こんにちは、脳梗塞リハビリActive代表の戀田です。いつもご視聴いただき、ありがとうございます。
今日は、リハビリの現場でよくいただく質問の一つにお答えします。
「麻痺が重いほど、歩くのも難しくなるのはなぜですか?」
この疑問を、できるだけわかりやすく、でも医学的にも正確に整理してお話ししていきます。
結論から言うと、歩行は「足が動く」だけでは成立しません。実際には、体を支える力、バランス、感じる力、そして脳からの指令の通りやすさ。この全部が同時に必要なんですね。
だから、麻痺の重症度が上がるほど、歩行に必要な条件がまとめて崩れやすくなります。
そもそも「麻痺の重症度」って何を表しているのか
病院やリハビリでは、麻痺の重症度を点数で評価することがあります。その代表が**「Fugl-Meyer Assessment」**という検査で、下肢の運動機能も点数化されます。
この下肢の点数が高いほど、動かす力や、関節を分けて動かす力が保たれている可能性が高い。逆に点数が低いほど、歩行に必要な”土台”が崩れている可能性が高い、という見方ができます。
実際、慢性期の脳卒中患者さんで、下肢のFugl-Meyerの点数が移動能力の水準と関連する、という報告があります(Kwah, 2019)。
ここで大事なのは、点数そのものというより、その点数が「歩くための条件がどれくらい揃っているか」を反映しやすい点です。
理由1:体を支える力が不足しやすい
歩行は、必ず片脚で体重を支える時間があります。このとき麻痺側で支える力が弱いと、体は不安定になります。
不安定になると、無意識に次のような安全戦略になりやすいです:
- 非麻痺側へ体重を逃がす
- 歩幅を小さくする
- 歩行速度を落とす
歩行速度を決める要因として、筋力や運動機能が重要な予測因子になりやすい、という整理は複数のレビューでも繰り返し示されています(Moore, 2022)。
つまり、麻痺が重いほど「支える力が弱い」可能性が高く、結果として歩行が遅くなりやすい、という関係がまず一つあります。
理由2:バランスと体幹の安定が崩れやすい
歩行は”足の運動”に見えますが、実際はバランスの連続です。特に重要なのが、体幹が安定していることと、立位バランスが保てることです。
慢性期の脳卒中患者さんを対象に、バランス指標(Berg Balance Scale)や体幹指標(Trunk Impairment Scale)が、10m歩行速度などの歩行能力と関係する、という報告があります(Inaba, 2016)。
また別の研究では、発症後の体幹機能が、その後の機能回復の予測に関わる、という点も示されています(Verheyden, 2006)。
麻痺の重症度が高いほど、体幹の反応や立位バランスも一緒に崩れやすいことが多い。その結果として、歩行の安定性が落ち、杖や手すりが必要になったり、速度が上がりにくくなったりします。
理由3:「感じる力」が落ちると、体重移動が怖くなる
歩行で大事なのは、次のような感覚情報です:
- 今どこに体重が乗っているか
- 足の裏がどう接地しているか
- 関節がどの角度にあるか
麻痺が重いケースほど、運動だけでなく感覚も一緒に障害されていることがあり、その場合は「麻痺側に体重を乗せた瞬間にふらつく」「怖い」という状態になりやすいです。
感覚と運動、バランス、歩行が一体として関連する、という見方は、歩行とバランスの評価を扱う文献でも繰り返し述べられています(Niewolak, 2025)。
ここは気合いの問題ではなく、情報が入ってこないから制御できない、というシンプルな話です。
理由4:脳からの「運動指令」が通りにくいほど、歩行の自由度が減る
歩行って、実は“同時にいろいろやる”動きです。股関節、膝、足首をタイミングよく曲げ伸ばしして、体重移動を作って、転ばないように調整する。
麻痺が重いということは、脳から筋肉への指令が通りにくい範囲が大きい可能性があり、そうなると、関節を分けて動かす自由度が減って、代わりに動きが固まりやすくなります。
この「初期の運動機能やバランスが、その後の歩行回復の予測に強く関わる」という整理は、脳卒中後の歩行回復の総説でも重要点としてまとめられています(Moore, 2022)。
つまり、麻痺の重症度は、単に”力が弱い”ではなく、脳の制御の細かさがどれだけ残っているか、にも関係してくるわけです。
ここが希望ポイント:関係は強いが「決まりきる」わけではない
ここで一つ、すごく大事なことをお伝えします。麻痺の重症度と歩行は関係があります。ただし、それで全部が決まるわけではありません。
同じ重症度でも、次のような条件で歩きやすさは変わります:
- バランスの戦略
- 体幹の使い方
- 感覚の残り方
- 疲れやすさ
だから、今日の話は「あなたはこの点数だから無理」という話ではなくて、「歩行には、必要な条件がいくつもある。だから、どこがネックかを丁寧に見るのが大事」という整理です。
まとめ
今日のまとめです。なぜ麻痺の重症度と歩行が関係するのか。理由は主に4つです。
1つ目:支える力が不足しやすい。
2つ目:バランスと体幹の安定が崩れやすい。
3つ目:感じる力が落ちると体重移動が難しくなる。
4つ目:脳からの運動指令が通りにくいほど動きの自由度が減る。
この4つが重なるほど、歩行は難しくなりやすい。でも逆に言えば、何が足りていないかが見えれば、道筋は作れます。
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参考文献(APA形式)
Inaba, Y., et al. (2016). The contributions of balance to gait capacity and motor function in chronic stroke. Journal of Physical Therapy Science, 28(6).
Kwah, L. K., Herbert, R. D., Harvey, L. A., Diong, J., & others. (2019). Threshold scores on the lower-extremity Fugl-Meyer Assessment for clinically important mobility outcomes after stroke. PubMed.
Moore, S. A., et al. (2022). Current evidence for walking recovery after stroke, future directions, and the importance of motor control and balance measures. Stroke.
Niewolak, K., et al. (2025). Assessment of postural control and gait in patients with stroke. (Open-access review).
Verheyden, G., Nieuwboer, A., Mertin, J., Preger, R., Kiekens, C., & De Weerdt, W. (2006). Trunk performance after stroke: An eye catching predictor of functional outcome. Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry.
