こんにちは!Activeの理学療法士こいだです!

当店では、杖の専門店「近江一文字愛知豊橋店」も店内一部で運営しております。

そこで、「杖ってあまりいいイメージないんだよね」「杖を使わないで歩けたほういい」「杖はあまり意味を感じない」と言ったマイナスイメージを持たれている方が医療従事者だけでなく一般の方にも多い印象です。

なので、

今回は脳卒中認定理学療法士が、脳卒中後遺症の方を対象とした研究から、
「杖を使うことで得られる効果」について解説していきます。

杖を使うことで得られる効果がわかれば、杖を使うことにマイナスなイメージだけでなく、

必要な場合には使うのも有りかもしれない!と思っていただけるかと思います!

ではいってみましょう!

杖の使用が脳卒中患者の歩行に与えるポジティブな影響

脳卒中は、突然の脳血管の障害により起こり、身体の一部に麻痺や感覚の障害を引き起こすことがあります。

特に、片麻痺(体の片側が麻痺する状態)を経験される方は、日常生活においてさまざまな困難に直面します。その中で、歩行は最も基本的かつ重要な活動の一つです。

この記事では、杖を使用することによって脳卒中後の片麻痺を持つ患者さんの歩行がどのように改善されるかについて解説します。

杖使用の効果①

Kuan, T., Tsou, J., & Su, F. (1999). Hemiplegic gait of stroke patients: the effect of using a cane.. Archives of physical medicine and rehabilitation, 80 7, 777-84 .

こちらの論文では、

  1. 歩行時の歩幅の拡大:杖を使うことで、歩幅が広がります。これは、安定した歩行に直結し、転倒のリスクを低減させます。
  2. 患側のステップ長の増加:片麻痺のある側の足のステップ長が増えることで、よりバランスの取れた歩行が可能になります。
  3. 腰部の傾斜と股関節の外転の増加:杖の使用により、腰部の傾斜や股関節の外転が増加し、それにより歩行時の安定性が向上します。
  4. 足首の外反の動きの増加:歩行時に足首の動きが活発になることで、より自然な歩行パターンを実現します。

という効果があると報告しています。

脳卒中患者さんがより効率的に、そして安全に歩行するための大きなサポートとなります。特に、プレスイングフェーズ(足を地面から離す直前のフェーズ)での押し出しを強化し、
スイングフェーズ(足を前に振り出すフェーズ)での円滑な歩行を促進します。

杖使用の効果②

脳卒中片麻痺者の杖歩行では、杖、麻痺側、非麻痺側を含めた 3 点の接地期(tripod support phase)が歩行周期の大半を占めます。

そこで杖の効果として得られるものとして、

  1. ストライド長は増大し、特に麻痺側の歩幅が増大する
  2. 歩行の左右非対称性が改善する
  3. 麻痺側の関節角度が正常に近づく
  4. 杖歩行練習の効果について,4 か月間の杖歩行 練習により,杖への荷重量が減少し,歩行中の麻痺側中殿筋と内側広筋の活動量,麻痺側単脚支持期時間と歩行速度が増大する

などが確認されています。

③杖使用の効果③

変形性股関節症患者の杖歩行についてですが、

  1. ケイデンスが減少する
  2. ストライド長が増大する
  3. 立脚初期と立脚後期の膝内転モーメントが減少→歩行中の痛みと膝の内反が改善
  4. 杖を使い始めには酸素消費量が増大するが2ヶ月使用すると、デメリットは改善する可能性がある
  5. 杖への荷重量の増加に伴い
  6. 外部膝関節内反モーメントの減少率も高くなる
  7. 杖歩行時の膝内側荷重量の免荷率は12.4%、強くつくよう指示した時は38.2%となる
  8. 杖に6kg加重することで膝への合力が約34%減少する

など膝への負担を軽減することや、歩行に対しても良い効果が得られる可能性が期待されています。

まとめ

脳卒中は突然の脳血管障害が引き起こす深刻な健康問題で、多くの場合、身体の片側に麻痺や感覚障害をもたらします。特に、片麻痺を抱える脳卒中患者にとって、日常生活における歩行は大きな挑戦となります。しかし、杖を使用することで、これらの困難に対処し、歩行の質を向上させることが可能です。

研究によると、杖を使うことで歩幅が広がり、ステップ長が増加し、腰部の傾斜や股関節の外転、足首の外反の動きが増加することが示されています。これらの変化は、歩行時の安定性を高め、転倒リスクを減らすだけでなく、より自然で効率的な歩行パターンを促進します。また、杖を使うことで、歩行の左右非対称性が改善され、麻痺側の関節角度が正常に近づきます。さらに、杖歩行練習により、歩行速度と麻痺側の筋活動が増大することも確認されています。

変形性股関節症患者における杖使用の研究からも、歩行中の痛みや膝の負担を軽減し、効率的な歩行をサポートする効果が示されています。これらの成果は、脳卒中患者のリハビリテーションにおける杖使用の重要性を強調しています。杖は単なる支援道具ではなく、脳卒中患者が自立した生活を送るための重要なキーとなるのです。

この研究は、脳卒中患者やそのケアを担う医療専門家にとって、歩行能力の回復と日常生活の質の向上に向けた希望の光を示しています。杖を使ったリハビリテーションがいかに有効であるかを理解し、積極的に取り入れることで、脳卒中患者の生活の質を大きく改善できる可能性があります。

参考文献

Kuan, T., Tsou, J., & Su, F. (1999). Hemiplegic gait of stroke patients: the effect of using a cane.. Archives of physical medicine and rehabilitation, 80 7, 777-84 .

Chen, C. L., Chen, H. C., Wong, M. K., Tang, F. T. and Chen, R. S.: Temporal stride and force analysis of cane- assisted gait in people with hemiplegic stroke, Archives of Physical Medicine and Rehabilitation, 82(1), 43-48, (2001).

Beauchamp, M. K., Skrela, M., Southmayd, D., Trick, J., Kessel, M. V., Brunton, K., Inness, E. and McIlroy, W. E.: Immediate effects of cane use on gait symmetry in individuals with subacute stroke, Physiotherapy Canada, 61(3), 154-160, (2009).

Jung, K., Kim, Y., Cha, Y., In, T. S., Hur, Y. G. and Chung, Y.: Effects of gait training with a cane and an augmented pressure sensor for enhancement of weight bearing over the affected lower limb in patients with stroke: a randomized controlled pilot study, Clinical Rehabilitation, 29(2), 135- 142, (2015).

Simic, M., Bennell, K. L., Hunt, M. A., Wrigley, T. V. and Hinman, R. S.: Contralateral cane use and knee joint load in people with medial knee osteoarthritis: the effect of varying body weight support, Osteoarthritis and Cartilage, 19(11), 1330-1337, (2011).

Jones, A., Silva, P. G., Silva, A. C., Colucci, M., Tuffanin, A., Jardim, J. R. and Natour, J.: Evaluation of immediate impact of cane use on energy expenditure during gait in patients with knee osteoarthritis, Gait & Posture, 35(3), 435-439, (2012).

Jones, A., Silva, P. G., Silva, A. C., Colucci, M., Tuffanin, A., Jardim, J. R. and Natour, J.: Impact of cane use on pain, function, general health and energy expenditure during gait in patients with knee osteoarthritis: a randomised controlled trial, Annals of the Rheumatic Diseases, 71(2), 172-179, (2012).