はじめに:脳卒中後の脳内変化について

こんにちは。脳梗塞リハビリスタジオアクティブ豊橋の代表、戀田(こいだ)です。

今回のブログでは、脳卒中後に脳内でどのような変化が起こるのか、そしてリハビリテーションがどのように役立つのかについて徹底的に解説していきます。

脳卒中後、リハビリの主な目的は、運動麻痺の改善や、言語機能を含む認知機能の回復、さらには歩行能力の向上や社会復帰をサポートすることにあります。

その中でも特に重要なのが、失われた運動機能の回復です。この目標を達成するためには、脳そのものに働きかけることが不可欠です。リハビリの効果によって、脳がどのように変化し、どのように機能を取り戻していくのかを理解することが重要です。

脳の可塑性とは?

脳卒中後のリハビリテーションがどのように効果を発揮するのかを理解するためには、「脳の可塑性」という概念が重要です。これは、脳が環境や経験に応じて、その構造や機能を変える能力を指します。

1996年に行われたNudo博士の研究では、リハビリテーションが脳に与える影響が明らかになりました。この研究では、リハビリを行った場合と行わなかった場合で、脳の変化がどのように異なるかが検証されました。

リハビリを行わなかった場合、脳の指を動かす領域は縮小しましたが、リハビリを行うことで、その領域が拡大しました。この変化は、特に挑戦的な課題を与えることで顕著に見られ、脳の可塑性が促進されることが分かりました。

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つまり、リハビリではただ体を動かすだけではなく、どのような課題を持って動かすのかが非常に重要です。これが、脳の可塑性を引き出し、機能回復を促進するカギとなります。

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脳卒中後に起こる脳内の変化

脳卒中が発生すると、脳内ではさまざまな変化が起こります。まず、損傷を受けた運動皮質の周辺で重要な再編成が始まります。この再編成は、損傷部位の機能を補うために脳が自らを再構築しようとするプロセスです。

また、脳の反対側の半球が損傷側の機能を代償するために働くこともあります。通常、脳の片側が動きを制御していますが、損傷が大きい場合、反対側の脳がその機能をカバーすることがあります。しかし、損傷が重度である場合には、この代償機能が不十分であり、運動機能が大きく制限されることもあります。

さらに、脳卒中後には「ペナンブラ」と呼ばれる現象が起こることがあります。これは、脳梗塞を起こした部分だけでなく、その周辺組織が脳の虚血状態(酸素や血流が不足した状態)になることを指します。この状態をできるだけ早く解消することが、回復を促進するために重要です。

これらの変化に加えて、脳のネットワーク構造が変化することもあります。損傷を受けた脳の部位と連結している他の部位が一時的に機能低下を起こす「機能乖離」という現象が見られることがあります。この機能低下は、数週間から数年にわたり続くことがあり、リハビリテーションのアプローチに影響を与えることがあります。

運動機能の改善と脳内活動の違い

脳卒中後のリハビリテーションでは、運動機能の回復が大きな目標となりますが、健常者と脳卒中患者の脳内活動には大きな違いがあります。この違いを理解することで、どのようにリハビリが進められるべきかが見えてきます。

健常者が運動を行う際には、前頭前皮質や一時運動野といった特定の脳領域が主に活動します。しかし、脳卒中患者の場合、同じ動作を行う際に、脳内の広範囲な領域が活動することがあります。これは、脳が損傷を補うために通常とは異なる経路を活性化させるためです。

特に、麻痺側の手を動かす際には、非麻痺側の脳(例えば、右手を動かす際には左脳)が通常は働きますが、脳卒中後には両側の脳が活動することが多く見られます。このような広範囲の脳活動は、脳が新しい経路を模索し、機能回復を図ろうとする過程を反映しています。

また、熟練者と初心者の運動時の脳活動を比較することも有用です。例えば、一流のサッカー選手が足を動かす際には、脳内の活動は非常に限られた領域に集中しますが、未熟な選手の場合、多くの脳領域が活動します。これは、脳が精密な動きを効率的に制御するためには、特定の領域の活動に集中する必要があるためです。脳卒中患者のリハビリにおいても、脳がこのような効率的な活動パターンを再び獲得することが重要です。

リハビリテーションの重要性と挑戦的な課題

脳卒中からの回復において、リハビリテーションは非常に重要な役割を果たします。しかし、リハビリテーションの効果を最大限に引き出すためには、単に運動を繰り返すだけでなく、挑戦的で適切な課題を設定することが必要です。

リハビリテーションでは、「快楽ホルモン」とも呼ばれるドーパミンが大きな役割を果たします。ドーパミンは、達成感や快感を感じる際に分泌され、モチベーションを高め、脳の可塑性を促進する効果があります。適度に難しい課題に取り組むことで、ドーパミンの分泌が促され、脳が新しいスキルや運動パターンを習得しやすくなります。

しかし、課題が簡単すぎると、脳はあまり活性化されず、逆に難しすぎると、成功体験を得られないためにドーパミンの分泌が減少してしまいます。そのため、リハビリテーションにおいては、患者さん一人ひとりに合った適切な難易度の課題を設定し、挑戦的でありながらも達成可能な目標を提供することが重要です。

このように、リハビリテーションでは、脳の可塑性を引き出すために挑戦的な課題を設定し、脳を活性化させることが回復の鍵となります。

脳内経路の再形成と回復の希望

脳卒中によって損傷を受けた脳の経路が元に戻る可能性があるかどうかについては、長らく議論が続いていますが、最近の研究や症例報告からは、脳の驚異的な再生能力が示されています。これにより、脳卒中後の回復に対する希望が広がっています。

例えば、ある研究では、脳卒中発症から9ヶ月後に、損傷を受けた皮質脊髄路が大幅に回復したケースが報告されています。また、発症当初は完全麻痺だった患者が、数ヶ月後に脳の活動が再編成され、運動機能が回復したという事例もあります。これらの報告は、脳が新たに経路を形成する能力を持っていることを示唆しています。

さらに、発症から2ヶ月後には遮断されていた皮質脊髄路が、4年後には再び形成され、一時運動野に繋がっていたというケースもあります。このような脳の再生能力は、脳卒中後に失われた機能が再び取り戻される可能性を示しており、患者さんやその家族にとって大きな希望となります。

これまでの研究や症例報告は、脳が損傷から回復するプロセスにおいて、従来考えられていたよりも柔軟であることを示しています。反対側の脳が損傷側の機能を補完することもありますが、脳内で新しい経路が形成されることで、機能が回復する可能性も十分にあります。このような脳の可塑性を最大限に引き出すためには、継続的なリハビリテーションが不可欠です。

まとめ:リハビリテーションの継続が鍵

脳卒中後の回復において、リハビリテーションは脳の可塑性を引き出し、失われた機能を取り戻すために不可欠なプロセスです。脳は驚異的な再生能力を持っており、適切なリハビリによって新しい経路を形成し、機能を再び活性化させることができます。

リハビリテーションを行う際には、ただ運動を繰り返すだけでなく、挑戦的で興味深い課題を設定することが重要です。脳の再編成を促進するためには、患者さん一人ひとりに合った適切な難易度の課題を提供し、ドーパミンの分泌を促すことが必要です。

さらに、脳卒中による損傷が重度であっても、脳内の経路が再形成される可能性があることが示されています。これにより、回復の希望が広がり、リハビリテーションの重要性が改めて確認されています。

私たちセラピストはこういった知識をもとに改善をあきらめず、日々臨床に臨み、当事者の方の回復を願いながら研鑽しています。

脳卒中からの回復を目指すためには、リハビリテーションの継続が鍵となります。漠然としたリハビリではなく、科学的根拠に基づいたアプローチで脳の可塑性を引き出し、回復の可能性を最大限に引き出しましょう。