脳卒中後に足首や手の「硬さ」が気になる時、超音波療法を勧められることがあります。しかし、超音波を当てること自体を目的にすると、何を変えたいのかが曖昧になります。痙縮、筋短縮、関節の硬さ、痛み、歩行や手の使い方の問題を分けたうえで、超音波療法を短期的な条件調整として扱えるかを判断する必要があります。
この記事では、脳卒中後の痙縮に対する治療用超音波について、研究で確認できることと確認できないこと、評価の順番、課題練習へのつなげ方を整理します。ご本人とご家族には「次に何を見ればよいか」を、PT・OTには「機器を介入設計の中でどう位置づけるか」を示します。
結論!超音波療法は痙縮を直接「治す」道具ではありません
治療用超音波は、脳卒中後の痙縮に対して一律に機能回復を起こすと示された介入ではありません。小規模なランダム化比較試験では、足関節底屈筋に対する連続超音波後に反射興奮性や筋緊張尺度の変化が報告されています。一方、偽超音波との群間比較で、Ashworth Scaleの差が明確でなかった研究もあります。
慢性期の尖足を対象にしたパイロットRCTでは、超音波療法またはTENSとボツリヌス毒素A注射を比較し、足関節の他動背屈可動域とModified Ashworth Scaleは、複数の追跡時点で注射群の方が大きく変化しました。この結果は、超音波療法を局所痙縮の第一選択とみなす根拠にはならないことを示します。
ただし、研究で差が小さいことは、個別の場面で「準備として全く使えない」という意味でもありません。痛み、組織の伸びにくさ、恐怖、関節角度などの条件を短時間変えた直後に、目的動作が安全に変わるかを確認できるなら、次の仮説を考える材料になります。狙うのは機器の使用時間ではなく、その後の歩行や上肢課題で何が変わったかです。

まず分けたいこと:痙縮と「硬い」は同じではありません
痙縮は、上位運動ニューロン症候群に伴い、筋を速く伸ばした時に抵抗が増えやすくなる現象の一つです。筋の長さそのものが短くなっている状態、関節包や腱などの組織が伸びにくい状態、浮腫や炎症に伴う痛み、姿勢を保とうとする随意的な力みとは区別します。
たとえば足首を背屈させにくい時、ゆっくり動かしても早く動かしても同じ角度で止まるなら、筋短縮や関節可動域制限の寄与を考えます。速く動かす時だけ急に抵抗が増え、ゆっくりなら角度が出るなら、速度依存性の反応を含む可能性があります。この二つを分けずに「痙縮が強い」と決めると、超音波、装具、ストレッチ、ボツリヌス毒素、課題練習の優先順位がずれます。
Modified Ashworth Scaleは動かした時の抵抗を簡便に記録できますが、神経性の要因と非神経性の組織抵抗を単独で切り分ける尺度ではありません。Modified Tardieu Scaleでは、速さを変えて到達角度や反応を観察できるため、速度依存性と可動域制限を考える手がかりになります。どちらも、歩行や更衣などの活動を直接測るものではありません。
| 見えている問題 | 確認する視点 | 次の判断 |
|---|---|---|
| 速く動かすと急に抵抗が出る | 速度を変えた時の反応、クローヌス、姿勢 | 神経性の要因を含むかを確認します |
| ゆっくりでも角度が出ない | 他動可動域、終末感、疼痛、腫脹 | 組織・関節・痛みの要因を優先して評価します |
| 歩く時だけつま先が引っかかる | 遊脚期の足関節背屈、膝屈曲、骨盤運動、疲労 | 足関節だけに原因を限定しません |
| 手が開きにくい | 手関節角度、感覚、肩痛、到達の目的、視覚 | 指屈筋の緊張だけで説明しません |
「硬い場所」を探す前に、どの動作のどの局面で困っているかを一文にします。「足首が硬い」ではなく、「室内では歩けるが、疲れると右の遊脚期に足先が床に触れ、方向転換で手すりを握る」のように表現すると、観察すべき条件が具体的になります。
なぜ超音波だけで動作は決まらないのか
治療用超音波は、周波数の高い音波を組織に伝える物理療法です。連続モードでは温熱的な作用が想定され、組織の温度や伸張時の感覚が変わる可能性が考えられています。しかし、脳卒中後の動作は、筋の抵抗だけで決まりません。
歩行なら、立脚期に体重を支える足関節・膝・股関節の協調、遊脚期の足部クリアランス、骨盤の前方移動、体幹の安定、感覚情報、注意の配分、恐怖や疲労が重なります。上肢なら、肩甲帯と体幹の位置、到達距離、手関節の角度、触覚、痛み、物の大きさ、両手を使う必要性が影響します。
超音波後に他動可動域が少し変わっても、その変化が座位、立位、歩行、物をつかんで運ぶ動作で使われなければ、生活上の意味は確認できません。局所の変化と活動の変化を同じものとして扱わないことが重要です。反対に、短時間の条件変更後に足を前へ出しやすくなった、痛みが増えずに手を開けた、介助量が減ったという変化があれば、その時に何が変わったのかを再評価します。

評価で分けるなら、この順番です
Activeでは、機器を使う前に問題点と仮説を整理します。これは、超音波療法を「何となく硬そうだから行う」介入にしないためです。
- 生活場面の問題点を一つに絞ります。歩き始め、段差、トイレ動作、コップを持つ、衣服の袖を通すなど、困る状況を特定します。
- 動作を局面に分けて観察します。いつ、どの方向へ、どの程度の誤差や抵抗が出るのかを見ます。動画を同意のもとで同じ条件に撮ると、変化を比較しやすくなります。
- 原因候補を並べます。速度依存性の抵抗、可動域、痛み、筋力、選択的随意性、感覚、バランス、体力、環境の候補を分けます。
- 安全性と影響の大きさで順位づけします。転倒、皮膚トラブル、強い痛み、急な神経症状がある場合は、練習量より先に医療的な確認を優先します。
- 条件を一時的に変えます。座面の高さ、支持物、靴、装具、休憩、動作速度、必要に応じて超音波療法などを用い、仮説に沿った変化が出るかを確認します。
- 必要な能力を含む課題へつなげます。足関節の背屈だけを反復するのではなく、目的に応じて一歩目、障害物、方向転換、物を運ぶなどの課題を設計します。
- 難易度を調整して反復します。成功だけでなく、どこで崩れるかが見える難易度にします。疲労後に急に危険になるなら、量を増やす前に条件を下げます。
- 同じ条件で再評価します。装具、靴、介助、指示、休憩時間を記録し、時間、距離、誤差、痛み、介助量を比べます。
一時的に動きが変わったことは、効果の証明ではなく、原因候補の順位を更新する情報です。超音波後に可動域が出たなら、温熱や感覚入力で動かしやすくなったのか、安心して力みが減ったのか、測定のばらつきなのかを、同じ動作と別の条件で確かめます。

研究から分かること:小規模試験の結果をどう読むか
Ansariらは、片麻痺性脳卒中の足関節底屈筋痙縮がある12人を、連続超音波または偽超音波に割り付けた単盲検RCTを報告しました。15回の介入後、超音波群ではHmax/Mmax比とAshworth Scaleの群内変化が示されましたが、Ashworth Scaleは群間で統計学的な差に至りませんでした。対象が非常に少なく、短期の生理学的指標と臨床尺度を用いた研究です。歩行や生活動作を長期に変える効果まで示した研究ではありません。
Picelliらの慢性期脳卒中30人を対象としたパイロットRCTでは、下腿三頭筋への超音波療法、脛骨神経へのTENS、ボツリヌス毒素A注射を比較しました。15日、30日、90日の追跡で、注射群は足関節の他動背屈可動域とModified Ashworth Scaleで物理療法群より大きな改善を示しました。超音波群とTENS群の間には有意差が見られませんでした。局所痙縮が明確に生活を妨げる場合は、専門医による治療選択と、その後の課題練習を併せて検討する必要があります。
Radinmehrらは、足底屈筋の痙縮がある脳卒中後32人を対象に、1回の連続超音波と1回の橈骨衝撃波を比較しました。Modified Modified Ashworth Scale、関節可動域、Timed Up and Goなどは各群内で変化しましたが、群間の差は示されませんでした。評価は介入直後と1時間後までであり、超音波の持続効果や生活への転移を結論づける設計ではありません。
これらの研究は、超音波療法の可能性を完全に否定するものではありません。同時に、「超音波をすれば痙縮が改善し、歩行がよくなる」と一般化する根拠にもなりません。介入の直後に何を練習したか、対象者にどの程度の可動域制限や随意性があったか、アウトカムが局所指標か活動指標かを分けて読みます。
介入を設計するなら、超音波の後に何を練習するかを決めます
超音波療法を用いる場合も、実施前に「その後に確認する動作」と「中止する条件」を決めます。たとえば、足関節の背屈が出やすくなるという仮説なら、直後に安全な支持下で一歩目の足部クリアランス、歩行中の膝折れ、方向転換での足の置き方を観察します。上肢なら、痛みが増えない範囲で、手関節の位置を整えながら、物に届く、つかむ、運ぶ、離すという生活に近い課題へつなげます。
課題は、麻痺側の必要な能力を使う設定にします。立位で足首を動かしやすくすることと、非麻痺側へ大きく体重を逃がして安全を保つことは別です。前者を狙う時は、支持物、荷重量、歩行速度、装具の有無を調整しながら、どの局面で麻痺側の足関節が使えているかを確認します。
代償は悪い動きという意味ではありません。転倒を避けて生活を続けるために、手すりや装具、非麻痺側の手を使うことが必要な時もあります。一方で、代償が増えた結果を「痙縮が改善した」「回復した」と混同すると、痛みや疲労、二次的な過負荷を見落とすことがあります。目的動作の達成と、どの能力を回復課題として狙うかを別に記録します。

自宅と生活場面での注意:機器を自己判断で代替しない
家庭用機器を含む物理療法を、「硬さがある時の定番」として自己判断で繰り返すことは勧められません。感覚障害がある場合は、温度や痛みの変化に気づきにくく、皮膚トラブルのリスクを確認しにくいことがあります。腫れ、発赤、強い痛み、急な可動域低下、安静でも続くしびれがある時は、練習や機器の使用を続けず、医療機関へ相談してください。
家族が確認する時は、「今日は硬いか」だけでなく、同じ条件で次を記録すると、評価に役立ちます。
- 椅子から立つ時に、足の位置と手の支えは変わったか
- 室内を歩く時、足先が床に触れる回数、手すり、見守りの必要性は変わったか
- コップや衣服を扱う時、痛み、物を落とす回数、体幹の大きな傾きは変わったか
- その日の直後だけでなく、翌日の生活でも再現できるか
記録は努力を採点するためではなく、次に変える条件を見つけるために使います。転倒につながる不安定さ、胸部症状、急な麻痺や言葉の変化、これまでと異なる強い頭痛がある場合は、リハビリを続ける判断より医療的な対応を優先してください。
アウトカムは「柔らかくなった気がする」を次の判断に変えます
超音波療法の前後で評価するなら、局所の抵抗だけで終えません。目的が歩行なら、同じ靴、装具、補助具、見守り条件で、10m歩行テスト、Timed Up and Go、歩行中の足部クリアランス、疲労後の動き方を確認します。目的が上肢なら、届く距離、把持と解放、痛み、Action Research Arm Testや生活での使用状況などを目標に応じて使います。
測定の条件が違えば、数値の意味も変わります。施術直後だけ速く歩けた場合、疲労、緊張、練習効果、測定誤差などの可能性を考えます。数値が変わらなかった時も、失敗と決める必要はありません。原因の順位づけが違った、課題の難易度が合わなかった、組織の硬さより感覚や体幹の要因が大きかった、医療的な確認が先だった、という情報になります。

Activeで見落としやすい分岐:硬さを下げることと、歩きやすさは別に見る
臨床では、足関節の抵抗が強いと見えると、その部位への介入に注意が集中しやすくなります。しかし、歩行中に足先が引っかかる主な原因が膝屈曲の不足、骨盤の代償、注意を分けた時の姿勢制御、疲労による運動の再現性低下であることもあります。反対に、足関節を動かしやすくしても、立脚期の支持が弱ければ歩行を難しく感じることがあります。
Activeの8ステップでは、問題点を見つけ、原因を推定し、順位づけします。次に、装具、支持物、環境、休憩、必要に応じた物理療法などで条件を一時的に変え、仮説を確かめます。その後に必要能力を分析して課題を設定し、適切な難易度で反復し、アウトカムで再評価します。超音波療法はこの流れの中で検討する補助手段であり、評価を省略する理由にはなりません。
まとめ:超音波療法を使うなら、動作の仮説検証へつなげます
脳卒中後の痙縮に対する治療用超音波について、小規模研究では短期的な指標の変化が報告されています。しかし、対象、比較、追跡期間、アウトカムには限界があり、全員の硬さや歩行を変えると約束できる根拠はありません。
大切なのは、痙縮、筋短縮、可動域、痛み、随意性、感覚、動作条件を分け、超音波後に目的動作がどう変わるかを同じ条件で確かめることです。硬さを減らすことを目標にせず、生活で必要な一歩、立ち上がり、手の使用へつなげる設計にしてください。
次に読むべき記事
参考文献
- Ansari NN, Naghdi S, Bagheri H, Ghassabi H. Therapeutic ultrasound in the treatment of ankle plantarflexor spasticity in a unilateral stroke population: a randomized, single-blind, placebo-controlled trial. Electromyogr Clin Neurophysiol. 2007;47:137-143. PMID: 17557646.
- Picelli A, Dambruoso F, Bronzato M, et al. Efficacy of therapeutic ultrasound and transcutaneous electrical nerve stimulation compared with botulinum toxin type A in the treatment of spastic equinus in adults with chronic stroke: a pilot randomized controlled trial. Top Stroke Rehabil. 2014;21 Suppl 1:S8-S16. PMID: 24722047. DOI: 10.1310/tsr21S1-S8.
- Radinmehr H, Ansari NN, Naghdi S, Tabatabaei A, Moghimi E. Comparison of Therapeutic Ultrasound and Radial Shock Wave Therapy in the Treatment of Plantar Flexor Spasticity After Stroke: A Prospective, Single-blind, Randomized Clinical Trial. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2019;28:1546-1554. PMID: 30935809. DOI: 10.1016/j.jstrokecerebrovasdis.2019.03.008.
- Gillard PJ, Sucharew H, Kleindorfer D, et al. The negative impact of spasticity on the health-related quality of life of stroke survivors: a longitudinal cohort study. Health Qual Life Outcomes. 2015;13:159. PMID: 26459302. DOI: 10.1186/s12955-015-0340-3.
- Wissel J, Manack A, Brainin M. Toward an epidemiology of poststroke spasticity. Neurology. 2013;80:S13-S19. PMID: 23319499. DOI: 10.1212/WNL.0b013e3182762448.
- Winstein CJ, Stein J, Arena R, et al. Guidelines for Adult Stroke Rehabilitation and Recovery. Stroke. 2016;47:e98-e169. PMID: 27145936. DOI: 10.1161/STR.0000000000000098.




