今回は脳卒中リハビリにかなりの頻度で出てくるワード「皮質網様体脊髄路について」解説していきます!

みなさん皮質網様体脊髄路って何をしているか、またどんな経路か知っていますか?

この記事を最後まで読み進めて理解することで、かなり深いところまで学ぶことができますので、ぜひご活用くださいね!


1. 皮質網様体脊髄路の解剖学

1.1 皮質網様体投射(CRT)の起源

皮質網様体脊髄路(CRT)は、一次運動野(Brodmann area 4)、前運動野(Brodmann area 6)、補足運動野、および前頭前野から広範囲に起こり、体幹や近位筋の制御に大きく寄与しています。CRTは白質を通過し、内包の前肢を経由して脳幹にある網様体へ到達します。ここで、脳幹の網様体を通じて、体幹や近位筋の運動指令を脊髄に送ります (Boyne et al., 2021) (Jang & Lee, 2019)。

1.2 網様体脊髄路(RST)の機能

網様体脊髄路(RST)は、脳幹の網様体から脊髄に直接投射され、筋緊張や姿勢制御を無意識的に調整する重要な経路です。RSTは、特に姿勢維持、バランスの保持、反射的な筋肉の動作において重要な役割を果たし、視覚や平衡感覚からの情報を基に迅速な反応を引き起こします。この経路は、突然の姿勢変化に対する迅速な調整を可能にし、無意識的に筋緊張を保つ役割を担っています (Jang & Lee, 2019)。

1.3 CRTとRSTによる筋緊張の調整

CRTとRSTは、筋緊張の調整において協調的に機能します。筋緊張は、γ運動ニューロン(ガンマニューロン)と筋紡錘の働きによって調整されます。筋紡錘は筋肉内のセンサーであり、筋肉の伸縮を感知し、その情報を脳幹や脊髄に送ります。

  • γ運動ニューロン:CRTとRSTのシグナルがγ運動ニューロンを介して筋紡錘の感度を調整し、筋肉の状態に即応した緊張を維持します。姿勢維持やバランス保持のためには、筋肉の微細な変化をリアルタイムで感知し、それに基づいて筋緊張を適切に調整する必要があります。
  • α-γ共収縮:CRTとRSTが協調して働くことで、筋肉のα運動ニューロンとγ運動ニューロンが同時に収縮し、筋肉全体が均等に動くように調整されます。これにより、歩行や立位時のバランスが維持され、突然の姿勢変化にも即座に対応します。
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1.4 CRTとRSTの役割分担

  • CRT(皮質網様体脊髄路)は、随意運動を担当し、特に体幹や近位筋の協調運動に大きく関与しています。CRTの役割は、主に姿勢の安定と体幹の動作における精密な制御にあります。
  • RST(網様体脊髄路)は、無意識的な反射や姿勢制御を担当し、突然のバランス崩れや予期しない動作に対して迅速に反応します。


2. 皮質網様体脊髄路の神経生理学

2.1 CRTの機能

皮質網様体脊髄路(CRT)は、主に体幹や近位筋の運動制御に特化した下行性経路です。CRTは、脳の一次運動野や前運動野から起こり、脳幹の網様体を経由して脊髄に至り、特に姿勢の調整やバランスを維持するために機能します。この経路は、筋緊張を微細に調整することで、立位や歩行時の体幹の安定性を確保し、体幹の運動を協調的に行うのに役立ちます。

姿勢制御:CRTは、体幹の筋肉群に信号を送り、立位や歩行中に体が倒れないように姿勢を保ちます。これは、歩行や座位からの立ち上がり、突然の動作の際に重要です。

筋緊張の調整:筋紡錘やγ運動ニューロンを通じて、筋肉の微細な伸縮を感知し、筋緊張を適切に調整することで、体幹や近位筋の制御を行います。これにより、動作中も体幹の安定性が維持されます (Boyne et al., 2021)。

2.2 皮質脊髄路(CST)との機能的な違い

CRTは、主に体幹や近位筋の大規模な協調運動に関与している一方、皮質脊髄路(CST)は精密運動、特に手や指の動きの制御を担っています。CSTは手や指の精密な操作や微細な動作を制御し、CRTは体幹や四肢の大きな動作を協調的に制御する役割を持っています。

CSTの役割:手や指など、精密な動きを必要とする部分に特化しており、特に工芸や楽器の演奏、文字を書くといった精密な操作が必要な状況で重要です。

CRTの代償機構:脳卒中や脊髄損傷によりCSTが損傷した場合、CRTが代償的に活性化され、失われた運動機能を補います。特に体幹や近位筋を制御する役割が強化され、CSTが損傷しても姿勢やバランスを保持しやすくなります。これにより、歩行や体幹の安定が回復されるケースが多く報告されています (Jang & Lee, 2019)。

2.3 脳損傷後の適応と代償機構

脳卒中や脊髄損傷後、CSTが損傷してもCRTが代償的に活性化することが観察されています。このような代償機構により、特に体幹や下肢の運動機能が部分的に回復することが示されています。研究によると、CRTが未損傷の半球で活発に機能することで、損傷を受けた側の運動機能を補い、歩行や姿勢制御の回復を助けます (Jang et al., 2013)。

神経可塑性:脳の神経可塑性が、この代償機能を支えます。リハビリテーションやトレーニングにより、未損傷の領域が損傷した領域を補完し、CRTがCSTの役割を部分的に担うようになります。これにより、患者は体幹や下肢の運動機能を徐々に回復することが可能になります。

3. 皮質網様体脊髄路の臨床的知見

3.1 リハビリテーションにおけるCRTの役割

脳卒中や脊髄損傷などで皮質脊髄路(CST)が損傷した場合、CRTは代償的に機能し、特に体幹や近位筋の動きをサポートすることで、運動機能の回復に貢献します。リハビリテーションでは、CRTの活性化を促進することで、姿勢制御や歩行機能を改善することができるため、CRTは運動回復の重要な要素として注目されています。研究によると、CSTが完全に損傷してもCRTが活性化することで、脳損傷後の歩行能力やバランス維持が部分的に回復することが示されています (Jang et al., 2013)。

運動の経路よりも姿勢の経路の方が歩行に重要?

3.2 皮質脊髄路(CST)損傷に対するCRTの代償的役割

CSTが損傷すると、手や指の精密な動きは大幅に制限されますが、CRTが体幹や下肢の動きを代償することにより、歩行や姿勢の制御が可能になります。特に、脳卒中後のリハビリでは、CRTが損傷されていない半球から代償的な信号を送ることで、体幹や下肢の動作を部分的に回復させることができます。これは、患者が日常生活に復帰するために重要な要素です。リハビリテーションの過程で、CRTが未損傷の側で活性化されることで、全体の運動機能が改善します (Boyne et al., 2021)。

皮質網様体が麻痺を改善させる?

3.3 臨床研究からの最新知見

最新の研究では、脳損傷や脊髄損傷後にCRTが重要な役割を果たすことが強調されています。特に、リハビリテーションにおける長期的なトレーニングがCRTの活性化を促し、運動機能の回復を加速することが示されています。さらに、拡散テンソル画像(DTI)を用いた研究では、CRTの線維構造の変化が運動回復と強い相関を持つことが確認されています。これにより、CRTをターゲットとした新しいリハビリテーションアプローチが開発される可能性が示唆されています (Jang & Lee, 2019)。

まとめ

皮質網様体脊髄路(CRT)は、姿勢制御や歩行機能の回復において非常に重要な役割を果たしています。特に、脳卒中や脊髄損傷後のリハビリテーションにおいて、CRTが代償的に機能することで、失われた運動機能を部分的に取り戻すことが可能です。今後の研究によって、CRTのさらなる役割や、新たなリハビリテーション方法が開発されることが期待されています。

参考文献

Boyne, P., Difrancesco, M., Awosika, O., Williamson, B. J., & Vannest, J. (2021). Mapping the human corticoreticular pathway with multimodal delineation of the gigantocellular reticular nucleus and high-resolution diffusion tractography. Journal of the Neurological Sciences.

Jang, S., & Lee, S. J. (2019). Corticoreticular tract in the human brain: A mini review. Frontiers in Neurology, 10.

Jang, S. H., Chang, C. H., Jung, Y. J., & Seo, Y. S. (2013). The role of corticoreticular pathway in chronic stroke patients: A diffusion tensor tractography study. International Journal of Neuroscience, 123(11), 752-757.

Taga, M., Charalambous, C. C., Raju, S., Lin, J., Zhang, Y., Stern, E., & Schambra, H. M. (2021). Corticoreticulospinal tract neurophysiology in an arm and hand muscle in healthy and stroke subjects. The Journal of Physiology, 599.