今回も論文を紹介していきたいと思います。今回は、後進トレッドミル歩行トレーニングが歩行能力に与える影響について、紹介していきます。

研究の背景

脳卒中後のリハビリテーションは、患者の日常生活へ重要な役割を果たします。最近の研究では、特に歩行能力の回復が注目されており、新たなトレーニング方法が試されています。通常の前進歩行トレーニングだけでなく、後進歩行トレーニングも含めることで、より効果的なリハビリテーションが可能といわれています。

方法

対象者は脳卒中を発症して6ヵ月以上経過した36名で、除外項目は関節拘縮、疼痛、骨折、半盲がないことでした。対象者を、前進歩行・後進歩行・両方の組み合わた歩行の3群に無作為にグループ分けしました。トレーニングは、体重支持型トレッドミルを使用し、1日30分間、週6日3週間行われました。歩行能力の評価は、トレーニング前と3週間後、またトレーニング開始から6週間後にも行いました。

体重支持の程度はトレーニングの最初の週に体重の40%、2週目に30%、3週目に20%へと段階的に減少させました。歩行速度については、最初に地上で歩行する際に適切と考えられるトレッドミルの歩行速度を選択し、患者が20秒以上安定して歩けるようになったら、トレッドミルの歩行速度を毎回0.1キロメートル/時ずつ増加させました。

トレーニング前の参加者の平均前進歩行速度は0.6~1.0キロメートル/時で、3グループ間に有意な差はありませんでした。

表1:参加者の一般的な特性

特性前進・後進歩行グループ (n=12)前進歩行グループ (n=12)後進歩行グループ (n=12)
年齢(年)51.00 ± 14.6052.75 ± 9.2150.25 ± 16.69
発症からの期間(月)11.33 ± 3.7611.00 ± 4.2211.83 ± 3.46
性別(男性)8 (66.7%)8 (66.7%)9 (75.0%)

結果

表2:3つのグループ間での歩行能力

測定項目前進・後進歩行グループ前進歩行グループ後進歩行グループ
ASL(患側の歩幅・cm)
0週41.67 ± 5.9741.44 ± 8.5741.72 ± 7.81
3週48.64 ± 5.06*†2344.33 ± 8.70*†144.88 ± 9.72*†1
6週50.33 ± 5.25*‡346.62 ± 7.95*‡48.88 ± 10.25*‡1
AStP(患側の立脚相・%)
0週68.43 ± 5.5368.56 ± 4.7668.60 ± 6.79
3週65.93 ± 3.58*†64.96 ± 5.11*†65.19 ± 6.47*†
6週65.02 ± 4.2964.87 ± 5.3164.69 ± 8.65
ASwP(患側の振り足相・%)
0週31.58 ± 5.5331.44 ± 4.7631.39 ± 6.79
3週34.07 ± 3.58*†35.04 ± 5.11*†34.81 ± 6.47*†
6週34.98 ± 4.2935.13 ± 5.3135.31 ± 8.65
ASS(患側の単脚支持・%)
0週32.23 ± 7.2133.61 ± 7.1932.66 ± 5.91
3週36.10 ± 4.41*†36.76 ± 7.18*†37.19 ± 3.98*†
6週39.26 ± 5.8537.37 ± 6.3638.74 ± 4.80
AST(患側の支持時間・秒)
0週1.26 ± 0.331.25 ± 0.281.27 ± 0.31
3週0.91 ± 0.12*†231.10 ± 0.30*†11.07 ± 0.17*†1
6週0.90 ± 0.091.09 ± 0.291.05 ± 0.16
  1. 患側の歩幅(ASL)の改善
    • 前進・後進歩行グループでは、歩幅が0週目の41.67±5.97cmから3週目には48.64±5.06cmへと顕著に増加し、6週目には50.33±5.25cmで効果が継続しました。
    • 前進歩行グループでも、41.44±8.57cmから3週目には44.33±8.70cmへと改善し、6週目には46.62±7.95cmで効果が継続しました。
    • 後進歩行グループでも、41.72±7.81cmから3週目には44.88±9.72cmへと改善が見られ、6週目には48.88±10.25cmで効果が継続しました。
  2. 立脚相(AStP)と振り足相(ASwP)の改善
    • すべてのグループで、3週間のトレーニング後に立脚相の時間が短縮し、振り足相の時間が増加しました。また、6週目の評価でもこの効果は継続していました。
  3. 単脚支持(ASS)の改善
    • 前進・後進歩行グループでは、単脚支持の比率が0週目の32.23±7.21%から3週目には36.10±4.41%へと大幅に増加し、6週目には39.26±5.85%で効果が継続しました。
  4. 歩行時間(AST)の短縮
    • 前進・後進歩行グループでは、影響を受けた側の歩行時間も1.26±0.33秒から3週目には0.91±0.12秒へと短縮され、6週目には0.90±0.09秒で効果が継続しました。

この研究の結果、全てのトレーニンググループで歩行能力が改善されることが確認されました特に、前進と後進の組み合わせトレーニングを行ったグループでは、他の2つのグループよりも顕著な改善が見られました。

結論

この研究は、脳卒中患者の歩行能力向上に対する体重支持型トレッドミルを用いた前進・後進歩行訓練の有効性を示しています。特に前進と後進の組み合わせたトレーニングは、単独の前進または後退歩行トレーニングよりも効果的であることが示されました。これらの結果は、脳卒中後のリハビリテーションにおいて、多様なトレーニングアプローチを取り入れることの重要性を強調しています。

まとめ

後進歩行トレーニングは、脳卒中患者の歩行能力の改善において、効果的であることが分かりました。後進歩行トレッドミルは転倒の危険もあるため、個人の能力に応じ対策を講じながら実施する必要があります。

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました!!