こちらでは、「網様体脊髄路」についてです!

網様体脊髄路はリハビリにおいて重要な知識となりますので、セラピストの方はぜひ理解していただきたい内容です。

網様体脊髄路って何?

網様体脊髄路(Reticulospinal Tract)は、脳幹の網様体から脊髄へと伸びる神経路の一つです。

この神経路は、主に無意識的な運動制御、特に姿勢やバランスの維持に関わっています。

意識的な運動制御には錐体路、無意識的な運動制御や姿勢・バランスの制御には錐体外路と呼ばれる経路が関わっているとされています。

ではまずその概要から解説してきます。

神経経路

網様体脊髄路は、名前の通り脳幹の網様体から始まります。

この神経路は、脊髄の全長にわたって降りていき、脊髄の前角にある運動ニューロンにシナプスを形成します。

位置は脳画像を見ていく際には中脳・橋・延髄で位置がわずかに異なりますので、こちらの画像をご覧ください。

網様体脊髄路は、皮質からの投射を受けて働く経路もあり、それを皮質網様体脊髄路と呼びます。

その際の経路として、主に6野(高次運動野)から放線冠、内包後脚を通り、脳幹網様体へ下行していきます。主には、両側の脊髄に投射するといわれていますが、

橋網様体脊髄路は同側性

延髄網様体脊髄路では対側性

の投射だと考えると臨床的には理解が深まりやすいです。

脳幹網様体からは、脊髄前索を下行し、脊髄前角細胞の主にガンマ運動神経細胞に投射すると考えられています。

ガンマ運動神経細胞に投射するという点がこの先の知識を理解する上で非常に重要になります。

働き

網様体脊髄路は、主に筋肉トーヌス(緊張状態)の調節、特に反射による筋肉の活動を制御するとされています。

筋緊張の調整反射の制御によって、
姿勢やバランスの維持、歩行などの基本的な運動パターンの調整に関与すると考えられています。

また上行性網様体路は大脳全体の興奮水準の調整にも関与するといわれています。

この筋緊張の調整というのが一つポイントなのですが、筋緊張がどのように制御されているか?を理解することが重要です。

筋緊張の制御はどのようにしているのか?

網様体脊髄路が制御している細胞は「ガンマ運動神経細胞」ですが、皮質脊髄路(随意運動の経路)が制御しているのは「アルファ運動神経細胞」だとされています。

アルファ運動神経細胞は、筋線維(錐外筋)を収縮させる働きがあります。

また、ガンマ運動神経細胞は、筋紡錘(錐内筋)の感度を制御する働きがあるとされています。

この筋紡錘は筋肉自体の張力(どれだけテンションがかかっているか)を監視しており、
筋紡錘が伸張されれればIa、II線維と呼ばれる感覚線維が脊髄に対して「伸ばされているぞ」という情報を送ります。

この感覚情報を受けた脊髄は前角細胞のアルファ運動神経細胞に対して興奮性に働くことで「筋線維を収縮」させます。これが伸張反射、単シナプス反射と呼ばれる最も原始的な脊髄反射です。

ここが超重要!!
つまり筋肉の張り具合=筋緊張を筋紡錘というセンサーが監視しており、この筋紡錘の感度を調整するのがガンマ運動神経細胞であり、そのガンマ運動神経細胞をコントロールするのが網様体脊髄路というわけです。

これが、私たちが筋肉に発生する一定の張力である筋緊張を網様体脊髄路によって調整している、といわれる理由です。

網様体脊髄路の種類

網様体脊髄路には、先ほどの経路で出てきたように、

  • 橋網様体脊髄路
  • 延髄網様体脊髄路

の大きく二つがあるとされています。

それぞれの役割をざっくりと表現すると…

ガンマ運動神経細胞を興奮させる→橋網様体脊髄路
ガンマ運動神経細胞を抑制する→延髄網様体脊髄路

というイメージになります。

つまり、ここまで読んでいただいた皆さんならお分かりいただけているかと思いますが
筋緊張をコントロールするのが網様体脊髄路でしたよね。

延髄網様体脊髄路は筋緊張を抑制する経路
橋網様体脊髄路は筋緊張を促通(高める)する経路

であると考えられます。

どのようにして?と説明しなさいと言われれば、

脊髄前角にあるガンマ運動神経細胞が筋の張力を監視する筋紡錘の感度を調整しており、そのガンマ運動神経細胞を興奮させたり、抑制したりすることで筋紡錘の感度をコントロールして、筋に発生する一定の張力である筋緊張を高めたり、逆に弱めたりするといった働きが網様体脊髄路にある。

と考えることができますね。

網様体脊髄路がなぜ臨床で重要なのか?

ここまでは基本的な知識でしたが、これがなぜ臨床で重要だとされているのでしょうか?

網様体脊髄路は、特に脳卒中や脊髄損傷などの神経損傷後のリハビリテーションにおいて重要ですが、脳血管障害や外傷などの神経損傷によってこの神経経路が影響を受けると、

網様体脊髄路の損傷は、姿勢制御障害、筋緊張亢進、筋緊張低下など、さまざまな臨床症状を引き起こすことが考えられます。

例ですが、

網様脊髄路の損傷は、ヒトの上位運動ニューロン病変における痙縮と関連している

Sangari S, Perez MA. Imbalanced Corticospinal and Reticulospinal Contributions to Spasticity in Humans with Spinal Cord Injury. J Neurosci. 2019 Oct 2;39(40):7872-7881.

皮質脊髄路の単独損傷では、痙縮が生じなかったのに対して、皮質網様体脊髄路の損傷では痙縮が出現したと報告されています。

姿勢にも問題が生じる可能性が考えられますが、網様体脊髄路以外の要素も含むため一概に考えるのは危険です。

よくある疑問ですが、網様体脊髄路がどのように姿勢を調整しているのか?ということです。

ある程度パターン化された筋シナジーを生み出す細胞に対して投射して姿勢を制御している可能性がある。

固有感覚情報を元に、リアルタイムの体の状態(四肢の位置関係など)をモニターし、適切な形で網様体脊髄路を使い筋緊張を高めたり、姿勢パターンを作り出す。

Sugiuchi Y, Kakei S, Izawa Y, Shinoda Y. Functional synergies among neck muscles revealed by branching patterns of single long descending motor-tract axons. Prog Brain Res. 2004;143:411-21.

といった考えもありますが、まだ諸説あり不明な点も多いのも実際ですので、網様体脊髄路が損傷しているから○○というような表現や考え方をして思考を停止しないように注意が必要です。

リハビリテーションでの考え方

リハビリテーションでは、網様体脊髄路の機能を改善するための様々なアプローチが用いられることがあります。

代表的なものであれば、歩行練習やバランス練習、姿勢コントロールの練習ですが、
実際に網様体脊髄路に対して本当にアプローチできているのか?はわかりませんよね。

ただ、大事なのは「網様体脊髄路が働いていた場合どのような運動や姿勢になるのか?」を理解しておくことです。基本的に私たちは怪我などをしていない場合において、網様体脊髄路などの錐体外路、皮質脊髄路などの錐体路は正常に働いているはず、です。

そのため私たちの身体でどのようになっているか?を理解することや、基礎研究などである姿勢や動作を行うとどのような現象が起こっているのか(筋活動など)を調べて理解することが重要です。

例えば、
側方移動であれば、健常若年者は下肢・骨盤で側方移動するのに対して、高齢者は体幹も使って側方移動することや、脳卒中後遺症者では高齢者の動きに加えて、筋活動が遅延することなどが報告されていたりします。

こういった部分を理解した上で、どのような動きを求めるのか?が重要だと考えています。

また筋緊張異常に対するリハビリテーションの考え方はこちらをご覧ください!

最後まで読んでいただきありがとうございました!