# 反張膝(バックニー)はなぜ起こるのか — 脳卒中後の膝過伸展を分解する

脳卒中後の歩行で「膝が後ろに反り返るように曲がってしまう」と感じている方、あるいは「まっすぐ立てているはずなのに膝が抜ける感じがする」という訴えを持つ方は少なくありません。この状態を反張膝(はんちょうひざ)またはバックニー(genu recurvatum)と呼びます。

反張膝は転倒リスクを高め、膝関節への機械的負担を蓄積させ、長期的には関節の変形にもつながります。しかしその原因は一様ではなく、個別の評価なしに対処法を決めることはできません。この記事では、反張膝がなぜ生じるかを運動学・神経学の両面から整理し、評価と介入の考え方を示します。


反張膝とは何か

反張膝とは、立脚期(足が地面に着いて体重を支える局面)において、膝関節が中間位から後方に過剰に伸展する状態です。正常な立脚では膝は軽度屈曲位(約5〜10度)を保ちながら体重を支えますが、反張膝ではこれが崩れ、膝が後方に反り返ります。

脳卒中後片麻痺においては、麻痺側の立脚期に反張膝が生じることがあります。外観上は「膝が伸びている=支えられている」ように見えますが、この姿勢は膝関節の後方支持構造(後方関節包・十字靭帯・腓腹筋)に継続的なストレスを与えており、長期使用によって問題が蓄積します。


反張膝が起きる4つの主な原因

反張膝の原因は単一ではなく、以下の複数の因子が単独または組み合わさって生じます。どの因子が主体かを評価で見分けることが、介入の方向性を決める出発点になります。

1. 大腿四頭筋の筋力低下

膝関節の安定した伸展制御には、大腿四頭筋が適切なタイミングで活動することが必要です。脳卒中後の片麻痺では、大腿四頭筋の随意収縮力が低下することがあり、立脚初期に膝が「曲がりきれずに後ろに押し込まれる」状態が生じます。

筋力低下による反張膝では、膝関節固有感覚(膝の屈伸位置を感知する能力)の低下が合わさると、患者自身が過伸展していることに気づきにくくなります。

2. 足関節底屈拘縮・痙縮

足関節が底屈位(つま先が下を向いた位置)に固定されている、または痙縮によってその姿勢に引き寄せられている場合、立脚中期以降に脛骨が前方に倒れることができなくなります。脛骨の前傾が制限されると、体重心を前方に移動させるために膝が後方に押し込まれ、反張膝のパターンが生じます。

足関節底屈拘縮が反張膝の主原因である場合、足関節への介入(ストレッチング・装具・ボツリヌス療法など)が膝の動態を改善させることがあります。

3. 固有感覚障害

膝関節の位置感覚(固有感覚・深部感覚)が低下していると、立脚中に膝がどの位置にあるかを正確に把握できなくなります。その結果、無意識のうちに「最も安定して感じる姿勢」として骨性ロック(膝の過伸展)を選択するパターンが生じます。

固有感覚障害による反張膝は、外から見ただけでは筋力低下によるものと区別しにくく、評価(位置覚テスト・振動覚テスト)が必要です。

4. 大腿四頭筋の痙縮

大腿四頭筋が痙縮によって過活動状態にある場合、立脚期に膝が過伸展方向に強制されることがあります。これは前述の「筋力低下」とは逆のメカニズムですが、結果として同様に反張膝という歩容が現れます。

痙縮による反張膝か、筋力低下による反張膝かでは、アプローチがまったく異なります。前者では痙縮の管理が優先され、後者では筋活動の再獲得と固有感覚の強化が中心になります。評価なしに介入方針を決めることはできません。


反張膝は「代償」か

反張膝の多くは代償的な戦略です。

膝の安定した屈曲制御や、足関節の正常な動態が失われている状態で体重を支えるために、身体が選択する「別のルート」が反張膝です。骨性ロック(完全伸展位での骨格による支持)によって、筋活動なしでも立脚を維持しようとする戦略とも言えます。

この代償は短期的には転倒を防ぐ機能を持ちますが、長期的には以下の問題につながります。

  • 膝関節後方支持構造への持続的な機械的ストレス
  • 歩行の非効率化(エネルギーコストの増大)
  • 正常な立脚パターンを学習する機会の喪失
  • 足関節・股関節・腰部への代償的負担の蓄積

評価のポイント

反張膝の原因を特定するためには以下の評価が有効です。

立脚中の膝角度の観察

横から歩行を観察し、立脚初期・中期・終期それぞれで膝が過伸展しているかを確認します。過伸展の程度・タイミングによって原因の推定がある程度可能です。

足関節の評価

他動的な足関節背屈ROM(可動域)を測定し、制限があるかを確認します。底屈拘縮がある場合は、その程度と原因(拘縮か痙縮か)を鑑別します。

大腿四頭筋の随意収縮と筋緊張

座位または背臥位で大腿四頭筋の随意収縮を確認します。収縮力が十分かどうか、またMAS(Modified Ashworth Scale)などで痙縮の程度を評価します。

固有感覚の評価

閉眼での膝関節位置覚テスト(他動的に設定した角度を当てさせる)や振動覚テストによって、深部感覚の残存を評価します。

装具介入による変化の確認

足関節を中間位に固定するAFO(短下肢装具)を装着して歩行を観察し、反張膝が改善するかどうかを確認します。改善する場合は足関節の問題が主因であることが示唆されます。


リハビリの考え方

足関節へのアプローチ

底屈拘縮・痙縮が主因の場合、足関節の可動域改善と装具管理が優先されます。AFOによって足関節を中間位に保持し、脛骨前傾の確保を補助することで、膝の過伸展パターンを変えることができます。

ボツリヌス毒素療法(腓腹筋・ヒラメ筋への注射)は、痙縮が主因の場合にリハビリと組み合わせて用いられることがあります。

膝屈曲制御の課題練習

立脚中期に膝を意識的に軽度屈曲位に保つ練習が有効な場合があります。ただし、固有感覚障害がある場合は視覚フィードバック(鏡・ビデオ)を活用しながら行うことが効果的なことがあります。

重要な点として、「膝を伸ばしすぎないように」という指示だけでは効果が限定的です。膝屈曲位を維持するための筋活動パターンを実際の課題を通じて練習することが必要です。

固有感覚トレーニング

深部感覚障害が背景にある場合、荷重下での感覚入力を増やす課題(異なる面上での立位バランス練習、閉眼での立位など)が補助的に有用な場合があります。ただしエビデンスレベルはまだ高くなく、他の介入と組み合わせることが現実的です。

反張膝を「抑制するだけ」では不十分

過伸展を力で抑えるような練習(例:「膝を曲げてください」という口頭指示の反復)は、それだけでは代替する支持機能を生み出せません。反張膝を減らすためには、その代わりに何の機能を使って立脚を維持するかを同時に設計することが必要です。


よくある誤解

「膝が伸びているから歩けている」は正確ではない

骨性ロックによる支持は一見安定しているように見えますが、関節への負担・歩行効率・長期的な関節変形のリスクを考えると、積極的な介入が必要な状態です。

「反張膝は筋力をつければ治る」は単純すぎる

筋力低下が主因の場合は筋力向上が有効ですが、固有感覚障害・足関節拘縮・痙縮が主因の場合は、筋力トレーニングだけでは問題が解決しません。原因の評価が先です。


まとめ

反張膝は脳卒中後の立脚期に生じる膝の過伸展であり、筋力低下・固有感覚障害・足関節底屈拘縮・痙縮のいずれか、またはこれらの組み合わせによって起きます。

原因によってアプローチはまったく異なります。評価なしに一律の対応を行うのではなく、なぜ反張膝が起きているかを個別に分析し、その原因に対して介入を設計することが重要です。また、反張膝を「抑える」だけでなく、その代わりとなる正常な立脚機能を獲得するための課題設計が伴うことが必要です。


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参考文献

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