脳卒中後に「立つとふらつく」「歩き始めに身体が片側へ流れる」「手を伸ばすと座っていられない」と感じるとき、筋力が足りないからだと考えられがちです。しかし、姿勢制御は筋力だけで決まりません。感覚情報を受け取り、身体の位置を把握し、その場に合う反応を選ぶ過程のどこで崩れているかを分けて見る必要があります。

この記事では、当事者・ご家族、初学者の理学療法士・作業療法士に向けて、脳卒中後の姿勢制御を「まっすぐ立てるか」だけで終わらせず、原因の見立て、評価、介入設計、再評価までを整理します。

結論!姿勢制御は「筋力」ではなく、条件に合う反応を選べるかで見ます

姿勢制御とは、座る、立つ、歩く、手を伸ばすといった動作の最中に、身体と環境の関係を保ちながら転倒を避け、目的の動作を続ける働きです。大切なのは、身体を動かさないことではなく、必要なときに必要なだけ動かせることです。

ふらつきがあっても、足関節で立て直せるのか、股関節や一歩で対応する必要があるのかは人によって異なります。同じ立位でも、足底からの感覚、視線、関節の動く範囲、体幹と下肢の出力、注意の向け方によって、選ぶべき反応は変わります。

脳卒中後の姿勢制御を感覚入力、身体位置、反応の選択に分けて示した図解

そのため「体幹を鍛えればよい」「まっすぐ立つ練習だけを増やせばよい」とは限りません。まずは、どの状況で何が崩れ、どの条件を変えると動作が変わるかを確かめることが出発点です。

なぜそう見えるのか|姿勢制御は感覚、位置、反応をつなぐ仕組みです

姿勢制御には、大きく分けて二つの目的があります。一つは、身体各部と環境との位置関係を保つ「定位」です。例えば、椅子に座ってコップへ手を伸ばすとき、骨盤、胸郭、頭部、腕の位置を課題に合わせます。もう一つは、重心の動きに応じて倒れないようにする「平衡」です。こちらでは、足関節、股関節、踏み出しなどを使い、支持基底面に対して身体を保ちます。

脳卒中後は、麻痺側の足底感覚や関節位置覚が弱くなること、視覚へ過度に頼ること、前庭情報との統合が乱れることがあります。また、麻痺側の足関節が十分に動かない、体幹を選んで動かしにくい、必要なタイミングで筋活動を出しにくいという問題も重なります。「揺れている」という観察だけでは、入力の問題か、出力の問題か、動かせる範囲の問題かを決められません。

座位で骨盤が後方へ倒れ、胸郭を起こすために頸部を強く伸ばす人もいます。これは単なる体幹筋力低下ではなく、骨盤の可動性、股関節の位置、背部痛、身体の垂直感覚、恐怖心などが関係する場合があります。立位で非麻痺側へ荷重が偏る場合も、麻痺側下肢の支持性だけでなく、足底感覚、疼痛、足関節可動域、転倒経験を確かめます。

よくある誤解|止まっていられることと、動作を続けられることは違います

壁や手すりに頼れば立っていられるため、「姿勢制御は大丈夫」と判断されることがあります。しかし、手すりを握ることで上肢支持が増え、足部と体幹で行うべき調整が見えなくなることがあります。逆に、手すりは安全な反復の条件として重要な場合もあります。手すりを使うかどうかではなく、使ったときに何が補われ、何を練習できるのかを明確にします。

静止立位で揺れが少ないことと、方向転換や物を運ぶときに安全に反応できることは同じではありません。静かに立つ課題では見えなかった問題が、リーチ、振り向き、狭い場所での方向転換、混雑した場所での歩行で現れることがあります。

また、身体を大きく動かさずにできた動作は、回復とは限りません。例えば、麻痺側へ荷重できず非麻痺側へ素早く逃がして立ち上がることは、目的動作を達成する代償として役立つ場合があります。一方で、麻痺側下肢で受ける能力や体幹を調整する能力が増えたのかは別に確認します。代償を否定するのではなく、生活で必要な安全性と、増やしたい能力を分けて評価します。

評価で分けるならこの順番|ふらつきを四つの仮説に分解します

「バランスが悪い」という訴えを一つの原因にまとめず、まず次の四つを候補として並べます。複数が重なっていることも珍しくありません。

脳卒中後のふらつきを感覚、可動域、運動出力、代償と恐怖に分ける図解
仮説観察する場面見極めるための操作
感覚入力の問題暗い場所、柔らかい床、足元を見ない立位で不安定さが増えるか視線、足底への接触、支持面を変え、動作がどう変わるかを見ます
可動域・アライメントの問題足関節背屈、股関節伸展、胸郭や骨盤の動きが課題を妨げるか手で位置を整える、靴や装具を調整する、ゆっくり動かして比較します
運動出力・タイミングの問題必要な方向へ体幹や下肢を動かし始められるか、遅れないか支えを減らしたとき、速度を変えたとき、合図を変えたときの反応を比べます
代償と恐怖の問題手すりを強く握る、動作が極端に遅い、特定の方向を避けるか安全を確保して小さな課題から試し、回避が減る条件を探します

痙縮、筋短縮、疼痛もこの過程で区別します。速く動かすほど抵抗が増えるなら痙縮成分、ゆっくりでも終末域が限られるなら筋腱や関節周囲の構造的制限、痛みで身体を固めるなら防御性収縮を疑います。同じ足部の内反や膝の伸びすぎでも、原因が違えば、振動刺激、装具、可動域への対応、課題設定の優先順位は変わります。

Activeの8ステップで考える|一時的な変化を仮説検証に使います

Activeでは、介入を先に決めず、問題点を見つけ、原因を推測し、順位づけを行います。例えば立ち上がりの直後に麻痺側へ崩れる人では、どの時点で骨盤が動かなくなるのか、足部が接地できているか、膝が支えられるか、視線が下がるかを動画と観察で確認します。

次に、手で足部の位置を整える、椅子の高さを変える、手すりで一部を支持する、視線の目標を置くといった一時的な条件変更を行います。これは「正しい姿勢を作る」ためだけではありません。どの操作で問題が変わるかを確かめ、原因の仮説に順位をつけるためです。

足部を整えた瞬間に立ち上がりが安定するなら、足関節の可動域や接地条件が重要かもしれません。椅子を高くしても崩れが同じなら、下肢の出力だけでは説明できず、体幹のタイミングや感覚の問題をさらに調べます。変化があった場合には、原因を解消するのに必要な能力を分解し、本人に意味のある課題へ落とし込みます。

評価表を使うなら、点数の横に動作を置きます

姿勢制御の評価には、発症時期や目的に応じて複数の尺度があります。急性期から座位・立位の基本的な姿勢保持と姿勢変化を見るならPostural Assessment Scale for Stroke Patients、座位での静的保持、動的座位、協調性を分けるならTrunk Impairment Scaleです。立位や歩行中の反応的・予測的なバランスまで見るならMini-BESTestが役立ちます。

脳卒中後の姿勢制御を座位、立位、動的課題、再評価の順に評価する図解

尺度は点数をつけるためだけのものではなく、次に何を観察し直すかを決める道具です。Trunk Impairment Scaleで協調性の項目が難しい場合、静的座位の時間だけを延ばすより、骨盤を保ったままのリーチ、左右への荷重移動、足を使った方向転換など、課題内でどの要素が崩れるかを確認します。

歩行を目標とする人なら、TISやPASSだけで完結させません。10m歩行テストの速度と歩数、Timed Up and Goの立ち上がり・方向転換・着座、転びそうになった場面、屋外での歩行量を組み合わせます。同じ尺度、同じ靴、同じ補助具、できるだけ同じ環境で繰り返すことで、変化の意味を読み取りやすくなります。

介入を設計するならこう考える|姿勢を整えた直後に、必要な動作を反復します

可動域、感覚、出力、恐怖のどれが主因かを仮説として持ったら、目的動作に必要な能力を設定します。座位で食事をするためなら、ただ座っている時間を増やすより、骨盤を保ちながらテーブル上の物へ手を伸ばし、戻る課題を設計します。立ち上がりなら、足部の接地、前方への重心移動、麻痺側下肢の支持、立位後の安定までを連続して見ます。

課題の難易度は、成功だけが続く設定でも、失敗だけが続く設定でもなく、姿勢を調整しながら反復できる設定にします。手すり、椅子の高さ、支持面、移動距離、速度、注意を向ける対象を調整し、必要なら装具や電気刺激も一時的な条件づくりとして用います。

脳卒中後の姿勢制御に対する問題点、仮説検証、課題設定、再評価の流れを示す図解

「姿勢を正してから動く」という指示だけでは、本人が何を使って保てばよいかが曖昧です。足底へ荷重を感じることが難しいのか、胸郭を骨盤の上に戻せないのか、右へ重心を動かすことを怖がるのかを具体化し、その能力が必要になる動作を選びます。介入の直後には必ず同じ動作を再確認し、変化が生活場面へ移るかを見ます。

自宅と生活場面での注意|安全を守りながら、観察を残します

自宅では、転倒の危険がある立位練習や方向転換を、支えのない場所で一人で繰り返さないでください。めまい、急な麻痺の変化、強い頭痛、胸痛、意識の変化がある場合は、リハビリの工夫より先に医療機関へ相談が必要です。

ご家族が支援する場合は、身体を強く引っ張って「まっすぐにする」よりも、どの場面で崩れるかを記録することが役立ちます。例えば、椅子から立つ直後、洗面台で両手を使うとき、振り向いたとき、夕方に疲れたときなどです。転びそうになった状況、使った手すりや杖、疲れ方、痛みの有無を伝えると、評価の仮説を立てやすくなります。

アウトカムは「揺れが減ったか」だけで終わらせません

姿勢制御の変化は、本人が感じる安心感、観察される動作、尺度の点数、生活での活動を組み合わせて見ます。座位なら、両手を使う作業で姿勢が崩れずに続けられた時間やリーチの範囲、立位なら、立ち上がりから歩き始めまでに必要な介助量、歩行なら、方向転換時のふらつきやつまずきの頻度を記録します。

2026年の研究では、入院リハビリテーションを受ける脳卒中者65人を対象に、本人と理学療法士の変化の評価を基準として、PASSとTISの臨床的に意味のある変化量を検討しました。PASSは理学療法士の評価を基準に4.5点、TISは8.5点が目安として示されています。ただし、これは特定の対象・時期・評価法に基づく結果です。個人の目標や発症時期を問わず同じ点数を当てはめるのではなく、生活上の変化と併せて解釈します。

論文からどこまで言えるか|体幹練習は有望でも、内容の設計が必要です

Van Criekingeらの2019年のシステマティックレビューとメタ解析は、脳卒中後の体幹練習を扱う22研究、394人を統合しました。体幹コントロール、立位バランス、移動能力で効果が示されましたが、実施時間は合計3時間から36時間と幅があり、練習内容も体幹安定化、リーチ、荷重移動などさまざまでした。体幹を使う練習が選択肢になり得ることは示されても、全員に同じメニューを当てはめられることを意味しません。

Cabrera-Martosらの2020年のメタ解析でも、脳卒中者520人を含む14研究で、コアエクササイズはTISの改善に関連しました。一方で、Berg Balance ScaleやTimed Up and Goの総合解析では明確な差が示されませんでした。この結果は、姿勢制御の変化を「腹筋の運動をしたから」と単純化せず、課題、練習量、比較対象、測定した動作を確認する必要があることを示しています。

さらに、Hsiehらの前向き研究では、早期の体幹コントロールが、6か月後の基本的日常生活活動と手段的日常生活活動を合わせた機能の予測に寄与しました。予測因子であることは、体幹だけを鍛えれば機能が決まるという意味ではありません。姿勢制御を早い段階から評価しておくと、移乗、歩行、上肢活動へつながる問題を見つけやすい可能性があります。

Activeで見落としやすい分岐|「できた」理由を一つずつ確認します

Activeでよく確認するのは、手すりや非麻痺側への依存で動作が成立しているのか、それとも麻痺側にも必要な支持と調整が生じているのかという分岐です。例えば、立ち上がりが速くなっても、非麻痺側だけで押して麻痺側膝が崩れていれば、屋外や低い椅子での安全性は別に考える必要があります。

反対に、麻痺側へ一度も荷重させないことも、必ずしも安全とは限りません。疼痛、感覚低下、装具の適合、可動域、恐怖の程度を確認し、支えや難易度を調整したうえで、本人が必要な範囲の荷重と方向転換を経験できる条件をつくります。問題点、原因の順位、一時的な検証、必要能力、課題、反復、再評価という流れを崩さないことが、姿勢制御を生活の動作へつなげる鍵です。

最後にもう一度、要点を整理します

脳卒中後の姿勢制御は、筋力だけでは説明できません。感覚入力、身体の位置、可動域、運動出力、反応のタイミング、代償と恐怖を分けて見ます。姿勢を整えることは目的ではなく、本人に必要な立ち上がり、リーチ、方向転換、歩行を練習できる条件をつくるための手段です。

評価で問題が現れる場面を確かめ、条件を一つ変えて仮説を検証し、必要な能力を含む課題を反復します。そして、点数だけでなく、生活のなかで何ができたかを同じ条件で再評価します。

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参考文献

  1. Van Criekinge T, Truijen S, Schröder J, et al. The effectiveness of trunk training on trunk control, sitting and standing balance and mobility post-stroke: a systematic review and meta-analysis. Clinical Rehabilitation. 2019;33(6):992-1002. PMID: 30791703. DOI: 10.1177/0269215519830159
  2. Cabrera-Martos I, Ortiz-Rubio A, Torres-Sánchez I, et al. The Effectiveness of Core Exercising for Postural Control in Patients with Stroke: A Systematic Review and Meta-Analysis. PM&R. 2020;12(11):1157-1168. PMID: 31950672. DOI: 10.1002/pmrj.12330
  3. Hsieh CL, Sheu CF, Hsueh IP, Wang CH. Trunk control as an early predictor of comprehensive activities of daily living function in stroke patients. Stroke. 2002;33(11):2626-2630. PMID: 12411652.
  4. Aka T, Kahraman T, Altas EU. Minimal Clinically Important Difference for Postural Assessment Scale for Stroke Patients and Trunk Impairment Scale in Persons With Stroke. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 2026;107(2):244-250. PMID: 40633606. DOI: 10.1016/j.apmr.2025.06.017
  5. Martins LG, da Costa RDM, Sartor LCA, et al. Clinical factors associated with trunk control after stroke: A prospective study. Topics in Stroke Rehabilitation. 2021;28(3):181-189. PMID: 32772828. DOI: 10.1080/10749357.2020.1805244