皆さんこんにちは。

脳卒中後には立ち上がりが難しいことがありますが、その先の一歩目歩き出す際に姿勢バランスを崩すといった場面に遭遇することってありませんか?
なぜ脳卒中後に一歩目が出なくなってしまうのでしょうか。

その理由について解説していきます。

はじめに

脳卒中後の回復過程では、立ち上がった直後に最初の一歩を踏み出すことが一つの大きな障害となり得ます。この困難は、複数の要因によって引き起こされ、治療とリハビリテーションの過程において重要な課題となります。

ではその複数の要因について解説していきたいと思います。

体重支持の非対称性

  • 脳卒中患者は、バランスを制御する脳の経路が障害されるため、体重支持の非対称性を経験することがあります。これにより、姿勢の不安定さや運動の開始が困難になります。(Pérennou D.,2005)
  • この研究では、脳卒中後の患者が立位で示す体重支持の非対称性に注目しました。この非対称性は、脳卒中片麻痺者が非麻痺側に体重をかける傾向があることを示しています。
  • この非対称性は、バランスの制御に関わる脳の神経ネットワークが障害された結果生じます。この障害は、特に脳の中枢部に位置するvestibulospinal pathwayに影響を及ぼすことがあります。
    この経路は、立位や歩行時のバランス維持に重要な役割を果たします。

体重支持の非対称性の結果:

  • この非対称性により、患者は立位時に不安定さを感じることがあります。これは、非麻痺側に過度に体重をかけるため、身体のバランスを維持するのが難しくなるためです。
  • 非対称な体重支持は、歩行の際にも影響を及ぼし、歩行の開始や維持が困難になることがあります。これは、脳卒中による片側の筋力低下や感覚障害によるものです。

これらの発見を踏まえ、脳卒中後のリハビリテーションにおいて、片麻痺側の機能を強化し、非対称性を減少させることの重要性を指摘しています。バランスの訓練や歩行訓練を通じて、体重支持の非対称性を改善し、日常生活での機能を向上させることが可能です。

立位バランスの障害

  • バランスの障害は脳卒中後に一般的で、多くの患者が適切に立つことや歩くことができない状態にあります。これは神経学的および筋肉障害に関連しています (Tyson et al., 2006)。
  • 研究によると、脳卒中後の患者の大多数がバランス障害を示し、これは立ち上がる、座る、歩くなどの基本的な動作に大きな影響を及ぼすことが明らかにされています。
  • バランス障害は神経学的障害(感覚の喪失、筋力の低下、協調能力の低下)や筋肉の障害(筋力の不均衡、筋緊張の異常)に起因します。これらの障害は、立位や歩行時の安定性を損ない、転倒のリスクを高めます。
  • この研究では、脳卒中後のリハビリテーションにおいて、バランス障害の原因を特定し、治療することの重要性を強調しています。
    特に、体幹トレーニング、起立トレーニング、バランス訓練、感覚統合訓練などが有効なことが示唆されています。

運動機能障害と歩行障害

  • 影響を受けた肢の筋力低下や痙縮性の歩行パターンは、非対称な歩行パターンや運動の開始困難に寄与しています (Ali et al., 2014)。
  • Ali et al. (2014)は、脳卒中後の片麻痺(hemiplegic)患者における歩行障害に焦点を当てました。研究では、影響を受けた肢の筋力低下や痙縮が歩行に与える影響を調査しています。
  • 脳卒中によって影響を受けた肢は、筋力が低下し、筋の緊張(痙縮)が生じやすくなります。これは、筋緊張のコントロールを司る脳の部分が損傷されるためです。
  • 筋力の低下と痙縮は、歩行パターンに非対称性をもたらします。つまり、健康な側と麻痺した側の肢の動きが異なり、歩行時のリズムやバランスが崩れることがあります。
  • この非対称性は、歩行の開始や継続を困難にします。特に、麻痺側の肢を動かす際の制御が難しくなり、転倒のリスクが高まることがあります。

姿勢制御と感覚統合の障害

  • バランス制御のための感覚情報の統合における課題は、最初の一歩を踏み出す能力を妨げる可能性があります。リハビリテーション運動による改善が示されています (Smania et al., 2008)。
  • Smania et al. (2008)は、脳卒中患者における感覚統合の障害と、それがバランス制御に及ぼす影響に焦点を当てました。特に、立ち上がる動作や歩行の開始時に最初の一歩を踏み出す能力にどのように影響するかを調査しています。
  • 脳卒中患者は、視覚、触覚、固有感覚(体の位置や動きを感じる感覚)などの感覚情報を適切に統合するのが難しいことがあります。この障害は、バランスの維持や運動の開始、特に最初の一歩を踏み出す際のコーディネーションに影響します。
  • 感覚情報の統合障害は、立位や歩行時の不安定さや転倒のリスクを高めます。
  • Smania et al.の研究は、感覚統合障害に対するリハビリテーション運動の重要性を示しました。これには、バランスと調整能力を改善するための特定の運動や療法が含まれます。
  • 例えば、異なる感覚刺激の下でのバランス訓練や、患者が異なる種類の感覚情報を統合して処理することを助ける運動が有効です。
  • このようなリハビリテーションは、感覚情報の統合を改善し、立ち上がる動作や歩行の開始時の能力を高めることが示されています。

立っている際と歩行中の姿勢制御の非対称性:

  • 立位バランスの制御の非対称性と脳卒中後の歩行時の非対称性との間には関連があり、これが最初の一歩を踏み出す困難さに寄与しています (Hendrickson et al., 2014)。
  • Hendrickson et al. (2014)の研究は、脳卒中後の患者における立位バランスの制御の非対称性と歩行時の非対称性の関連に焦点を当てました。この研究は、これらの非対称性がどのように歩行の初期の一歩を踏み出す能力に影響を及ぼすかを探求しています。
  • 脳卒中後の患者は、立っている際の体重支持において非対称性を示すことが多いです。これは、麻痺した側と健康な側の間での筋力と感覚のバランスが取れないために起こります。
  • この非対称性は、歩行時にも影響を及ぼし、特に歩行の開始時に最初の一歩を踏み出す際の困難さにつながります。歩行時の非対称性は、歩行のリズムやバランスを崩し、転倒リスクを高める可能性があります。
  • Hendrickson et al.の研究は、脳卒中後のリハビリテーションにおいて、立位バランスと歩行の非対称性を改善することの重要性を示しています。
  • リハビリテーションプログラムは、麻痺側の筋力を強化し、両側の筋の調和を取ることを目的としています。これにより、バランスの改善と歩行の安定性が向上することが期待されます。

まとめ

脳卒中後に立ち上がった直後に最初の一歩を踏み出すのが難しい理由は、体重支持の非対称性、バランス障害、運動・歩行の障害、姿勢制御と感覚統合の障害など、多因子によるものです。これらの課題への理解と適切なリハビリテーションアプローチにより、脳卒中患者の生活の質向上に貢献できる可能性があります。

参考文献

Pérennou D, Decavel P, Manckoundia P, Penven Y, Mourey F, Launay F, Pfitzenmeyer P, Casillas JM. Evaluation de l’équilibre en pathologie neurologique et gériatrique [Evaluation of balance in neurologic and geriatric disorders]. Ann Readapt Med Phys. 2005 Jul;48(6):317-35. French. 

Tyson, S., Hanley, M., Chillala, J., Selley, A., & Tallis, R. (2006). Balance disability after stroke.. Physical therapy, 86 1, 30-8 .

Ali, S., Ansari, A., Rahman, A., Imtiyaz, S., & Rashid, B. (2014). Post-Stroke Hemiplegic Gait: A Review. The Pharma Innovation Journal, 3, 36-41.

Smania, N., Picelli, A., Gandolfi, M., Fiaschi, A., & Tinazzi, M. (2008). Rehabilitation of sensorimotor integration deficits in balance impairment of patients with stroke hemiparesis: a before/after pilot study. Neurological Sciences, 29, 313-319.

Hendrickson, J., Patterson, K., Inness, E., McIlroy, W., & Mansfield, A. (2014). Relationship between asymmetry of quiet standing balance control and walking post-stroke.. Gait & posture, 39 1, 177-81 .