こんにちは。脳梗塞リハビリスタジオActive豊橋の戀田です。
いつもブログをご覧いただき、ありがとうございます。
「画像初見(X線やCTなど)やエコーで大きな異常はないですねと言われたのに、肩の痛みが全然良くならない」「注射や湿布、マッサージをしても、その場しのぎにしかならない」
リハビリの現場で、こうしたお悩みを本当によく伺います。
画像検査で大きな問題が見つからないのに、なぜこんなに痛むのか。その答えは、実は「骨や筋肉」だけでなく、「神経レベルでの痛みの誤作動」にあるかもしれません。
今回は、脳卒中後の肩痛について、最新の研究をもとに「なぜ組織が壊れていないのに痛いのか」「どんなときに神経の痛みを疑うべきか」「その痛みとどう向き合えばいいのか」を、できるだけわかりやすく解説していきます。
脳卒中後の肩痛には「複数の顔」がある
脳卒中後の肩の痛み(片麻痺肩痛)について、従来は次のような「組織のトラブル」で説明されることが一般的でした。
- 肩関節の亜脱臼
- 腱板損傷やインピンジメント症候群
- 関節包炎(いわゆる五十肩)
- 痙縮による筋バランスの崩れ
- CRPS(複合性局所疼痛症候群)
これらの要因があれば、確かに動かしたときの鋭い痛みや特定方向の運動での痛みは出やすくなります(Winstein, 2016; Liao, 2025)。
しかし、最近の研究では新しい視点が提示されています。「脳卒中後の片麻痺肩痛は、機械的な問題だけではなく、中枢・末梢を含めた神経系の過敏さも深く関わっている」ことが明らかになってきました(Yamada, 2025; Hasoon, 2021)。
実際、片麻痺肩痛のある患者さんを調べると、以下のような特徴が確認されています:
- 肩だけでなく離れた部位でも痛みの閾値が低下
- 痛みを抑えるはずの脳の仕組みがうまく働いていない
つまり、「肩関節そのもののトラブル」に加えて「神経系の痛みの過敏さ」という二つの問題が重なっている方が決して少なくないということです。
“神経の痛み”とは何が違うのか
ここでいう”神経の痛み”は、専門的には「神経障害性疼痛」や「中枢性疼痛」と呼ばれます。
脳卒中後の痛みは、大きく次の二つに分類されます(Mohanan, 2023; Klit, 2009):
侵害受容性疼痛
肩の関節や筋肉など、組織の炎症・損傷に基づく痛みです。いわゆる「ケガをしたら痛い」という、理解しやすいタイプの痛みです。
神経障害性疼痛(中枢性を含む)
脳や脊髄など、中枢神経の損傷や過敏化によって生じる痛みです。組織の損傷が軽微でも、神経回路の異常によって強い痛みを感じてしまうのが特徴です。
特に注目すべきは、視床や脊髄路などが損傷された後に出てくる**「中枢性脳卒中後疼痛(CPSP)」**です。これは脳卒中患者の8〜35%程度に起こるとされ(Klit, 2009; Tamasauskas, 2025)、次のような独特な特徴を持ちます:
- 焼けるような痛み
- 電気が走るような痛み
- 服が触れるだけでも痛い(アロディニア)
- ジンジン、ヒリヒリと持続する感覚
重要なのは、この痛みが肩や上肢に限局して感じられることもあるという点です(Mohanan, 2023; Stroke Association, 2024)。
ある研究では、**「片麻痺肩痛の患者さんは肩以外の場所でも痛覚が過敏になっており、感覚検査を行うと典型的な神経障害性疼痛に似たパターンを示す」**ことが報告されています(Zeilig, 2016)。
組織損傷だけでは説明できない”神経”のメカニズム
では、「組織はそれほど壊れていないのに痛い」背景には、具体的にどんなメカニズムがあるのでしょうか。三つの重要なポイントで説明します。
①中枢と末梢の「痛みの過敏化」
日本のグループが行った最新の研究では、画期的な発見がありました(Yamada, 2025)。
脳卒中後の肩痛がある方は:
- 軽い押圧でも強い痛みを感じやすい(圧痛閾値が低い)
- さらに、本来痛みを抑えるはずの仕組み(CPM:条件付き痛み抑制)が弱くなっている
この研究は、「脳卒中後の肩痛には、末梢の問題だけでなく、中枢性感作(痛み回路の過敏化)が関わっている」と結論づけています。
つまり、肩の組織トラブルとは別に:
- 痛みのボリュームが上がりやすい
- その一方で、ブレーキ機能がかかりにくい
という神経の状態が上乗せされている可能性があるということです。これは、一般的な肩痛でも「中枢性感作」が関わることがあるという報告とも一致します(Sanchis, 2015)。
②脳そのものの損傷による「痛み回路」の異常
視床・内包・脊髄路など、痛みの情報を中継するルートが傷つくと、中枢性脳卒中後疼痛(CPSP)と呼ばれる慢性の神経障害性疼痛が生じることがあります(Klit, 2009; Dydyk, 2023)。
この痛みの特徴:
- 温度変化で悪化しやすい
- 触れられるだけで強い痛みが出る(アロディニア)
- ジンジン・ヒリヒリ・電気が走るような性質
ここで重要なのは、「肩の組織」ではなく、「痛みを感じる脳側の回路」が壊れているために起きる痛みということです。
③長引く痛みによる「学習」と「恐怖」の上乗せ
最近注目されているのが、心理・認知的要因の影響です(Mohanan, 2023)。
- 長く続く痛み
- 「また痛くなるかもしれない」という恐怖や予測
これらが重なることで、脳の中で痛みに対する感受性がさらに上がってしまうことがあります。
「肩を動かすと危ない」「壊れるかもしれない」と強く思えば思うほど、同じ刺激でもより強い痛みとして脳が処理してしまうのです。
結果として、組織のダメージ + 痛み回路の過敏さ + 心理的な要因がミックスされた、複雑な痛みが生じることになります。
どんなときに”神経の痛み”を疑った方がいい?
ご自身やご家族の肩の痛みが、次のような特徴を持っている場合は、神経の要素が関わっていないかを、一度専門家に相談してみることをお勧めします。
典型的な症状の特徴
- 服が触れたり、シャワーが当たるだけで強い痛みが出る
- 何もしなくても、ジンジン・ジリジリと続く痛みがある
- 「焼ける」「ビリビリ」「電気が走る」といった表現がしっくりくる
- わずかな刺激なのに、痛みが必要以上に長く続く
- 肩だけでなく、腕全体・体の片側に広がるような痛みがある
- 画像検査で大きな損傷は見つからないのに、痛みが非常に強い
こうした特徴は、中枢性脳卒中後疼痛や神経障害性疼痛の典型的なパターンと重なります(Klit, 2009; Zeilig, 2016; Stroke Association, 2024)。
重要な注意点
ただし、これは「神経の痛みだから、組織の検査はいらない」という意味ではありません。
組織側の問題(亜脱臼・腱板・関節包炎など)と神経側の問題(中枢性・末梢の過敏化)の両方をしっかり評価して、「どのくらいの割合で絡んでいるか」を見極めることが重要です(Liao, 2025; Yamada, 2025)。
では、どうすればいいのか?前向きにできる4つの工夫
「神経の痛み」と聞くと、「一生変わらないのでは…」という不安を持たれる方も多いです。
しかし、実際には痛みの”ボリューム”を下げたり、痛みとうまく付き合いながら機能を取り戻したりするという方向性は、十分に目指すことができます。
ポイント1:「壊れていなくても痛いことがある」と知る
まず大事なのは、痛み = 必ずしも「組織が壊れている」わけではないという事実を知ることです(Mohanan, 2023)。
これを理解できると:
- 「動かしたらもっと壊れるのでは」という恐怖
- 「痛い=もうダメだ」という思い込み
これらを少し和らげることができます。
もちろん、「だから無理に動かしていい」という話ではありません。「壊れてはいないのに、怖くて全く動かさない」という悪循環を止めることが重要なポイントです。
ポイント2:薬物治療も”選択肢の一つ”として知っておく
中枢性脳卒中後疼痛に対しては、一般的な痛み止めとは異なるアプローチが有効な場合があります(Tamasauskas, 2025; Klit, 2009):
- 抗うつ薬
- 抗てんかん薬
- その他の神経障害性疼痛に対する薬
薬は万能ではありませんが、「痛みのボリュームを少し下げ、その上でリハビリや日常生活の活動量を増やしていく」という意味で、重要なサポートになることがあります。
服薬の可否や種類・量の調整については、必ず主治医やペインクリニック専門医に相談してください。
ポイント3:リハビリでは「安全な範囲での反復」と「感覚の再教育」
リハビリテーションの主な役割は:
- 痛みが強くなりすぎない範囲で、関節や筋肉を動かし続ける
- 混乱している感覚情報を、少しずつ整理し直す
具体的なアプローチとしては(Yamada, 2025; Mohanan, 2023):
- 亜脱臼やポジショニングを整えたうえでの他動・自動運動
- タオル・スポンジ・ブラシなどを用いた、やさしい触刺激から始める感覚トレーニング
- 「ここまでは痛みが強くならない」ラインを一緒に見つけ、その範囲で反復する
中枢性の痛みに対しては、経頭蓋直流刺激(tDCS)などの脳刺激で痛みや感覚が改善した報告も出てきていますが(Bae, 2014)、現時点では、すべての施設・すべての方に標準的に提供できる段階ではありません。
その意味でも、「日常の中でできる範囲の運動と感覚トレーニング」が非常に重要になってきます。
ポイント4:「痛みとうまく付き合いながら機能を取り戻す」という発想
どうしても「痛みがゼロにならないと何もできない」という考え方になりがちですが、現実的には: ・痛みを理解し ・コントロールできる範囲を少しずつ広げ ・そのうえで「できること」を増やしていく
という方向にシフトした方が、結果的に生活の満足度が上がることが多いです(Liao, 2025; Stroke Association, 2024)。
具体的な変化の例:
- 以前なら諦めていた家事が「5分だけ」できるようになる
- 散歩の距離を「あと50mだけ」伸ばせるようになる
- 痛みがあっても、不安に押しつぶされずに過ごせる時間が増える
こういった小さな積み重ねが、長い目で見たときに大きな差になります。
まとめ:肩の痛みの「正体」を知ることが第一歩
今回の内容を整理すると:
- 脳卒中後の肩痛には「組織の問題」と「神経の痛み」が混ざっていることが多い
- 最新の研究では、片麻痺肩痛で中枢と末梢の痛みの過敏化がはっきり示されている(Yamada, 2025)
- 視床などの損傷により、中枢性脳卒中後疼痛として焼ける・ビリビリ・触れるだけで痛いタイプの痛みが肩〜上肢に出ることもある(Klit, 2009; Zeilig, 2016)
- 「組織が壊れているから痛い」だけでなく、「痛みの回路の誤作動」という視点を持つことで、過度な恐怖や諦めを減らし、現実的な対策に繋げられる
- 薬物治療・リハビリ・教育を組み合わせることで、「痛みとうまく付き合いながら、機能と生活の質を高めていく」ルートが見えてくる
肩の痛みで悩んでいる方に、「自分の痛みには、こういう背景があるのかもしれない」と感じていただけたら幸いです。
脳梗塞リハビリActive西小鷹野店としてできるサポート
脳梗塞リハビリActive西小鷹野店では、お一人おひとりの状態に合わせた包括的なリハビリプログラムを提供しています:
- 電気刺激療法
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これらをオーダーメイドで組み合わせ、退院後のリハビリをサポートしています。
こんなお悩みがあれば、ぜひご相談ください:
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- 「今よりもう一歩、できることを増やしたい」
一度ご相談いただければ、現状の整理と今後の方向性を一緒に考えさせていただきます。
参考文献
Bae, S. H., Kim, G. D., Kim, K. Y., & Lee, S. M. (2014). Analgesic effect of transcranial direct current stimulation on central post-stroke pain. The Tohoku Journal of Experimental Medicine, 234(3), 189–195. https://doi.org/10.1620/tjem.234.189
Dydyk, A. M., Conermann, T., & Cochran, J. (2023). Thalamic Pain Syndrome. In StatPearls. StatPearls Publishing. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK554490/
Jones, A. K. P. (2013). Post-stroke shoulder pain: Nociceptive or neuropathic? Pain, 154(2), 193–194. https://journals.lww.com/pain/fulltext/2013/02000/post_stroke_shoulder_pain__nociceptive_or.5.aspx
Klit, H., Finnerup, N. B., & Jensen, T. S. (2009). Central post-stroke pain: Clinical characteristics, pathophysiology, and management. The Lancet Neurology, 8(9), 857–868. https://doi.org/10.1016/S1474-4422(09)70176-0
Liao, Y. K., et al. (2025). Hemiplegic shoulder pain: A narrative review. Rehabilitation Practice and Science. https://rps.researchcommons.org/cgi/viewcontent.cgi?article=2247&context=journal
Mohanan, A. T., et al. (2023). Stroke-induced central pain: Overview of the mechanisms, management, and current challenges. Frontiers in Neurology. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10459894/
Sanchis, M. N., Lluch, E., Nijs, J., Struyf, F., Kangasperko, M., & Fernández-de-Las-Peñas, C. (2015). The role of central sensitization in shoulder pain: A systematic literature review. Pain Physician, 18(6), E713–E726.
Stroke Association. (2024). Pain after stroke. Stroke Association. https://www.stroke.org.uk/stroke/effects/physical/pain-after-stroke
Winstein, C. J., et al. (2016). Guidelines for adult stroke rehabilitation and recovery: A guideline for healthcare professionals from the American Heart Association/American Stroke Association. Stroke, 47(6), e98–e169. https://doi.org/10.1161/STR.0000000000000098
Yamada, T., Hattori, T., Ohga, S., Shimo, K., & Matsubara, T. (2025). Pain sensitization as a key mechanism in post-stroke shoulder pain: A cross-sectional observational study. Pain Research, 40(1), 93–101. https://doi.org/10.11154/pain.40.93
Zeilig, G., et al. (2016). Does hemiplegic shoulder pain share clinical and sensory characteristics with neuropathic pain? The Clinical Journal of Pain, 32(7), 588–597. https://europepmc.org/article/med/26761563
