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みなさん転倒に対しては「バランス」が重要なことはご存知かと思いますが、バランスに対する自信って評価しますか?

今回はそのバランスについて、本人がどう感じているか?を評価する上で有効なツールを一つご紹介させていただきます!

はじめに

転倒は、高齢者や脳卒中患者にとって大きなリスク要因の一つです。

特に高齢者においては、転倒による骨折やその他の重篤な障害が、生活の質を低下させ、自立度を低下させる原因となることがあります。しかし、転倒そのものだけでなく、転倒への「恐怖心」も大きな問題となります。

この恐怖心は、転倒のリスクを増大させるだけでなく、日常生活の活動を制限し、筋力の低下や社会的孤立を引き起こす要因となり得ます。

転倒に対する恐怖心は、心理的・身体的な健康状態に影響を与え、特に転倒経験のある人々に顕著です。

転倒への恐怖を管理するためには、その恐怖心を適切に評価し、機能訓練や予防対策を講じることが重要ですが、そのためには転倒恐怖心を測るための評価尺度が必要です。

そこで、今回解説するFall Efficacy Scale-International(FES-I)は、転倒恐怖心を定量的に評価するツールとして活用できると考えられます。


Fall Efficacy Scale-International (FES-I) とは何

FES-Iは、転倒に対する個々の自信や恐怖を評価し、それを元にリハビリプログラムや介入の効果を測定するための重要な指標です。

Fall Efficacy Scale-International (FES-I) は、転倒に対する恐怖心や不安感を測定するために開発された自己評価尺度です。

この評価尺度は、転倒恐怖心が高齢者や脳卒中患者の生活の質や行動にどのように影響を与えるかを理解し、それに基づいて適切な介入を行うために設計されました。

FES-Iの開発は、もともと英国で行われた研究に基づいており、特に高齢者や転倒リスクが高い人々に対する転倒予防プログラムの一環として広く使用されています。

この尺度は、転倒に対する「自信」や「恐怖」を測定することを目的とし、主観的な感覚に基づいた簡便なアンケート形式で構成されています。

どんな評価なのか?

Fall Efficacy Scale-International (FES-I)

FES-Iの16項目の活動内容

  • 1. 家の中を歩く
  • 2. 椅子やベッドから立ち上がる
  • 3. 家の中で物を取る
  • 4. 椅子に座っているときに前かがみになる
  • 5. 家事をする(掃除や料理など)
  • 6. 衣類を着替える
  • 7. 家の外で歩く
  • 8. 階段を上り下りする
  • 9. 簡単な買い物に行く
  • 10. 大きな買い物に行く(例えば週末の食料品のまとめ買い)
  • 11. 滑りやすい路面(例えば雪や氷の上)を歩く
  • 12. 混雑した場所を歩く
  • 13. 知らない場所を歩く
  • 14. 急いで歩く
  • 15. 人と話をしながら歩く
  • 16. 公共交通機関を利用する(例えばバスや電車)

これらの項目すべてに対して、1(不安が全くない)から4(非常に不安である)までのスコアをつけ、総スコアを集計します。この総スコアが高ければ高いほど、転倒に対する恐怖心が強いことを意味します。

カットオフスコア: FES-Iのカットオフスコアは、転倒リスクの高い人々を識別するために設定されており、研究によって異なるスコアが報告されています。

脳卒中患者においては、FES-Iスコア28以上が転倒リスクを示唆するカットオフスコアとして提案されています。(感度 71%、特異度 57%)

Faria-Fortini, I., Polese, J., Faria, C., Scianni, A., Nascimento, L., & Teixeira-Salmela, L. (2021). Fall Efficacy Scale-International cut-off score discriminates fallers and non-fallers individuals who have had stroke.. Journal of bodywork and movement therapies, 26, 167-173 .

1.感度(Sensitivity): 転倒リスクが高い人を正しく「高リスク」と判定する能力を示します。感度が高いと、転倒のリスクが実際に高い人を見逃しにくく、検査が高リスクの人を正しく識別する確率が高いことを意味します。

2.特異度(Specificity): 転倒リスクが低い人を正しく「低リスク」と判定する能力を示します。特異度が高いと、転倒のリスクが実際に低い人を誤って「高リスク」と判定する確率が低く、検査が低リスクの人を正しく識別する確率が高いことを意味します。

具体的には、感度が71%で特異度が57%の転倒リスク評価テストの場合:

•感度71%: 転倒リスクが高い人の71%がテストで「高リスク」と判定されます。つまり、転倒リスクが高い人のうち約3割が見逃される可能性があります。
•特異度57%: 転倒リスクが低い人の57%がテストで「低リスク」と判定されます。つまり、転倒リスクが低い人のうち約43%が誤って「高リスク」と判定される可能性があります。

有効性について


FES-Iの信頼性は、多くの文化圏や高齢者、脳卒中患者、その他の健康状態にある人々を対象とした研究で一貫して高いことが確認されています。

ある研究では、70~90歳の地域在住高齢者500人を対象に、FES-Iの長期的な有効性を評価し、信頼性と妥当性が非常に高いことが示されています。

この研究では、FES-Iのカットオフポイントが設定されており、低い転倒恐怖心と高い転倒恐怖心を区別する基準が提供されています (Delbaere et al., 2010)。

主観的な評価の限界

FES-Iは自己報告に基づく評価であり、対象者の主観的な感覚に依存しています。そのため、心理的要因や日々のコンディションによって回答が変わる可能性があります。

特に、不安やストレスが高い日には転倒恐怖心が増大することがあり、その影響を正確に測定することが難しい場合があります。

このため、FES-Iの結果を他の客観的な転倒リスク評価と併用することが推奨されます。

転倒恐怖心以外の要素への対応の限界

FES-Iは転倒恐怖心に特化したツールであり、転倒の実際の発生頻度や筋力・バランス能力そのものを評価するものではありません。

そのため、転倒リスクを総合的に評価するためには、他の身体的評価ツール(例: Timed Up and GoテストやBerg Balance Scale)との併用が必要です (Faria-Fortini et al., 2021)。

Screenshot

まとめ

Fall Efficacy Scale-International (FES-I)は、転倒恐怖心を測定するために開発された信頼性の高いツールであり、特に高齢者や脳卒中患者などの転倒リスクが高い人々において、その有効性が広く確認されています。FES-Iは、多くの研究において高い信頼性と妥当性が示され、異なる文化的背景や言語においても柔軟に適応可能なツールとして評価されています。

主なポイント

FES-Iの有効性:FES-Iは、16項目の質問を通じて日常生活における転倒恐怖心を4段階で評価し、転倒リスクを正確に把握するためのツールです。その有効性は、信頼性の高い研究によって裏付けられており、多くの臨床現場で使用されています。

利点:FES-Iはシンプルで直感的に使用できる一方で、広範囲の対象者に適用可能です。さらに、異なる文化圏や言語への適応が進められており、各国で効果的に使用されています。

限界:FES-Iは自己報告に基づいており、対象者の主観的な感覚に影響される可能性があるため、他の客観的な評価ツールとの併用が推奨されます。また、文化的・言語的な適応が必要な場面があり、その際にニュアンスの違いが生じる可能性があります。

FES-Iは、転倒恐怖心の評価において信頼性の高いツールであり、転倒予防やリハビリテーションの効果測定において重要な役割を果たしています。今後もさらなる研究を通じて、異なる健康状態や文化的背景を持つ人々に適用できる形での進化が期待されます!

最後まで見ていただきありがとうございました!