HANDS(Hybrid Assistive Neuromuscular Dynamic Stimulation)Therapy、
通称HANDS療法は、脳卒中や脳損傷後の片麻痺患者を対象とした治療法です。

この療法の主な目的は、片麻痺患者の手指伸展機能の改善を通じて、日常生活動作(ADL)における麻痺側上肢の実用性を向上させることにあります。

HAND療法とは何?

脳卒中や脳損傷後の片麻痺患者を対象としたリハビリテーションの方法です。

この療法は、特に手指伸展機能の改善に焦点を当てており、患者の日常生活動作(ADL)における麻痺側上肢の実用性の向上を目指しています。

HANDS療法は以下のような特徴を持ちます:

  1. 筋活動の強化: 片麻痺患者における手指の伸筋群(例えば、総指伸筋や長母指伸筋)の筋活動を強化することを目的としています。これにより、grip(握る)やrelease(放す)、pinch(つまむ)などの動作の改善を目指します。
  2. 日常生活への応用: この療法は、患者が日常生活で麻痺側の上肢をより効果的に使えるようにすることを目標としています。これにより、患者の自立性と生活の質が向上することが期待されます。
  3. 特定の条件を満たす患者への適用: HANDS療法は、筋活動が記録可能で、手指の位置覚が失われていない、そして不随意運動がない特定の片麻痺患者に適用されます。
  4. 総合的な評価基準: 患者の選定には、Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)の指標などを用い、患者の運動機能や日常生活での使用能力を評価します。

この治療では、随意運動介助型の電気刺激装置と上肢装具を使用します。具体的には、患者は1日8時間、これらの装置を装着し、この治療を3週間にわたって行います​​。

使用されるデバイスには以下のものが含まれます:

  1. 随意運動介助型電気刺激装置: これは患者の随意運動を支援するための電気刺激を提供します。このデバイスは、患者が標的筋を動かそうとするときにのみ電気刺激を行い、随意収縮を停止すると刺激も停止します。
  2. 上肢装具: 患者の手関節や手指を適切な位置に保持するための装具です。これにより、手指の機能と運動能力の回復を促進します。
HANDS療法

このように、HANDS療法は特定のデバイスを使用して行われ、患者の日常生活での上肢の実用性を改善することを目的としています。この治療法は、日中の活動中に装着し、日常生活での麻痺肢の使用を促進することも重要な部分です。

このように、HANDS療法は、脳卒中や脳損傷による片麻痺に特化したリハビリテーション手法であり、手指の機能回復を通じて患者の日常生活の質を向上させることを目的としています。

HANDS療法の適応は?

具体的には、HANDS療法は以下のような患者に適しています:

  1. 手指の伸展機能に筋活動がある状態の片麻痺患者。この筋活動は表面電極によって記録可能である必要があります。
  2. 総指伸筋(EDC)や長母指伸筋(EPL)など、手指伸筋群のいずれかに筋活動が認められる必要があります。
  3. 手指の位置覚が失われていない患者。位置覚が失われている場合、効果が得られにくいとされています。
  4. 不随意運動(例:ジストニア)がない患者。不随意運動がある場合、それを増強する可能性があるため、HANDS療法は行われません。
  5. Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)のfinger function scoreで1a(集団屈曲レベル)から3点(分離運動は可能だが拙劣)までの患者。痙縮の影響があり、繰り返し動作で伸展が困難な場合でも、分離運動が可能なレベルであれば適応とされます。
  6. 日常生活で使用することを考慮し、近位筋の機能が重要であり、SIASのknee-mouth testで2(麻痺手を胸の高さまで挙げることができる)以上が必要です​​。

HANDS療法の効果は?

HANDS療法の効果についてですが、

2009年にFujiwaraらによって報告された研究結果によれば、慢性期の重度から中等度の片麻痺患者において、3週間のHANDS療法は手指運動機能の有意な改善を示しました。
さらに、日常生活での上肢の実用性の改善も認められています​​。

また

2021年にOshimaらによって報告された研究では、小児期の脳卒中による慢性片麻痺患者を対象に効果が検証されました。この研究では、12名の患者(14歳から38歳)が3週間にわたり治療装置を使用し、日中8時間、できるだけ片麻痺の手を使用するよう指示されました。

研究の結果、全ての患者が治療に完全に従い、有害事象は報告されませんでした。介入後、治療の両方の評価項目が有意に改善され(p < .05)、上肢項目のFugl-Meyer Motor Assessment Scaleの効果サイズは中程度(d = 0.59)でした​​。

この結果は、小児期の脳卒中患者においても、HANDS療法が上肢機能の改善に効果的であることを示唆しています。これは、小児期の脳卒中患者のリハビリテーションにおいて新たな治療法としての可能性を示していると言えるでしょう。

2023年にUedaらによって報告された研究では、慢性期左半身麻痺のある 70 代脳卒中後遺症を患った女性を対象に 1 か月間 HANDS 療法を実施したところ、FMA-UE(21点→28点)、MAL-AOU(0.17点→0.33点)、MAL-QOM(0.08点→0.33点)のスコアと比較して改善が見られた。といった結果が出ています。

慢性期脳卒中患者さんだけでなく、回復期にも適応されるケースも報告され始めており、幅広い時期に対応する療法の一つとなっています。

ただし、適応に関する条件があること、上肢装具とIVESなどの機能的電気刺激機器を8時間以上用いることができる条件、またリハビリを定期的に受けられる環境など必要となるため、なかなか用いることが難しい療法でもあります。

まとめ

HANDS療法(Hybrid Assistive Neuromuscular Dynamic Stimulation Therapy)は、脳卒中や脳損傷後の片麻痺患者の手指伸展機能の改善を目的としたリハビリテーション手法です。

この療法では、随意運動介助型電気刺激装置と上肢装具を使用し、患者は1日8時間、3週間にわたってこれらを装着します。

効果に関する研究では、慢性期の片麻痺患者において手指運動機能および日常生活での上肢の実用性が有意に改善されたことが示されています。

また、小児期の脳卒中患者においても上肢機能の改善効果が確認されており、安全かつ効果的な治療法として注目されています。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

参考文献

Fujiwara T, Kasashima Y, Honaga K, Muraoka Y, Tsuji T, Osu R, Hase K, Masakado Y, Liu M. Motor improvement and corticospinal modulation induced by hybrid assistive neuromuscular dynamic stimulation (HANDS) therapy in patients with chronic stroke. Neurorehabil Neural Repair. 2009 Feb;23(2):125-32. 

藤原俊之. HANDS (Hybrid Assistive Neuromuscular Dynamic Stimulation) Therapy. 神経治療学, 2016, 33.2: 223-226.

Oshima O, Kawakami M, Okuyama K, Suda M, Oka A, Liu M. Effects of hybrid assistive neuromuscular dynamic stimulation therapy for hemiparesis after pediatric stroke: a feasibility trial. Disabil Rehabil. 2021 Mar;43(6):823-827. 

Fujiwara T, Kawakami M, Honaga K, Tochikura M, Abe K. Hybrid Assistive Neuromuscular Dynamic Stimulation Therapy: A New Strategy for Improving Upper Extremity Function in Patients with Hemiparesis following Stroke. Neural Plast. 2017;2017:2350137.