こんにちは!愛知県豊橋市の脳梗塞リハビリスタジオActive代表の戀田です!
当施設にお越しになられる方のほとんどが、装具を着けてこられます。
回復期病院に入院した時点で自分の装具を作るという方がほとんどなのですが、
装具を使うことでどんなメリットがあるのでしょうか?
また装具はすぐに作った方がいいのでしょうか…?
今回は「装具を早期に作った方がいいのか?また装具の痙縮に対する効果は?」について解説していきます。
はじめに
脳卒中の後遺症の一つとして、歩行能力の障害がありますが、その対策として短下肢装具(AFO)の使用がありますが、その使用タイミングについては意見が分かれます。
AFOは足首の安定性を高め、痙縮がある方には歩行時のバランスと効率を改善するために使用されるもの、というのが一般的に知られている役割ですが、実際にはどんな効果が確認されているのでしょう?
短下肢装具の使用のメリット
- 回復期脳卒中片麻痺患者の歩行効率に及ぼす影響:
井上 靖悟, 小宅 一彰, 山口 智史, 田辺 茂雄, 近藤 国嗣, 大高 洋平. “回復期脳卒中片麻痺患者の歩行効率に短下肢装具が与える影響―力学的エネルギーによる検討”. 総合リハビリテーション, 41巻7号, 2013 - 脳卒中後の歩行回復を促進するための足関節-足装具の選択:
McCain, K., Smith, P., & Querry, R. (2012). Ankle-Foot orthosis selection to facilitate gait recovery in adults after stroke: A case series. Jpo Journal of Prosthetics and Orthotics, 24, 111-121.- 研究では、足関節-足装具(AFO)を早期に使用することで、歩行の持久力、速度、対称性が向上し、正常な歩行パターンが促進されることが示されています。
- これは、装具を使用することで、歩行機能の回復が早まる可能性があります
- AFOの使用による歩行能力の改善:
Choo, Y.J., Chang, M.C. Effectiveness of an ankle–foot orthosis on walking in patients with stroke: a systematic review and meta-analysis. Sci Rep11, 15879 (2021). - 脳卒中患者の足関節-足装具介入に関するレビュー:
W., Wong, D., & Wong, A. (2009). A Review of Ankle Foot Orthotic Interventions for Patients with Stroke. , 1- 足関節-足装具の使用は、歩行のスイングフェーズでの足下垂を防ぎ、早期の立脚でかかとのストライクを促進します。
- これは、歩行の安定性と安全性を向上させることに役立ちます
- AFOの長期使用に関する情報の不足:
Tyson SF, Kent RM. Effects of an ankle-foot orthosis on balance and walking after stroke: a systematic review and pooled meta-analysis. Arch Phys Med Rehabil. 2013 Jul;94(7):1377-85.
といった効果が期待できるとされています。しかしながら当然デメリットも存在します。
短下肢装具使用のデメリット
- 筋肉活動の減少: AFO使用により、特定の筋肉群(例えば前脛骨筋)の活動が減少する可能性があります。
- 神経可塑性への影響: 使用する筋肉の減少は、神経可塑性の原則と矛盾する可能性があります。
- 長期依存のリスク: AFOの長期的な使用は、装具に依存するリスクを生じさせる可能性があります。
- 装着の時期による影響:装着の時期が、その後における遊脚期の前脛 骨筋の筋活動に影響しない可能性もあるが長期的な視点ではわからない
Nikamp CD, Buurke JH, van der Palen J, Hermens HJ, Rietman JS. Six-month effects of early or delayed provision of an ankle-foot orthosis in patients with (sub)acute stroke: a randomized controlled trial. Clin Rehabil. 2017 Dec;31(12):1616-1624.
といったデメリットもあります。
また、装具はつければ必ずいいわけではないというのも実際です。
装具を使ったけれども、思ったよりも歩けるようにならない、効果が乏しい、といったケースを経験したことがないでしょうか?
機能的な改善との関連性の不明瞭さに関しても報告されており、
装具を使用しても、重心移動や歩行バランスの寄与において顕著な変化が見られない場合があります。これは、装具による機能的な改善が、必ずしも下肢の重心移動やバランスコントロールの向上に直結しないことを示唆していますSimons, C., Asseldonk, E., Kooij, H., Geurts, A., & Buurke, J. (2009). Ankle-foot orthoses in stroke: effects on functional balance, weight-bearing asymmetry and the contribution of each lower limb to balance control.. Clinical biomechanics, 24 9, 769-75 .
つまり装具を理由なく漠然とつけてみても、効果が得られることもあるがそうでないこともありうるということです。
装具は下肢の痙縮に効果があるの?
痙縮に対して装具が処方されることがありますが、実際には痙縮に対して効果はあるのでしょうか?
以外と痙縮=装具ってなってしまっていることも…。
痙縮に対する装具は下腿のヒラメ筋の反射興奮性に有意な影響を与えないことが示されました。
Ibuki, A., Bach, T., Rogers, D., & Bernhardt, J. (2010). The Effect of Tone-Reducing Orthotic Devices on Soleus Muscle Reflex Excitability while Standing in Patients with Spasticity Following Stroke. Prosthetics and Orthotics International, 34, 46 – 57.
これは、これらの装具が痙縮に対して有意な神経生理学的効果を持たない可能性があることを示唆しています
といったこともあり、装具が痙縮に対して有効かどうかは少し立ち止まって考える必要がありそうです。
下肢の痙縮には装具よりも…
実は下肢の痙縮には装具よりも有効であるとされているものがあります。
それが、
- ボツリヌス毒素療法
- TENS(持続的電気刺激)
です。
下肢痙縮に対するTENSの効果は明確に示されている。下肢痙縮へのTENSは痙縮を有意に軽減させ、静的バランスおよび歩行速度を改善させる
Lin S, Sun Q, Wang H, Xie G. Influence of transcutaneous electrical nerve stimulation on spasticity, balance, and walking speed in stroke patients: A systematic review and meta-analysis. J Rehabil Med. 2018 Jan 10;50(1):3-7.
といわれています。一方上肢に関してはあまり有効ではない可能性も示唆されています。
またボツリヌス毒素療法に関しては、
亜急性期に下肢痙縮筋にポツリヌス毒素を投与した場合、8週間後における下肢運動機能、日常生活動作(ADL)、痙縮の改善が有意に大きくなっていた
Tao W, Yan D, Li JH, Shi ZH. Gait improvement by low-dose botulinum toxin A injection treatment of the lower limbs in subacute stroke patients. J Phys Ther Sci. 2015 Mar;27(3):759-62.
とされており、可能であれば積極的に行う方が推奨されるというレベルのグレードで脳卒中ガイドライン2021でも取り上げられております。
長下肢装具からのカットオフについて
余談ですが、長下肢装具から短下肢装具へのカットオフはいつしたらいいんだろう、というのが結構話題に上がることありません?
その一つの可能性として、
といった情報があります。
つまり、
入院時の下肢運動麻痺の回復ステージが低く、Pushingの程度が強く、日常生活機能的自立度の運動項目点数が低く、年齢が高いほど、KAFOを用いた練習日数が長くなる傾向にある、ということです。
実際に、KAFOから離脱できずに入院時期を終えてしまう…なんてケースも度々みてきました…。反省です。
明確な基準はないのですが、屈曲シナジーパターンが改善してきたタイミングなどで、AFOにトライしたり、ベルトを徐々に外していくといったスクリーニングを日々行うことで、離脱のタイミングを図っていくしかない、というのが今のところベターなのではないか、と思っています。
KAFO使うな!という人もいますが、急性期にはKAFOを使わないととてもじゃないけど廃用を予防するためのリハビリテーションの選択肢ない、というのも現場の実際です。
立ち上がり練習で!というのは簡単ですが、無理です。
弛緩性麻痺、下肢の屈曲シナジーパターン、Pushing、様々な要因が同時に起こり、介助量が尋常ではありません。
そこで自由度を制限して、最大限関節可動域内を動かし、筋出力を反射でも出していきつつ、心肺機能を維持する、そんな選択肢としてKAFOは有効だと考えています。
下肢装具いつ作ればいいの問題
下肢装具を入院してすぐ作る、という病院もあると聞きます。
実際に下肢装具を早期から作成することで本当にその先の身体機能は変化するのでしょうか?
その一つの結果がこちらです。
早期から作っても、歩行機能とバランスはそんなに変わらなかった、というものです。
もちろん作ることで、良い結果が得られた人もいたのですが、全体を見るとその限りではなかった、ということですね。
また装具を使った結果、退院時の装具使用状況はどうなっているんだろう?という疑問がありましたので調べたところ…
一つの研究からの情報に基づき解説します。この研究では、脳卒中患者1040人を対象に、装具療法の使用と退院時の歩行能力を調査しました。
短下肢装具は日常生活活動(ADL)の改善に貢献し、脳卒中患者のアクティブなリハビリテーションと迅速な回復を促進します。装具の利点には、立位期の安定性、足先のクリアランスの容易さ、ほぼ正常な歩行パターン、変形の予防などがあります。
また、装具は患者に麻痺した足の安定性をもたらし、良い動的バランスで歩行することを可能にします。
この研究では、装具が必要だった患者のうち、退院時に独立して歩行できたのはKAFO(膝足首装具)グループの43.2%とAFO(足首装具)グループの66.5%でした。KAFOは、患者の一般的な状態が安定し、重度の麻痺による膝と足首の関節が不安定な場合に処方されます。一方、AFOは下肢の追加サポートや、痙縮や拘縮による異常な位置の修正、変形や拘縮の予防のために処方されます。
さらに、退院時にはKAFOを使用していた患者のうち95人がAFOに切り替え、14人は装具が不要となりました。AFOを使用していた患者のうち38人は退院時に装具が不要となりました。この研究は、多くの脳卒中患者が重度の片麻痺のために装具を必要とし、特にAFOは歩行能力、歩行速度、バランスの改善に効果があると報告しています
重度の方が装具をない状態で退院するのはやはり難しいこと、初期から短下肢装具から練習できた人は短下肢装具から離脱できる可能性もあるが、やはりそこまで割合としても多くない可能性があります。
実は装具は使わなくなることが多い?
生活期のリハビリに関わるようになってから一番多い歩行の悩みが、「装具を外せるようになりたい」というものです。
そして処方された装具を使っていない方が多いんですね。
実際にそれを調べた観察研究もあるようです。それがこちら
装具の使用放棄率: 脳卒中患者の間で、装具の処方率に対して使用放棄率が高いことが報告されています。Safaz, I., Tok, F., Tuğcu, I., Türk, H., Yaşar, E., & Alaca, R. (2015). USE AND ABANDONMENT RATES OF ASSISTIVE DEVICES/ORTHOSES IN PATIENTS WITH STROKE -. Gulhane Medical Journal, 57, 142-144.
これは装具が必要にも関わらず、多くの患者が使用をやめていることを示しており、装具の快適さや適応性に関する問題が背景にあるものだと考えられます。
ここから考えられることは、
装具を外した状態の身体機能もチェックすべきである
ということです。
装具を使っていたらBBSは50点台だけど、装具を外すと30点前半、なんてこともあったり、装具を外した途端、段差でつまづく…なんてこともあります。
装具を家でも使ってくださいね!といっても、やはり煩わしいものです。
装具を外して生活してしまう人も多い、という結果がある以上は、装具を外した時の身体機能もチェックして底上げしておくべきではないでしょうか?
まとめ
脳卒中後の短下肢装具の使用は、即時の歩行能力向上に効果的ですが、良い面だけではなく、効果がないケースや、筋肉活動の減少や神経可塑性への潜在的な影響があるといった可能性も考慮する必要があります。
したがって、AFOの使用に関しては、個々の患者の状況に応じた慎重な判断が求められます。
短期的な利益と長期的なリスクのバランスを考慮し、最適な治療戦略を選択することが重要です。
みなさんの臨床の一助となる情報でしたら嬉しく思います!!!