脳梗塞や脳出血など、脳卒中を経験された方、そのご家族にとって、リハビリは非常に重要な過程です。

脳卒中後に手足が思うように動かなくなる運動麻痺や運動障害に直面すると、リハビリに疲れてしまい、進歩が見えないと感じることがあるかもしれません。

今回は、脳卒中後の運動麻痺や感覚障害について、最新の科学的な知見を基にその現状とリハビリの効果を解説します。

まずリハビリを続けていく上で、知っておいて損はない知識となりますので、ぜひ最後まで読んでいってください!

運動麻痺だけが原因ではない「動かしにくさ」

脳卒中後に手足が動かしにくくなる原因として、最もよく知られているのが「運動麻痺」です。

運動麻痺とは、自分の意思で手足を動かす能力が低下した状態を指します。これが起こるのは、脳の運動を司る部分、特に皮質脊髄路と呼ばれる神経経路が損傷を受けた場合です。

この損傷により、脳から手足への運動指令がうまく伝わらなくなるため、手足が動かしにくくなります(Nudo, 2013)。

しかし、手足の「動かしにくさ」は運動麻痺だけでは説明できません。

実際には、運動麻痺の他にも、感覚障害や姿勢制御の問題、運動プログラムのエラーなど、複数の要因が絡み合っています(Dancause & Nudo, 2011)。

これらを総称して「運動障害」と呼びます。

運動障害の中には、感覚をうまく処理でないことが原因で、思うように動かせないケースも多く存在します(Carey et al., 1993)。

感覚の役割:運動制御に欠かせない要素

感覚と運動は密接に結びついています。私たちが手足を動かす際、脳は事前にどのような感覚が生じるかを予測します。

この予測が、実際の動きと一致することで、正確な運動が可能になります(Wolpert et al., 1995)。

しかし、感覚が正しく機能しない場合、この予測と実際の感覚がずれ、結果的に不正確な動作が生じることがあります。

たとえば、手を伸ばそうとしても、予測通りの感覚が得られないため、思った場所に手が届かない、あるいは不自然な動きになることがあります。

脳卒中後に感覚障害があると、関節や筋肉、皮膚からの感覚が正しく処理されなくなります。このため、単純な動作であれば可能でも、複雑な動きや正確な動きが難しくなります(Staines et al., 2002)。

特に、歩行や物を持つ動作では、感覚の欠如が原因でふらつきや動作の不安定さが生じることがあります(Fleming et al., 2010)。

感覚障害の影響とリハビリの重要性

感覚障害は、脳卒中患者の多くが経験する問題です。研究によれば、脳卒中を経験した患者の約2人に1人が体性感覚の喪失を経験しており、感覚障害の有病率は34%から84%にも達すると言われています(Connell et al., 2008)。

多くの方が感覚障害に悩まされていることがわかっていますが、リハビリの効果によって改善するのであれば積極的に介入を行う必要があります。

感覚障害が完全に治らないわけではありません。
適切なリハビリを行うことで、感覚がある程度回復する可能性があることが知られています(Blennerhassett & Dite, 2010)。

特に、自動的感覚訓練と呼ばれる外部からの感覚刺激を利用したリハビリや、能動的に感覚を再訓練するアプローチが有効とされています(Carey et al., 1993)。

例えば、さまざまな物体に触れる練習や、足裏の感覚を意識して体重をかける練習などがあります。
これらの練習を繰り返すことで、感覚情報が再び脳に正確に伝わるようになり、結果的に運動も改善していくことが期待されます(Sawaki et al., 2006)。

さらに、最近の研究では、仮想現実(VR)を用いたリハビリが感覚障害の改善に効果的であることも示されています(Laver et al., 2017)。

複合的なリハビリ方法の重要性

感覚障害のリハビリには、複合的なアプローチが有効です。単一の感覚を鍛えるだけではなく、複数の感覚を統合してトレーニングすることが、より効果的であるとされています(Schmidt & Lee, 2011)。

例えば、視覚情報や聴覚情報を一時的に遮断し、触覚や固有感覚に集中して訓練する方法があります。この方法により、残存する感覚を強化し、動作の正確性を向上させることが可能です(Feys et al., 1998)。

また、最近の研究では、非侵襲的な脳刺激法(例えば、経頭蓋直流刺激や反復性経頭蓋磁気刺激)が、感覚障害の改善に役立つことが示唆されています(Elsner et al., 2017)。

これにより、神経可塑性が促進され、リハビリ効果が向上する可能性があります。

日常生活においても、リハビリを続けることが重要です。
家庭内での作業もリハビリの一環として重要であり、効果を期待して積極的に上肢を使うことが推奨されています。(Winstein et al., 2004)。

例えば、食事の準備や掃除など、家庭内での活動を積極的に行うことで、感覚の再訓練を自然に行うことができます。

リハビリの継続とその効果

リハビリの継続は、最初の数ヶ月だけではなく、長期間にわたって続けることが効果的であるとされています。運動麻痺や感覚障害の克服には時間がかかることが多いため、焦らずに取り組むことが重要です(Langhorne et al., 2011)。

リハビリは、単に体を動かす練習をするだけでなく、感覚を取り戻すためのトレーニングも欠かせません。

脳卒中後のリハビリの効果は、科学的にも裏付けられており、適切なリハビリを続けることで、運動機能や感覚が改善する可能性が高いことが多くの研究で示されています(Kwakkel et al., 2004)。

進歩が感じられない時期でも、リハビリを続けることが長期的な回復に繋がります。

最後に

脳卒中後のリハビリは、決して無駄ではありません。感覚障害や運動麻痺といった問題に直面している方、そのご家族にとって、リハビリの重要性を再確認し、日々の訓練が未来の回復に繋がることを意識していただければと思います。科学的な根拠に基づいたリハビリが、少しずつでも新たな可能性を切り開いてくれるでしょう。


参考文献:

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