脳卒中後には、バランス機能の低下が認められることがあります。

その時に、多くの人は不安定な状況では何かに掴まろう、触れようとする行動をとります。

例えば、手すりが見えると歩行練習中でも、無意識に持ちに行ってしまうことや車椅子からの移乗ではアームレストを掴んで離すことが難しい、などの場面に遭遇することがあります。

この要因の一つに不安定だから、というのがありますが言い換えると「バランス」が低下しているから、とも考えることができます。

その場合、手すりをつかまないように手すりの近くを歩かない、という選択を取るのも一つの方法ですが、

「なぜ手すりを掴んでしまうんだろう?」という疑問に対して、「バランスが低下しているから」という可能性を考慮できるかどうかは一つ重要になってくるのではないか、と思います。

ではそのバランスが低下している場合に姿勢動揺や外乱に対する反応を効率化させることが知られている、「ライトタッチ」について紹介させていただきます。

ライトタッチとは?

力学的には姿勢の安定化に寄与しない程度の軽い力(1N未満、指先で触れる程度)で、固定点に指先を接触すると立位姿勢動揺が減少するという効果です。

元々は、

片脚立位時に指先で固定テインに接触すると立位姿勢動揺が減少する

Holden M, Ventura J, Lackner JR. Stabilization of posture by precision contact of the index finger. J Vestib Res. 1994 Jul-Aug;4(4):285-301. 

という研究結果から広がっている。

脳卒中患者に対する軽いタッチの効果を研究した結果、軽いタッチは姿勢の動揺を減少させ、その効果は目を閉じた状態でより大きくなることがわかった。

Cunha B.P., Alouche S.R., Araujo I.M., Freitas S.M.. Individuals with post-stroke hemiparesis are able to use additional sensory information to reduce postural sway. Neurosci Lett. 2012;513:6–11.

とされている。

また、効果が確認されている疾患には

  • 両側前庭機能喪失
  • 高齢者
  • 糖尿病性感覚障害
  • 起立性振戦
  • ダウン症
  • 片側前十字靱帯損傷
  • 脳卒中
  • パーキンソン病

など幅広い疾患が対象になっています。


Baldan AM, Alouche SR, Araujo IM, Freitas SM. Effect of light touch on postural sway in individuals with balance problems: a systematic review. Gait Posture. 2014;40(1):1-10. 

ライトタッチのメカニズムについて

「接触による触覚情報から対象物への姿勢定位が行われる」というのが現状の考えとして有力です。

ではこの接触するだけでなぜそんなことが起こるのでしょうか?

メカニズムに関してはまだはっきりとわかっていないが、2つの説があります。

それが、

  1. 感覚仮説: 指先のライトタッチにより得られる感覚刺激が姿勢の揺れを自動的に減少させると考えられています。研究では、ライトタッチの力が大きいほど、より多くの感覚刺激が得られ、それが姿勢安定性を向上させることが示されました。
  2. 超姿勢タスク仮説(suprapostural task): 姿勢は、ライトタッチの精度要求によって調整されるとされています。ライトタッチの精度要求が高い条件下で姿勢の安定性が大幅に増加することが示されました。これは、ライトタッチが姿勢の揺れに関与する上位中枢メカニズムに影響を与えることを支持しています。
    Chen FC, Tsai CL. The mechanisms of the effect of light finger touch on postural control. Neurosci Lett. 2015 Sep 25;605:69-73. 

というものです。

ライトタッチの種類

固定ライトタッチ(FLT)は、指先で固定された物体に軽く触れることを指し、相互ライトタッチ(ILT)は、他者との接触を伴うライトタッチです。

研究では、FLTとILTの姿勢制御特性を比較し、FLTが姿勢安定性をより優れた形で提供することが示されました。

これは、FLTとILTが姿勢揺れを減少させる効果を持つものの、実際にはこれらの条件が異なる姿勢制御を周波数領域で引き起こすことを示唆しています。

Ishigaki T, Yamamichi N, Ueta K, Morioka S. Characteristics of postural control during fixed light-touch and interpersonal light-touch contact and the involvement of interpersonal postural coordination. Hum Mov Sci. 2022 Feb;81:102909.

ではどのような時に用いればいい効果なのでしょうか?

それが、こちら

  • 対人ライトタッチ・・・歩き始めや起立動作時に安定性と不安定性を両立させたい場合
  • 固定物ライトタッチ・・・姿勢保持そのものが不安定で自由度を下げて安定させたい場合

といった使い分けが良いかと思います。

ライトタッチが効果的ではないケース

あくまでタッチした部分に得られる感覚情報を用いているため、感覚障害が上肢に強くある場合には、ライトタッチ効果は十分に得られない可能性があります。

また固定物ライトタッチにおいても、固定物そのものが不安定なものであったり、

対人ライトタッチにおいても信頼関係が構築できていない場合には十分にその効果を発揮することは難しいと考えられます。

また、物体に触れると握り込んでしまうような「強制把握」、また脱抑制などがあるケースにおいては、触れる程度で得られる効果が、今度は上肢による支持になってしまう可能性もあり注意が必要です。

まとめ

ライトタッチは、特に神経学的障害やバランス障害を抱える人々において、姿勢制御とバランスの向上に寄与する可能性があります。

他にも脳卒中後遺症やパーキンソン病の患者においても有効であることがいくつか報告として論文で示されています。

しかしながら、どんな方法でも効果だけでなく適応も加味した上で用いることが重要ですので、

参考までにライトタッチ効果について知っておいていただければと思います。