こんにちは、あくてぃぶの戀田祐司(こいだゆうじ)です。

当店で一番多い悩みが、「指が勝手に曲がってしまう」という現象です。

この指が曲がる原因には、「神経性の要因」と「非神経性の要因」があり、両者が複雑に関わり合ってる可能性があります。

今回は、指が勝手に曲がってしまう、という現象の原因と、それに対するアプローチについて解説していきます。

脳卒中後に指が曲がってしまう原因は?

脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)を発症された方の中には、指が曲がってしまって伸ばすことが難しい、というお悩みを抱えています。

この指が勝手に曲がってしまう現象は、何が原因なのでしょうか?

一つ目は脳にダメージを受けたことによるものです。(神経性の要因)

そしてもう一つが脳にダメージを受けた結果、手指の筋肉や関節が変性した影響によるものです。(神経性の要因)

一つづつ解説していきます。

脳にダメージを受けた影響:神経性の要因

脳にダメージを受けると何がおこるのでしょうか?

症状は、場所によって人それぞれなのですが、

特に生活で困るのが、「運動障害(手足の動かしにくさ)」です。

その手足の動かしにくさの原因には、

  • 運動麻痺
  • 感覚障害
  • 痙縮
  • 低緊張
  • 同時収縮(共収縮)
  • 姿勢制御障害
  • 高次脳機能障害
  • 運動プログラム障害

など、多岐にわたります。

その中に、「痙縮」をはじめとする異常筋緊張、指を伸ばそうとしているのに曲げる筋肉にも力が入ってしまう「共収縮」というものがあります。

この異常筋緊張と共収縮が指を伸ばすことができない大きな要因だと考えられます。

痙縮とは?

痙縮という症状をご存知でしょうか?

「上位運動神経症候群の一部分として、伸張反射の過興奮性の結果生じる、腱反射の亢進をともなった緊張性伸張反射 (tonic stretch reflex) の速度依存性の亢進状態によって特徴づけられた運動障害」

 Lance JW: Symposium synopsis, in Spasticity: Disordered Motor Control (eds by Feldman RG, Young RR, Koela WP).Year Book Medical, Chicago, 1980; pp 487-489

とされており、

痙縮とは、上位運動ニューロン病変による、伸張反射を主体とする速度依存性に筋緊張が亢進した状態を指します。

痙縮が起こると、以下のような問題が生じることがあります

  1. 身体の制約: 痙縮によって筋肉が異常に収縮し、身体の一部が不自由な動きをすることがあります。この制約は、日常生活の動作や日常の活動に難しさをもたらすことがあります。
  2. 疼痛: 痙縮に伴って筋肉が硬直するため、痛みや不快感を感じることがあります。これは特に痙縮が頻繁に起こる場合や、長時間続く場合によく見られます。
  3. 姿勢とバランスの問題: 痙縮が関与する筋肉の収縮や強直性筋症がある場合、正しい姿勢を維持することが難しくなることがあります。また、均衡感覚にも悪影響を及ぼす場合があります。
  4. 機能障害: 痙縮によって筋肉の適切な動作が制限されることにより、手や足の動きや力の制御に問題が生じることがあります。日常生活の動作や精密な作業に支障をきたす可能性があります。
  5. 心理的な影響: 痙縮の症状が慢性化すると、患者は不安、うつ状態、自己効力感の低下などの心理的な影響を経験する可能性があります。これにより、生活の質や精神的な健康に悪影響を及ぼすことがあります。

ただし、状況によっては、逆に痙縮が運動の制御や安定性に役立つ場合もあります。

それでも、痙縮が制御不能で頻繁に起こる場合や、痛みや機能障害を引き起こす場合には、適切な評価と管理が必要です。

共収縮とは?

脳卒中後に手指を伸展(開く)しようとする際に、手指の屈筋(閉じる筋肉)が収縮してしまう現象は、一般に「共同収縮」と呼ばれることがあります。共同収縮は、脳卒中やその他の神経損傷後にしばしば見られる運動制御の問題であり、意図しない筋肉の収縮が生じるため、患者が正確な運動を行うことを妨げます。

共同収縮の主な特徴:

  • 意図した運動とは逆の方向の筋肉が活動する。
  • これが起こると、例えば手を開こうとする動作が困難になり、機能的な制限を引き起こす可能性があります。
  • 通常、運動の局所的な制御が損なわれるために生じる。

なぜ共同収縮が生じるか:

筋肉を独立して活動させることができない脳卒中による運動障害の重要な要因は、筋肉を独立して活動させることができないことである。

Wright ZA, Rymer WZ, Slutzky MW. Reducing Abnormal Muscle Coactivation After Stroke Using a Myoelectric-Computer Interface: A Pilot Study. Neurorehabil Neural Repair. 2014 Jun;28(5):443-51. 

筋の共収縮の増加は、脳卒中生存者における皮質脊髄路(CST)の障害と相関している

Sheng W, Li S, Zhao J, Wang Y, Luo Z, Lo WLA, Ding M, Wang C, Li L. Upper Limbs Muscle Co-contraction Changes Correlated With the Impairment of the Corticospinal Tract in Stroke Survivors: Preliminary Evidence From Electromyography and Motor-Evoked Potential. Front Neurosci. 2022 Jun 1;16:886909.

つまり運動麻痺により単関節運動が困難となることで、複数の筋肉を同時活性し動作を遂行するために共収縮が起こっているのではないか、と考えられます。

2次的な影響(非神経性の要因)

筋肉そのものに備わっている粘弾性などによっても筋緊張(筋肉の張り)は作られていますが、
これはそれぞれの部位によって性質に差があることが考えられます。

しかし、脳卒中後に運動障害が生じてしまい、手足を動かせなくなった結果、筋肉は性質を変えたり、短縮したり、筋肉そのものの粘弾性が変化すると考えられます。

イメージですが、

こういった結合組織の変化や、

筋節が減少することで張力が分散できないといったサルコメアの減少という状態が起こり、筋肉が伸ばされると生じる伸張反射が起こりやすい状態が出来上がってしまう、というわけです。

指が開かない…、どんなアプローチが有効?

原因によりアプローチ方法が異なるのですが、運動麻痺・痙縮に有効な方法について紹介していきます。

電気刺激療法

電気刺激療法についてはこちら

電気刺激療法は、手指の痙縮に効果的であるという強いエビデンスは現状ありません。

しかし手指運動機能に有効なことはわかっていますので、当施設でも積極的に行なっています。

また随意運動を同時に引き出していくことが重要なので、川平法と併用して行うことがあります。

 戀田祐司/脳梗塞リハビリスタジオActive on Instagram: "【Hebb則を意識したリハビリ】  脳卒中リハビリにおけるHebb則に従ったリハビリが重要ですが、
以下のような特徴があります。  - Hebb則とは、「同時に興奮するニューロンはシナプスの強さを増す」というルール。  - 脳卒中後の麻痺側の運動野では、入力と出力のニューロン間のシナプス強度が低下する。  - 反復的で効率的なトレーニングにより、入力と出力が同時に興奮することでシナプス強度が回復する。  - 単純な反復練習ではなく、段階的にタスク困難度を上げる課題指向トレーニングが重要。  - 麻痺側の運動意図と感覚入力と運動出力を組み合わせることがニューロン間の連合強化に有効。  - 早期からの反復練習が脳の可塑性を高め、より効果的な機能回復が期待できる。  - 患者の動機づけを高め、主体的な練習への参加がリハビリ効果を最大化する。  このように、Hebb則に基づいて脳卒中麻痺側の神経回路網を修復するリハビリは、単なる反復だけでなく患者の能動的参加が重要になります。
しかし随意的に動かすことが難しいため、
電気や振動刺激、徒手療法を併用してリハビリを行う必要があります☺️  #リハビリ#理学療法士#作業療法士#脳卒中リハビリ#豊橋"
戀田祐司/脳梗塞リハビリスタジオActive on Instagram: "【Hebb則を意識したリハビリ】 脳卒中リハビリにおけるHebb則に従ったリハビリが重要ですが、 以下のような特徴があります。 – Hebb則とは、「同時に興奮するニューロンはシナプスの強さを増す」というルール。 – 脳卒中後の麻痺側の運動野では、入力と出力のニューロン間のシナプス強度が低下する。 – 反復的で効率的なトレーニングにより、入力と出力が同時に興奮することでシナプス強度が回復する。 – 単純な反復練習ではなく、段階的にタスク困難度を上げる課題指向トレーニングが重要。 – 麻痺側の運動意図と感覚入力と運動出力を組み合わせることがニューロン間の連合強化に有効。 – 早期からの反復練習が脳の可塑性を高め、より効果的な機能回復が期待できる。 – 患者の動機づけを高め、主体的な練習への参加がリハビリ効果を最大化する。 このように、Hebb則に基づいて脳卒中麻痺側の神経回路網を修復するリハビリは、単なる反復だけでなく患者の能動的参加が重要になります。 しかし随意的に動かすことが難しいため、 電気や振動刺激、徒手療法を併用してリハビリを行う必要があります☺️ #リハビリ#理学療法士#作業療法士#脳卒中リハビリ#豊橋"
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局所振動刺激

局所振動刺激とは、バイブレーターなどを使い80hzー100hzの振動を筋肉または腱に直接与える方法になります。

振動刺激を直接適用したグループでは、介入直後に F 波パラメーターと修正アシュワース スケール スコアに大幅な改善が見られ、30 分後もその改善が維持されました。

Noma T, Matsumoto S, Shimodozono M, Etoh S, Kawahira K. Anti-spastic effects of the direct application of vibratory stimuli to the spastic muscles of hemiplegic limbs in post-stroke patients: a proof-of-principle study. J Rehabil Med. 2012 Apr;44(4):325-30.

といった報告があり、ストレッチや何もしない場合と比較して、30分程度の筋緊張の抑制が認められるというものです。

慢性脳卒中患者において、経頭蓋磁気刺激 (TMS) を使用して、橈側手根屈筋 (FCR) と上腕二頭筋 (BB) に繰り返し筋肉振動 (rMV) を適用することで痙縮の減少と運動機能の増加と並行して起こりました。痙縮の程度と皮質内抑制量との間には有意な相関関係が見出された。

Marconi B, Filippi GM, Koch G, Giacobbe V, Pecchioli C, Versace V, Camerota F, Saraceni VM, Caltagirone C. Long-term effects on cortical excitability and motor recovery induced by repeated muscle vibration in chronic stroke patients. Neurorehabil Neural Repair. 2011 Jan;25(1):48-60.

といった報告もあり、即時的に筋緊張を抑制する効果があることが示唆されます。

ではどれくらい行えば良いのでしょうか?

結論ですが、はっきりとはわかっていませんが、1分程度から効果が出始め、5分で頭打ちになることが多いと考えられています。

つまり筋緊張を改善するための局所振動刺激の最適な持続時間は明確ではなく、振動の種類、周波数、振幅、個々の患者の特性などのさまざまな要因に依存する可能性があります。短時間(筋肉あたり1-5 分)の局所振動療法は有益であることが示唆されています。

ストレッチ

ストレッチについてですが、

手関節痙縮に対する持続伸展装具の使用は、メタ解析で有効性が示されているが、質の高いランダム化比較試験の報告は少ない

Salazar AP, Pinto C, Ruschel Mossi JV, Figueiro B, Lukrafka JL, Pagnussat AS. Effectiveness of static stretching positioning on post-stroke upper-limb spasticity and mobility: Systematic review with meta-analysis. Ann Phys Rehabil Med. 2019 Jul;62(4):274-282. 

といった総合的な結果となっています。

やはり条件として長時間のストレッチ、特に徒手的な方法ではなくストレッチングボードなどを使ったストレッチであれば効果がある可能性が考えられます。

まとめ

脳卒中後に手指の屈曲が起きてしまう原因は多様です。

しかし原因をしっかりと明確にして、一つ一つの可能性を検証していくことで、今以上に手指の痙縮などの異常筋緊張を軽減が期待できます。

主治医や担当のセラピストに相談いただき、皆さんにとって適切なリハビリが選択できる一助となれば幸いです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。