脳卒中後に、運動麻痺はそこまで重度ではないものの、動きがぎこちなくADLが低下している方を見たことはないでしょうか?

実は皮質脊髄路は運動に関わりますが、そのほかにも重要な役割があることを知っていますか?

それが感覚の抑制です。

ここから解説していく2点識別覚についてしっかり理解することで、評価や介入の幅が広がっていきますのでぜひ最後まで読んでいってくださいね!

2点識別覚とは

2点識別覚(Two-Point Discrimination)は、触覚に関連する感覚機能の一つで、皮膚に2つの点で刺激を与えたとき、それを「1つの点」として感じるか、「2つの点」として感じるかを識別する能力を指します。この能力は、皮膚の感覚受容器とそれに関連する神経系の機能に依存しており、主に触覚の鋭敏さを評価するために使用されます。

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2点識別覚の基本メカニズム

2点識別覚は、皮膚にある触覚受容器(メルケル盤、マイスナー小体など)が2つの異なる点からの刺激を感知し、それぞれの情報が神経を介して脳の体性感覚皮質(一次体性感覚野、S1)に伝えられることで成立します。脳はこれらの信号を処理し、2つの点として感じるか、1つの点として感じるかを判断します。

この識別能力は、以下の要因に影響されます:

受容器の密度: 皮膚上の感覚受容器の密度が高い部位ほど、2点識別覚の精度は高くなります。例えば、指先や唇のように受容器の密度が高い部位では、非常に近接した2点を区別することが可能です。

皮膚の部位: 体の部位によって2点識別覚の鋭敏さは異なります。一般的に、指先や顔などは非常に鋭敏であるのに対し、背中や腕などでは識別能力が低くなります。

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2点識別覚検査の実施方法

2点識別覚検査は、以下のように実施されます:

1. 患者の目を閉じさせる: 視覚情報が影響しないように、患者に目を閉じてもらいます。
2. 2つの点で刺激を与える: 専用の器具やピンセットを用いて、患者の皮膚に2つの点で同時に刺激を与えます。刺激の間隔は、まず広めに設定し、徐々に狭めていきます。
3. 患者の反応を確認する: 患者に「1つの点」と感じたか「2つの点」と感じたかを報告してもらいます。間隔を狭めていき、患者が「1つの点」として感じる最小の距離を測定します。

皮質脊髄路(CST)は、脳の運動皮質から脊髄の運動ニューロンへと至る主要な神経経路であり、随意運動の制御に重要な役割を果たしています。しかし、脳卒中や外傷などによってCSTが損傷を受けると、運動機能の障害だけでなく、感覚系にも影響が及ぶことがあります。特に、2点識別覚の低下は、CSTの損傷によって生じる感覚障害の一つとして注目されています。

CSTの損傷と感覚系への影響

CSTは、運動制御に関連して感覚入力の調整にも関与しています。

具体的には、CSTは脊髄内の感覚情報処理を調整し、運動指令と感覚情報の統合を行うことで、適切な運動出力を生成します。

CSTが損傷すると、感覚信号の伝達が不完全になり、感覚情報が正確に処理されなくなります。その結果、触覚や2点識別覚の低下が生じ、感覚運動統合が乱れることで、運動の精度や反応が低下することがあります。

シナプス前抑制と感覚制御

シナプス前抑制は、脊髄内で感覚入力を調整する重要なメカニズムです。

CSTは、シナプス前抑制を調整する働きを持ち、一次求心性線維に作用してシナプス前部位での神経伝達物質の放出を抑制します。

これにより、反射活動の調節や過剰な感覚入力の抑制が行われ、滑らかな運動制御が可能になります。

しかし、CSTが損傷すると、シナプス前抑制の機能が低下し、感覚入力が過剰に脊髄に伝達される可能性があります。この結果、感覚の過敏性や運動制御の不安定さが生じ、2点識別覚の精度低下として現れることがあります。

2点識別覚の神経生理学的背景

2点識別覚は、主に体性感覚皮質(S1)によって処理されます。

S1は、皮膚からの触覚情報を処理し、精緻な感覚の区別を行うために重要な役割を果たします。CSTが損傷すると、S1への感覚情報の入力が乱れ、2点識別覚の低下が生じることがあります。

S1は、感覚情報を精密に処理するために、CSTからの入力を必要としていますが、CSTの損傷によってこの情報が不正確になると、感覚と運動の統合がうまく行えなくなり、その結果、2点識別覚の精度が低下することがあります。

2点識別覚検査の臨床的意義

CSTの損傷後に2点識別覚を検査することは、感覚系への影響を評価するための重要な指標となります。

2点識別覚の低下が認められた場合、それはCST損傷による感覚処理の異常を示している可能性があり、感覚と運動の統合に問題が生じていることを示唆します。

感覚処理に問題がある場合、運動機能の回復だけでなく、感覚系の再教育や感覚フィードバックの強化を目指したリハビリテーションが必要になることがあります。

具体的には、触覚刺激を利用した感覚リハビリテーションや、ミラーセラピー、CI療法などが有効であるとされています。

感覚に着眼したリハビリでは、触覚刺激を繰り返し与えることで、感覚の弁別能力を向上させることを目指します。

ミラーセラピーは、鏡を使って健側の動きを観察することで、患側の運動イメージを強化し、感覚運動統合を促進する手法です。

2点識別覚の改善が見られることは、神経可塑性が促進され、CSTの残存機能が活性化されていることを示す可能性があります。これにより、リハビリテーションの進行状況や効果を評価するための重要な手がかりとなります。

2点識別覚の臨床的意義

2点識別覚の評価は、神経系の機能を評価するための重要な手段です。特に、以下のような状況で有用です:

神経損傷の評価: 脳卒中や外傷によって神経が損傷された場合、2点識別覚の低下が見られることがあります。これにより、損傷の程度や影響を評価することが可能です。

感覚障害の診断: 末梢神経障害や脊髄損傷、あるいは皮質脊髄路の損傷などで、感覚が鈍くなる、あるいは識別が難しくなることがあります。2点識別覚の低下は、こうした感覚障害の診断に役立ちます。

リハビリテーションの効果判定: 感覚機能の回復を目指すリハビリテーションの進行状況を評価するためにも、2点識別覚の検査が用いられることがあります。

2点識別覚の限界

2点識別覚検査は、感覚の鋭敏さを測定する有効な手段ですが、いくつかの限界もあります:

主観的評価: この検査は、患者の主観的な報告に依存するため、正確な測定が難しい場合があります。特に、患者が感覚に障害を持っている場合、結果がばらつくことがあります。

検査環境の影響: 検査が行われる環境や器具の使用方法により、結果が異なる場合があります。標準化された手順が重要です。

基礎研究の知見

CSTの損傷と2点識別覚の関連性については、動物実験や脳画像研究などの基礎研究からも多くの知見が得られています。例えば、サルを対象とした研究では、CSTを選択的に損傷させると、手指の2点識別覚が低下することが報告されています(Glees & Cole, 1950)。

また、ラットを用いた研究では、CSTの損傷後に、感覚野の再構築が生じ、2点識別覚の回復と関連することが示唆されています(Xerri et al., 1998)。

ヒトを対象とした脳画像研究においても、CSTの損傷と2点識別覚の関連性が示されています。

例えば、拡散テンソル画像法(DTI)を用いた研究では、CSTの微細構造の変化と2点識別覚の低下が関連することが報告されています(Stinear et al., 2007)。

また、機能的MRI(fMRI)を用いた研究では、CSTの損傷後に、感覚野の活動パターンが変化し、2点識別覚の低下と関連することが示唆されています(Pleger et al., 2006)。

これらの基礎研究の知見は、CSTの損傷が2点識別覚に影響を与えるメカニズムを理解するための重要な手がかりとなっています。また、これらの知見は、臨床現場における評価やリハビリテーションの方針決定にも活用されています。

まとめ

皮質脊髄路の損傷は、運動機能の障害だけでなく、感覚系にも影響を及ぼします。特に、2点識別覚の低下は、CSTの損傷によって生じる感覚障害の一つとして注目されています。

2点識別覚検査は、感覚処理の異常や感覚と運動の統合における問題を評価するための重要な指標であり、リハビリテーション計画の策定や効果の評価においても有用です。

CSTの損傷が2点識別覚に影響を与えるメカニズムについては、シナプス前抑制の機能低下や体性感覚皮質への感覚入力の乱れなどが関与していると考えられています。また、動物実験や脳画像研究などの基礎研究からも、CSTの損傷と2点識別覚の関連性を支持する知見が得られています。

今後は、CSTの損傷による感覚障害のメカニズムをさらに解明し、より効果的なリハビリテーション手法の開発につなげていくことが期待されます。また、2点識別覚検査を含む感覚評価を適切に行い、患者の感覚障害の状態を正確に把握することで、個々の患者に合ったリハビリテーション計画を立案していくことが重要です。

CSTの損傷による感覚障害は、患者のQOLに大きな影響を与える可能性があります。2点識別覚検査を通じて得られる情報を活用し、感覚障害の評価とリハビリテーションを適切に行っていくことで、患者の機能回復とQOLの向上につなげていくことが求められます。

参考文献

  1. Glees, P., & Cole, J. (1950). Recovery of skilled motor functions after small repeated lesions in motor cortex in macaque. Journal of Neurophysiology, 13(2), 137-148.
  2. Pleger, B., Tegenthoff, M., Ragert, P., Förster, A. F., Dinse, H. R., Schwenkreis, P., & Malin, J. P. (2006). Sensorimotor retuning [corrected] in stroke patients with recovery of hand function: a combined TMS and fMRI study. Neurorehabilitation and Neural Repair, 20(4), 440-447.
  3. Stinear, C. M., Barber, P. A., Smale, P. R., Coxon, J. P., Fleming, M. K., & Byblow, W. D. (2007). Functional potential in chronic stroke patients depends on corticospinal tract integrity. Brain, 130(1), 170-180.
  4. Xerri, C., Merzenich, M. M., Peterson, B. E., & Jenkins, W. (1998). Plasticity of primary somatosensory cortex paralleling sensorimotor skill recovery from stroke in adult monkeys. Journal of Neurophysiology, 79(4), 2119-2148.