麻痺のない側は「非麻痺側」と表現する理由
これを理解するためには、
なぜ運動麻痺が出るのか?と、出現する問題は反対側の手足の麻痺がだけなのか?の知識が必要です。
運動麻痺が出るメカニズム
中枢神経(脳・脊髄)障害により、細胞または線維が損傷するから、です。
もう少し専門的に表現すると、
「皮質脊髄路が損傷するから」または「運動野の細胞の興奮性が低下しているから」と考えられています。
運動麻痺を有する脳卒中患者で損傷側の運動野をTMS で刺激すると、皮質脊髄路が完全に損傷していない場合には麻痺肢からMEPを誘発することができ、その感度は 66%程度であった。しかし、完全に損傷している場合には90%以上の確立でMEPが誘発されない
Kwon YH, et al. Combined study of transcranial magnetic stimulation and diffusion tensor tractography for prediction of motor outcome in patients with corona radiata infarct. J Rehabil Med. 2011 Apr;43(5):430-4. doi: 10.2340/16501977-0793. PMID: 21403983.
現場ではなかなか評価がむずかしいものにはなりますが、特殊な検査方法を用いて皮質脊髄路が損傷しているかチェックした場合に、運動麻痺が出現した、ということです。
各手指や足首と膝・股関節を分離して動かせないといった運動麻痺の症状の改善に関しては、皮質脊髄路の損傷度合いによって人それぞれ変わってくるかもしれません。
実は麻痺のない側にも姿勢の問題が…
脳卒中後には、姿勢に左右差が見られることが多いです。
すると先輩から、非麻痺側を見るように言われるんですね。
麻痺側の姿勢が崩れている、のは観察するとわかるのですが、
それだけでなく、反対側の下肢・体幹にも十分な筋緊張準備が認められないことがあります。
これは知っているか知っていないか、で非常に大きな違いがあります。
知らない場合は麻痺側だけを見て全体像を捉えようとしますが、
知っている場合は非麻痺側も見て左右の関係性から全体像を捉えることができるようになりますよね。
ではなぜ、非麻痺側に問題が出るのでしょうか?
非麻痺側に起こる神経の問題
随意運動の経路である「外側皮質脊髄路」が損傷した場合、“反対側”の四肢末梢の随意運動ができなくなる「運動麻痺」が出現します。
一方、筋緊張の調整を介して姿勢をコントロールする「皮質網様体脊髄路」が損傷した場合、“同側”の体幹・四肢近位部の筋緊張の調整・準備ができず「姿勢制御の問題」が起こるとされています。
ではその「姿勢制御の問題」とは一体どんな問題なのでしょうか?
姿勢制御の問題とは?
姿勢を安定させるには、「筋緊張」がとても重要になります。
その筋緊張に問題が出現すると、「姿勢が安定しなくなる」んですね。
筋緊張とは…?
筋緊張とは、筋肉が絶えず緊張している状態を指します。 通常、筋肉は収縮と弛緩の状態を繰り返し、必要に応じて動きや力を発揮します。
筋緊張は、さまざまな要因によって激しくなります。過剰になると筋肉が疲れやすくなり、筋肉の柔軟性や力の低下を引き起こします。
筋緊張が問題となる場合、ストレッチやマッサージ、運動療法、物理療法などの方法によって筋肉の緊張を解消することができます。また、ストレス管理や適切な姿勢を保つこと、適度な運動を行うことなども筋緊張の予防に役立ちます。
そうすると、随意性で固めるような戦略をとることがあります。
それにより、体軸の安定性が損なわれ、末梢の操作性が低下します。つまり四肢の随意性が十分に発揮できなくなってしまう可能性があります。
結果的に「分節的な動き」が困難となり、四肢末梢の動きが悪くなってしまい十分な随意運動が行えなくなってしまった結果、動作が安定しないという現象が起こるんですね。
つまり麻痺側の機能が十分に発揮できず、「麻痺側の運動障害」が起こってしまう…
これが非麻痺側の姿勢制御の問題によって起こってくる現象です。
つまり麻痺側の運動が十分に行えないことが、主に問題となりやすいのですが背景には「非麻痺側」の姿勢制御つまり筋緊張を準備できないといった問題が出現していること”も“考えられます。
(運動障害の原因、問題は一つではないため注意が必要です。)
まとめ
麻痺側が十分に動かすことができない…といった現象に目が行きやすいのですが、
実は非麻痺側にも問題が起こり、麻痺側の運動障害の問題をさらに複雑にさせている可能性があるんです。
もちろん麻痺側が問題になっていることが根本的な原因になるのですが、非麻痺側への介入もとても重要であるということですね。
麻痺がない側には問題がないわけではなく、「非」麻痺側と呼ぶ理由は、こういった神経系の問題から考えることができるので、ぜひ広い視点を持ち続けていきたいですよね。
最後まで読んでいただきありがとうございました!