こんにちは。

いつも見ていただきありがとうございます。

理学療法士の戀田(こいだ)です!

脳梗塞・脳出血後に肘が伸びない、指が硬くなり開かない、膝が突っ張ってしまうという方は多くいらっしゃいます。

この問題を引き起こす原因は多岐に渡りますが、大きな要因の一つに「痙縮」があります。

痙縮って聞いたことある方も多いかと思いますが、どれくらいの方が脳卒中後に痙縮を保有されていると思いますか?

実は、

脳卒中後に約20~30%の割合で発症することが報告されています。

そのうち重度の痙縮(Modified Ashworth Scale で3以上のスコア)が見られるのは約9.4%とされており (Zeng et al., 2021)、痙縮は特に上肢(腕)でより多く発症し、時間の経過とともにその重症度が増加する傾向があります。

初回発症から12ヶ月後には、46%の患者で上肢に痙縮が見られたという報告もあります (Opheim et al., 2014)。

痙縮を発症した方は、日常生活活動や生活の質が著しく低下することが多く、痙縮がない患者と比較して運動機能や独立性の低下が見られる (Schinwelski et al., 2019)ため、

痙縮をなんとかしたい、という方はとても多くいらっしゃいます。

ではこの痙縮に立ち向かっていくためには、相手を知ることが重要です。

そのため、まず「痙縮とは何者なのか?」について知っていかなければなりません。

①痙縮とは?

痙縮が起こる理由についてです。

手足の動きは、主に脳や脊髄といった中枢神経から指令や反射によって行われています。

手前にお皿を引いてくるというのは主に脳からの司令、熱いものを触ると手が手前に引っ込むのは脊髄による反射です。

今回説明する痙縮は、上位運動ニューロンと呼ばれる脳や脊髄の神経細胞が損傷を受けることで発生します。上位運動ニューロンは、筋肉の動きや筋肉の張りを制御するための重要な信号を送る役割を果たしていますが、これが損傷を受けると、反射に対して抑制が効かなくなり、筋肉には過剰な興奮が伝わるという、興奮と抑制の信号が乱れてしまい、興奮の指令だけが強くなり常に筋肉が緊張した状態、つまりこわばったり動かしにくい状態である痙縮を引き起こすのです。

②痙縮の具体的な症状

1.速度依存性の筋緊張:

• 痙縮では、関節を動かす速度が速いほど、筋肉の緊張が強くなります。たとえば、腕や脚を急に動かそうとすると、筋肉が強く硬直し、動きを妨げることがあります。

2.反射の誇張:

• 痙縮では、腱反射(たとえば、膝を軽く叩くと足が跳ねる反射)が過剰に強くなり、筋肉が過剰に反応します。このため、意図しない筋収縮が頻繁に起こり、動作が制限されることがあります。

主にこの2つが痙縮だと判断するときに目にみえる体の指標だとされています。

③筋肉はどのように制御されているのか?

早く動かそうとすると筋肉は一瞬固くなります。これはなぜか?理由としては関節の過剰な動き

を避けるためだと考えられます。肘で考えるとわかりやすいのですが、手をついたときに、肘が

伸び切って本来の可動域よりも逆に曲がる形で伸びてしまったらどうでしょう?

きっと関節は骨折したり痛めたりしますよね。勿論靭帯もあるのでそう簡単には傷つきませんが、運動麻痺や感覚障害や筋緊張が弛緩してしまっていたら手をついた、ぶつけたときに伸び切ってしまうかもしれませんよね。それにより関節が壊されてしまうことを避けるためには「筋緊張」が大事になってきます。

④筋緊張についての解説

脊髄の細胞構成と機能

脊髄は、運動と感覚の中枢として働く重要な神経構造であり、以下の主要な細胞が存在します。

 1. **アルファ運動ニューロン(α運動ニューロン)**

アルファ運動ニューロンは、脊髄の前角に位置し、錐外筋を直接支配する神経細胞です。これらのニューロンは、筋肉を収縮させる信号を筋繊維に送る役割を果たします。これにより、意識的な運動や姿勢の保持が可能となります。

– **アルファ運動ニューロンの役割**:錐外筋の収縮を制御し、骨格筋の動きを直接調整します。このニューロンは、大脳皮質の運動野からの指令を受けて動作します。

2. **ガンマ運動ニューロン(γ運動ニューロン)**

ガンマ運動ニューロンは、脊髄の前角に位置し、錐内筋(筋紡錘)を支配する神経細胞です。ガンマ運動ニューロンは、筋紡錘の感度を調整し、筋肉の長さの変化を感知する役割を持っています。

– **ガンマ運動ニューロンの役割**:筋紡錘の感度を調整し、筋肉の張力や伸張反射を管理します。これにより、筋肉の長さが適切に維持され、反射的な筋収縮が行われます。

錐外筋と錐内筋の機能

1. **錐外筋**

錐外筋は、骨格筋の大部分を占め、関節を動かす主要な筋肉です。これらの筋肉は、アルファ運動ニューロンによって制御され、意識的な動きや姿勢の保持に重要な役割を果たします。

2. **錐内筋**

錐内筋は、筋紡錘を構成し、筋肉の長さやその変化を感知する役割を担っています。これらはガンマ運動ニューロンによって支配され、筋紡錘が筋肉の伸長や収縮に適切に反応できるように調整されています。

筋緊張とその調整

筋緊張(トーヌス)は、錐外筋と錐内筋のバランスによって維持されます。アルファ運動ニューロンが錐外筋に収縮信号を送る一方で、ガンマ運動ニューロンが錐内筋の感度を調整し、筋紡錘を通じて筋肉の長さをモニターします。大脳皮質の運動野からの信号がアルファ運動ニューロンとガンマ運動ニューロンに伝わり、筋緊張が適切に保たれるように抑制的な指令が送られます。

⑤痙縮の病態

1. **抑制と興奮のバランスの破綻**

脳卒中などで大脳皮質が損傷を受けると、アルファ運動ニューロンとガンマ運動ニューロンへの抑制的な信号が失われ、これにより筋紡錘の感度が過剰になりやすくなります。一方で、脳幹や脊髄の反射経路は、皮質からの指令なしに興奮を維持できます。この結果、筋肉が過度に緊張しやすくなり、痙縮が生じます。

2. **伸張反射の亢進**

脳卒中後、筋紡錘の感度が高まり、錐外筋が過剰に収縮することで、**伸張反射の亢進**が引き起こされます。これは特に、筋肉が急激に伸ばされた際に顕著であり、筋肉が過剰に反応して強い収縮を引き起こします。これが、速度依存性の痙縮の原因となります。

脊髄内のアルファ運動ニューロンとガンマ運動ニューロンが錐外筋と錐内筋を制御し、そのバランスが筋緊張を維持します。脳卒中後には、このバランスが崩れ、伸張反射の亢進と痙縮が生じます。痙縮の理解と治療には、脊髄内の神経回路とその調整メカニズムを理解することが重要です。

痙縮のメリットとデメリット

痙縮は、一般的にデメリットが多いと考えられますが、特定の状況ではメリットも存在します。

メリット

1. 筋力の維持:

• 痙縮により、筋肉の緊張が保たれるため、完全に筋肉が萎縮してしまうのを防ぐことができます。これは運動麻痺が起こってしまった方にとって、本来の運動指令だけでは筋肉を収縮させることが難しい場合にも、痙縮によって活動を助けてくれるといった可能性があります。その理由の一つとして、これにより、筋肉が全く使えなくなるのを防ぐ役割を果たすことがあります。

2. 体の支え:

• 軽度の痙縮があると、立ち上がったり歩いたりする際に、体を支える補助的な役割を果たすことがあります。たとえば、筋肉がある程度硬直していることで、体を安定させる効果がある場合があります。

3. 関節の動きの制約

 ・痙縮により、肘関節や手関節、場合によっては肩関節を固めることで、本来であれば肩・肘・前腕・手・指といった5つの関節を制御する必要があるところを2つの関節だけ制御すれば良いというような形で、動作の難易度が調整されます。例えば、スポーツにしても最初は動きが硬いですよね。それはある意味硬めなければならない程に、運動の難易度が高く、制御する関節の数を減らし実質的に制御における難易度を下げているという解釈もできます。

デメリット

1. 動作の制限:

• 痙縮によって筋肉が硬直するため、関節が動かしづらくなります。バリエーションが低下してしまったり、定型的なパターンを取りやすく困難となってしまう動作が出てきます。これにより、日常生活の動作が大幅に制限され、歩行や食事などの基本的な動作が困難になることがあります。

2. 痛みや不快感:

• 痙縮はしばしば痛みを伴います。筋肉が長時間緊張していると、筋肉や関節に負担がかかり、痛みや不快感が生じます。また、これが続くと関節や筋肉に損傷を引き起こすこともあります。

3. 合併症のリスク:

• 長期的な痙縮は、関節拘縮(関節が硬くなって動かなくなる状態)や筋肉の萎縮、などのリスクを増加させることがあります。

ではもう一度復習すると、

痙縮というのは「脳からの指令」が絶たれるまたは弱くなる結果、筋肉の緊張をコントロールすることができず、反射を抑制できなくなってしまい筋肉が速度依存的にこわばってしまう病気であることがわかりますよね。

すなわち、痙縮とは随意運動が行えなくなった、または筋緊張が大幅に低下してしまった結果、代償的な要素として体を守る防御的な役割、機能代償としての役割が存在しており、悪ではないのですが、回復していく中で生活にとって邪魔になってしまうことがあります。

では、

改善をするためには何をしたら良いのでしょうか?

それは、

①痙縮の原因である脊髄の興奮性を抑制しつつ、

②筋肉のセンサーである筋紡錘の感度を調整するようなアプローチ

をかけつつ最後には脳からの指令で行われる

③「随意運動」練習が重要なんです。

痙縮は脳卒中後の一般的な症状であり、その治療には複数の戦略が用いられます。これらのアプローチは、脊髄神経細胞、筋紡錘、および中枢神経系の3つのターゲットに焦点を当てています。それぞれについて、以下に詳細に説明します。

脊髄神経細胞に対するアプローチ

脊髄神経細胞に対するアプローチは、主に痙縮を引き起こす脊髄反射弓の異常な興奮性を抑制することを目的としています。以下の方法が効果的です。

•ボツリヌストキシン(BTX-A): BTX-Aは神経筋接合部に作用し、アセチルコリンの放出を抑制することで筋収縮を減少させます。また、脊髄のシナプス伝達にも影響を与え、脊髄の興奮性を抑制する効果があります (Kerzoncuf et al., 2015)。

•体外衝撃波療法(ESWT): ESWTは、筋肉のリモデリングや脊髄神経細胞の興奮性を低下させる作用があります。最近の研究では、ESWTがBTX-Aと同等かそれ以上の効果を持ち、特に上肢の痙縮に対して有効であることが示されています (Wu et al., 2018)。

•振動刺激: 振動刺激は脊髄の反射回路を調整し、脊髄反射の過剰な活性を抑えることで痙縮を軽減します。特に脳卒中後の痙縮において、振動刺激が有効であることが示されています (Xiao et al., 2022)。

•電気刺激(TENS): TENSは、脊髄の反射回路を調整し、神経伝達の興奮性を低下させることで痙縮を軽減します。特に高頻度TENSは、脳卒中後の痙縮患者において効果が確認されています (Koyama et al., 2016)。

筋紡錘に対するアプローチ

筋紡錘の感度を調整するアプローチは、筋肉の張力を直接制御し、痙縮を軽減します。以下の方法が考えられます。

•振動刺激: 筋紡錘の感度を低下させるために振動刺激が用いられます。これにより、筋肉の張力が緩和され、痙縮の軽減が促進されます (Paoloni et al., 2013)。

•ストレッチは筋紡錘の感度を調整し、筋肉の緊張を和らげる効果があります。これにより、筋肉の過剰な収縮を防ぎ、痙縮の管理が容易になります (Picelli et al., 2019)。

•装具: 装具は筋肉や関節を固定し、筋紡錘の過剰な活性を抑制する役割を果たします。これにより、痙縮の管理が効果的に行われます (Santamato et al., 2013)。

中枢神経に対するアプローチ

痙縮は、脳卒中やその他の神経疾患によって脳と脊髄の連携が乱れた結果として生じることが多いです。この状態では、脊髄の神経細胞が過度に興奮し、筋肉が持続的に収縮することがあります。これを制御するためには、脳からの抑制性指令が必要です。

1.随意運動を伴う練習

•随意運動の練習は、痙縮を軽減し、運動機能の回復を促進します。特に、運動イメージトレーニングと組み合わせることで、脳卒中後の患者において効果が確認されています。これにより、脳の可塑性を利用して、運動機能の回復を支援します (Abramovich et al., 2020)。

2.運動イメージ

•運動イメージトレーニングは、実際に運動を行わずに脳の活動を促進する方法で、痙縮の管理に有効です。このアプローチは、脳の再構築を促し、運動機能の回復をサポートします (Bumbea et al., 2023)。

3.課題指向型トレーニング

•課題指向型トレーニング(TOT)は、具体的な運動課題に取り組むことで、脳卒中後の運動機能の回復を支援します。このアプローチは、運動学習を促進し、痙縮の軽減にも効果があります。研究によれば、TOTは上肢の機能回復に特に有効であり、脳の神経回路の再編成をサポートすることが示されています (Winstein et al., 2016)。

4.ミラーセラピー

•ミラーセラピーは、患者が健康な側の運動を鏡を通して観察することで、脳の運動領域を活性化し、麻痺側の運動機能を回復させる手法です。研究では、ミラーセラピーが上肢の痙縮を軽減し、運動機能の向上に寄与することが報告されています。また、課題指向型トレーニングと組み合わせることで、その効果がさらに高まることが示されています (Hung et al., 2018)。

脳卒中後の痙縮に関しては、非常に多くの方が悩まれています。

まだまだわかっていないことも多々ありますが、現状わかっていることを理解した上で、適切なリハビリを提供・受けられる方が一人でも増えることを願っています。

最後までありがとうございました。