補う代償が必要か、感覚を使う課題が可能かを考えます |
| 姿勢・歩行 | 荷重、方向転換、足部の振り出し、反応的な一歩をどう作るか | 筋力だけでなく、可動域、感覚、注意、装具条件を検討します |
| 生活動作 | 食事、更衣、移乗、屋内外の移動をどの程度安全に行えるか | 練習した機能が生活で使えているかを確認します |
評価表の点数は、介入の答えではなく仮説を立てる材料です。例えば歩行速度が遅い結果だけでは、足関節の背屈不足なのか、立脚期の荷重が怖いのか、方向転換で注意が途切れるのかを決められません。同じ速度低下でも、原因が異なれば優先する練習も安全対策も変わります。

まず区別したいこと|画像検査とリハビリ評価は役割が違います
CTやMRI、血液検査、心電図などは、脳卒中の病型、病変、再発リスク、全身状態を医師が判断するために重要です。急に麻痺が強くなった、ろれつが回らない、今までと異なる激しい頭痛や意識の変化がある場合は、運動を試す前に救急対応を含めた医療的評価が必要です。
一方、リハビリ評価は、病変の名前から動作を決めつけず、実際の行為を構成する条件を見つける作業です。脳画像で病変が分かっても、椅子から立つときに骨盤がどちらへ逃げるか、手を伸ばすときに肩甲帯と体幹をどう使うか、靴下を履くときに何で止まるかは、動作を観察しなければ分かりません。
米国心臓協会・脳卒中協会のガイドラインは、脳卒中リハビリを多職種と本人の目標を含む継続的な取り組みとして位置づけています。ここから言えるのは、単発の測定だけで訓練を完結させず、目標、機能、参加場面を同じ計画の中で確認する必要があるということです。
なぜ同じ「動かしにくい」でも中身が違うのか
脳卒中後の動かしにくさには、皮質脊髄路などの下行路の損傷に関連する随意運動の低下だけでなく、共同運動、感覚障害、疼痛、筋短縮、関節拘縮、視空間や注意の問題、心肺の余力低下などが重なることがあります。痙縮、拘縮、筋短縮は同じものではありません。速い他動運動で抵抗が増える現象だけを見て、すべてを痙縮と呼ぶと、原因に合わない介入になり得ます。
例えば、手を前に伸ばせない場面を考えます。肘が伸びない理由は、上腕三頭筋の随意的な出力が小さいことかもしれません。肩の痛みを避けているのかもしれません。前腕回内と手指屈曲を伴う共同運動が強いのかもしれません。また、位置覚が不確かで、見ないと手の位置を調整できないこともあります。一つの見た目に一つの原因を当てはめないことが、評価の出発点です。
Fugl-Meyerらが示した評価体系は、運動機能、バランス、一部の感覚、関節機能を構造化して記録するために作られました。点数は経過の共有に役立ちますが、生活で手を使う能力を直接保証するものではありません。点数の変化と、実際にコップを持てたか、衣類の袖を通せたかを並べて追う必要があります。

評価で分けるならこの順番|問題点から仮説を絞ります
Activeでは、最初から評価表をすべて埋めるのではなく、生活上の問題を一つ具体化します。「歩けない」ではなく、「夕方、室内で方向転換すると非麻痺側へ急いで足を出し、麻痺側の足が遅れてふらつく」のように、場面、目的、失敗の形、介助量を記録します。
- 問題点を見つけます。本人がしたい行為と、実際に止まる瞬間を観察します。動画を用いる場合も、撮影条件と安全確保をそろえます。
- 原因を推測して順位づけします。運動、感覚、可動域、痛み、注意、環境の候補を挙げ、「その動作を最も止めている要因」を仮説にします。
- 一時的に条件を変えて再現します。手すりの高さ、靴、座面高、足部への軽い支持、視覚情報、装具などを安全に用い、動作が変わるかを確かめます。これは効果の断定ではなく、原因仮説を検証するためです。
- 必要な能力を分析し、課題を設定します。例えば方向転換なら、立脚中の荷重移動、次の一歩の準備、視線と注意の切り替えを分けます。
- 反復と再評価を行います。難易度が適切な範囲で反復し、同じ条件でアウトカムを再確認します。
この流れは、Activeの8ステップを動作評価に落としたものです。評価は検査日だけの仕事ではありません。練習中に「どこで崩れたか」「手がかりを減らしてもできたか」を観察し続けることが、次の難易度を決めます。
運動機能は「力があるか」だけでなく、分けて動かせるかを見ます
上肢では、肩をすくめずに前方へ手を出せるか、肘を伸ばすと手指が強く握り込まないか、物に触れた後に力を弱められるかを観察します。下肢では、立脚期に膝や足部がどの位置へ動くか、遊脚期に足先を振り出す余裕があるか、体幹を大きく傾けて代償していないかを見ます。
Fugl-Meyer Assessmentは、共同運動の中でしか動かない段階と、より分離した運動が可能になる段階を記録する助けになります。ただし、高い点数でも実用手として使えるとは限らず、低い点数でも環境調整でできる生活動作があります。運動機能の評価と、ARATやMotor Activity Logのような活動・使用量の評価を組み合わせる理由はここにあります。
発症早期の上肢機能予測では、指の伸展や肩外転などの臨床所見に、必要に応じて神経生理学・画像情報を組み合わせるPREP2が提案されています。Stinearらの207人を対象とした研究は、早期の情報を組み合わせて3か月後の上肢機能を予測する枠組みを示しました。ただし、これは急性期における予測ツールであり、慢性期の個別課題を決めるための単独指標ではありません。
感覚は「感じる」だけでなく、動作に使えるかを確かめます
触覚、位置覚、運動覚、物の形や材質を識別する感覚は、手や足の位置を修正するための入力になります。例えば足底からの情報が不確かだと、立っているときの荷重位置を視覚に頼りやすくなります。手では、触れている物の滑りや重さの変化を使いにくく、握る力を調整しにくいことがあります。
評価では、目を開けた条件と閉じた条件の違い、左右の感覚差、触れた場所を指せるか、関節を少し動かした方向を答えられるかを、体調と安全に配慮して確認します。感覚低下があるからといって、運動練習を止めるのではありません。視覚、触覚、課題の難易度をどのように組み合わせれば、安全に誤差を小さくできるかを考えます。
ここでの誤解は、「手を動かせない原因はすべて感覚障害」あるいは「感覚が鈍くても動きだけ練習すればよい」と二分することです。感覚と運動は相互に影響しますが、痛み、可動域、随意性、注意の問題を同時に分けなければ、課題は設計できません。

歩行とバランスは、転ばなかったかだけで終わらせません
歩行評価では、平地をまっすぐ歩けたかに加え、立ち上がり、開始、停止、方向転換、障害物、疲労後の変化を必要に応じて見ます。10m歩行テストでは、測定区間、助走・減速区間、靴と装具、杖や介助の有無、快適速度か最大速度かをそろえて記録します。条件が変われば、前後比較の意味も変わります。
Berg Balance Scaleはバランス障害を記録する信頼性の高い尺度ですが、BlumとKorner-Bitenskyによる脳卒中を対象としたシステマティックレビューでは、床効果・天井効果が報告されています。点数が高いから反応的な一歩や屋外での安全が十分とは限らず、点数が低いから練習の可能性がないわけでもありません。方向転換、デュアルタスク、予期しない外乱への反応など、その人の生活に必要な条件を追加して見ます。
歩行の代償と回復を同じ言葉でまとめないことも重要です。骨盤を大きく引き上げて足を振り出す、体幹を横へ倒して脚を運ぶ動きは、今の条件でつまずきを避けるための代償になることがあります。安全性や目的に応じて必要な場合もありますが、足関節背屈、膝屈曲、荷重移動が変化した回復とは区別して、どちらを狙うかを明確にします。
生活動作の評価で、練習が暮らしへ届いているかを確認します
機能評価でわずかな変化が出ても、それが食事、更衣、トイレ、入浴、家事、外出へつながるかは別に確かめます。評価時だけ手を使えても、自宅で置き場所が遠い、椅子が低い、急ぐと非麻痺側だけで済ませてしまうなど、生活の条件が使う機会を減らしていることがあります。
家族や支援者には、「できるか」だけでなく「どのくらいの見守りなら安全か」「時間がかかっても本人が行う価値がある部分はどこか」を共有します。介助は減らすことだけが目標ではなく、必要な安全を保ちながら本人が選び、試せる条件を作ることが大切です。
自宅での確認は、転倒や肩痛を招く無理な反復を避けます。ふらつきがある場面を一人で試す、痛みを我慢して肩を引っ張る、体調不良や急な神経症状を訓練で様子を見ることは避けてください。変化が急なとき、胸痛、息切れ、失神感があるときは、医療機関へ相談することが必要です。

アウトカムは「何が変われば成功か」を先に決めます
良い評価は、最初から再評価の方法が決まっています。目的が「屋内を安全に移動する」なら、歩行速度だけでなく、方向転換時の介助量、つまずきの回数、疲れた後のふらつき、本人の恐怖感を記録します。目的が「コップで飲む」なら、把持できた回数だけでなく、こぼれ、手関節の位置、肩痛、家で使った回数を確認します。
アウトカムは、機能、活動、参加の少なくとも二層で設定します。機能だけが変わって生活で使えない場合は、課題が難しすぎる、環境が合わない、本人にとって優先度が低いなどの可能性があります。生活だけが一時的に楽になった場合は、環境調整や代償の効果か、機能そのものの変化かを分けて記録します。
Activeで見落としやすい分岐|評価表を埋めた後に見ること
Activeでは、評価表の点数が変わらないときにも、失敗の形が変わっていないかを見ます。例えば、歩行距離が同じでも、以前は非麻痺側へ強く寄りかかっていた人が、麻痺側へ安全に荷重できる時間が増えているかもしれません。反対に、距離は伸びても、肩痛や疲労が強くなっているなら、負荷設定を見直す必要があります。
もう一つの分岐は、補助具や装具、触れる場所、視線の向け方を変えたときの反応です。条件を変えて動作が良くなったなら、その変化は「能力が回復した」と即断するためのものではありません。どの条件が動作を支えたかを知り、必要な能力を仮説として絞るための情報です。ここから、補助を使いながら課題を反復するのか、先に痛みや可動性へ対応するのかを順位づけます。
最後に|評価は「できない理由」を固定するためのものではありません
脳卒中リハビリの評価は、点数で人を分類するための作業ではありません。本人が大切にしたい動作を起点に、運動、感覚、姿勢・歩行、生活動作のどこに優先課題があるかを考え、試し、再び確かめるための道具です。
原因を一つに決めつけず、問題点を見つけ、仮説を順位づけし、条件を一時的に変え、必要な能力を分析して課題を設定する。この8ステップを繰り返すことで、練習は「何となく続けるもの」ではなく、次に確認すべきことが分かる計画になります。
次に読むべき記事
参考文献
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