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今回は、網様体脊髄路と前庭脊髄路と痙縮の関係について解説していきます。
下行性神経ネットワークの種類
脳を出発地点として、脊髄へ投射していく線維のことです。
これを主に投射線維と表現することもあります。
※同側の脳内を結ぶ神経線維を連合線維、左右の脳を結ぶ神経線維を交連線維といいます。
腹内側系(内側制御系)と背外側系(外側制御系)の2つに大別されます。
腹内・背外側系と表現されている場合のほとんどは「動物(特に猫、猿)」を対象とした研究であることが多いということは、豆知識として頭に入れておきましょう。
つまり、表現のされ方によっては、その文献を人間に適応できるのかどうかは吟味する必要があるということです。
脳卒中後遺症者に対して神経学的な運動学習を通じて、機能的な姿勢と運動の再構築を行っていかなければならない。
この神経学的な再構築の過程を神経学的リハビリテーション(neurological rehabilitation)といいます。
この神経学的リハビリテーションを施行していく際には、この「内側制御系」と「外側制御系」 の神経システムの内容を常に念頭に置いて治療介入を行うことが求められる、と考えています。
では早速、内側制御系と外側制御系の神経経路の種類・役割について学んでいきましょう。
内側制御系の種類と役割
一番適切な表現が『安定性に関与するシステムである』かなと思います。
この神経システムは、体幹や肩甲帯や骨盤帯周囲の筋群を働かせて、
- 身体の抗重力位での姿勢の安定性
- 姿勢オリエンテーション(課題に対する適切な方向づけ)
の役割を担っていると考えられています。
抗重力位での姿勢の安定性
上肢や下肢といった末梢部も安定性に関与するシステムがコントロールする場合もあるが、
もっとも主軸となるのが、「コア・コントロール(Core control)」と「先行的姿勢調整機能(Anticipatory Postural ajustments:APA’s)」働きを作り出すことです。
主たる経路として働くのは「橋網様体脊髄路、前庭脊髄路」であると考えられています。
抗重力位での姿勢の安定性を作り出すことを目的とした介入において、絶対的に理解をしておくべきなのが
「いつ・どのように・なんのために働くのか」です。
日本でしか使われていない表現ですが、馴染み深いのは「錐体外路」かと思います。
この経路の働き方には2つあり
Feedforward(先行的)に働く経路と、Feedback(随伴的)に働く経路に大別されます。
Feedbackは、かつて感覚情報を処理したのち働くものであるため、動作中にFeedbackされた感覚を使った運動の修正では間に合わないとされていたが、おそらくその様なことはないと思っています。
例えばスキー選手が凸凹の道を滑り降りていくときに、全てFeedforward系で調整しているのかと言われると、おそらくその様なことはないと思います。Feedbackされた凸凹道の感覚も瞬時に取り込みながら修正をしつつ、安全に動作を遂行しているはずですよね。
Feedforwardの部分ももちろん重要ですが、動作中にはFeedbackによって働くシステムも重要であることは想像に容易いですよね。
Feedforward系の神経システムには、必ず「大脳皮質」が関与し、「皮質○○脊髄路」と表現されます。
逆にFeedback系の神経システムは、「大脳皮質」の一部関与はありますが、「○○脊髄路」と表現されていますので、ここはしっかりと区別して理解していきましょう。
どこから投射するのか
主に高次運動野から大脳基底核・脳幹(網様体、赤核、前庭)、小脳など複数の神経核に投射する発散の性質を持ちます。
(発散:一箇所の部位から複数の箇所へ投射すること)
そこから橋網様体、前庭神経核から脊髄に投射するため
”橋網様体”+脊髄路、”前庭”+脊髄路
といい、出発地点から終着地点までを繋げた名前になっているとされています。
障がいされると起こりうること
姿勢を安定化させるための筋緊張に障がいが生じる可能性があります。
また、体軸の安定が損なわれるため、四肢の操作性が低下し分節的な運動が困難となることが考えられます。結果として上肢の巧緻性が低下するなどの現象が起こってくるかもしれません。
複数の神経核が互いにネットワーク構造を持ちながら機能しているため、ラクナ梗塞が多発梗塞として生じることで、すくみ足や突進歩行様になってしまうことが推測されます。(もちろん全員ではありません)
橋網様体脊髄路や前庭脊髄路の働きのイメージ
橋網様体脊髄路や前庭脊髄路の役割は、姿勢筋のコントロールと表現されることが多いのですが、実際にはγ運動神経細胞や脊髄介在神経細胞に投射し、筋紡錘の感度を調整することで姿勢や動作の制御に貢献しています。
分かりやすくいうと「筋緊張の調整」によって動作に先立つ姿勢制御や随伴的な制御を行っていると考えられています。
イメージとしてはこちらの図ですが、
手を前に挙上すると、手の質量分の身体質量中心は前方へ移動します。
それに先立って、今から起こる動作によって生じる身体質量中心の移動を相殺できるように後方へ移動させる、といった仕組みで動作時に体が大きく前に傾くことなく、スムーズかつ安全に動作を行うことが可能となります。
この先立って姿勢保持筋の活動を起こすことをAPA’s(先行随伴性姿勢制御)といいます。
ではこの働きが障害されると、どんな現象が起こるか、はもう分かりますよね?
そう、手を挙げると倒れます。
そして脳卒中後に運動麻痺を呈した方に多くみられる現象でもあります。
その理由は本当に運動麻痺なんですか?
と聞かれると、否ですよね。こういった下行性ネットワークが働かないことで姿勢制御が行えず、COMの移動を制御できない結果、倒れてしまう、可能性があるというわけです。
もちろん神経系だけの話ではありません。これらの神経系が働かないことによって生じる「本来起こるはずだった身体活動」が生じなくなることが実際には問題となります。
分かりやすいのが、「筋活動が適切なタイミングで起こらない」という現象ですね。
セラピストは「ある動作を適切に行うためにはどんな要素(筋活動やバイオメカニクス)が必要か」を知っておく必要があります。
橋網様体脊髄路・前庭脊髄路と痙縮の関係について
網様体脊髄路と前庭脊髄路は、興奮性と抑制性によって脊髄伸張反射を調節しており、痙縮に関与すると考えられていることを説明してきました。
再度おさらいですが、
網様体脊髄路は、前庭脊髄路と同側の相互関係により、同時に多くの筋肉を選択的に活性化させることができます。
網様体脊髄路の興奮性増大は、脊髄内ネットワーク入力による脊髄反射の増大、速度依存性の抵抗と安静時の筋緊張の増大、正常な刺激や不快刺激に対する過剰反応、定型的シナジーパターン、連合反応などを引き起こすことがあると考えれています。
網様体脊髄路の興奮性のバランス不全に伴う皮質脊髄路の随意的な活動の減少と定型的な同時収縮、放散の出現、痙縮様の同時収縮(運動制御不全)などが報告されています。
網様体脊髄路には興奮と抑制の働きがありますが、このうち抑制の働きをもつ外側網様体脊髄路は「皮質からの投射」が必要になると考えられています。
しかしながら脳卒中後に運動麻痺を呈した方の中には「皮質から網様体に投射する皮質網様体路」が損傷してしまう可能性があります。
結果として抑制の働きを持つ網様体脊髄路は働くことができず、興奮性の働きをもつ「橋網様体脊髄路や前庭脊髄路が過剰興奮する」可能性があるんですね。
したがって、冒頭にあるように
網様体脊髄路と前庭脊髄路は、筋緊張の制御に関与しており、痙縮に発生に何らかの影響を与えることが示唆されている、というわけなんですね。
結果として、動き出すと腕が曲がる、膝が突っ張るという現象が起こってくる、と考えられます。
網様体脊髄路は介在神経細胞にも多く投射しており、上肢には屈曲優位、下肢には伸展優位の介在神経細胞があると考えられているため、上述の現象が起こってくるわけなんですね。
まとめ
橋網様体脊髄路・前庭脊髄路と痙縮の関係について解説してきました。
- 網様体脊髄路は筋緊張を調整し、働きには興奮性と抑制性がある
- そのうち筋緊張を抑制する抑制性網様体脊髄路は皮質からの投射が必須
- しかし脳卒中後にはその皮質網様体投射が困難となることがある
- 結果として筋緊張を高くする興奮性網様体脊髄路(橋網様体脊髄路や前庭脊髄路)が過剰興奮した状態になる
というわけですね。
まだこれらの知見も変化する可能性がありますが、現時点ではこのように考えられていますので参考になりましたら幸いです!
最後までありがとうございました。
こちらも併せて読むと理解が深まりますよ!
参考文献
Li S, Chen YT, Francisco GE, Zhou P, Rymer WZ. A Unifying Pathophysiological Account for Post-stroke Spasticity and Disordered Motor Control. Front Neurol. 2019 May 10;10:468. doi: 10.3389/fneur.2019.00468. PMID: 31133971; PMCID: PMC6524557.
Li S, Chen YT, Francisco GE, Zhou P, Rymer WZ. A Unifying Pathophysiological Account for Post-stroke Spasticity and Disordered Motor Control. Front Neurol. 2019 May 10;10:468. doi: 10.3389/fneur.2019.00468. PMID: 31133971; PMCID: PMC6524557.
Haber, L., Martin, R., Chung, J., & Willis, W. (1980). Inhibition and excitation of primate spinothalamic tract neurons by stimulation in region of nucleus reticularis gigantocellularis.. Journal of neurophysiology, 43 6, 1578-93 .