今回の記事では、脳卒中後の運動障害における大きな要因である「痙縮」ですが、
網様体脊髄路と痙縮の関係・メカニズムについて、わかりやすく解説していきます!
皆さんは網様体脊髄路と痙縮が関係している、ということを知っていますか?
またそれを説明できるでしょうか?
私が新人のときには、
「なんとなく知っていたけど、説明しろといわれると…」といった感じでした。
いろいろと調べてみたんですが、私のような平凡な知能では、なかなか理解ができない…と、とっっても悩みました。
ですので!
今回の記事を読んだ方が網様体脊髄路と痙縮の関係について、わかりやすく理解できるようにしたいと考えてコラムを書いていますので!!!
どうぞ最後までお付き合いください!
痙縮ってなんだっけ?
痙縮とは、筋緊張が異常に高くなってしまう現象のことですが、
痙縮の定義は古くからされており、
Lanceと、上位運動神経症候群の一兆候、伸張反射の過剰興奮性、速度依存性の緊張性伸張反射の亢進を病態とする陽性徴候であるとされています。
筋緊張異常が痙縮である推測する条件
痙縮は病態であるため、あくまで推測になりますが
2つの条件があると考えられます。
それが、
- 伸張反射が亢進
- 緊張性伸張反射の亢進(速度依存性に筋緊張が亢進する)
です。
前者は「腱反射」で検査し、後者は「modified Ashworth Scale:MAS」で検査します。
あくまで推測、と表現しているのは筋緊張というのは、神経系の問題だけでなく「筋肉自体の性質」によっても変化するためこの2つの検査が陽性だったからといって痙縮である!と断言することは難しいと考えられます。
痙縮の予後
痙縮は、急性期よりも回復期、回復期よりも慢性期の方が有病率が高いとされています。
また身体活動量が低いと痙縮が発現しやすい、ともいわれており、
予後がどうなっていくのか?というのは非常に気になるところですよね。
こちらの記事で解説していますので、ぜひお時間があるときにご参照ください!
網様体脊髄路ってなんだっけ?
次に、神経経路の話になりますが、この辺で嫌になっちゃう方も多いかもしれません…。
でもできるだけわかりやすく説明しますので、ぜひ最後まで!
網様体脊髄路は、「錐体外路」と呼ばれることもある神経経路です。
ざっくり説明すると…
下行性神経経路は主に
随意運動システムと姿勢制御システムに大別されますが、
随意運動システムの中でも特に皮質脊髄路は延髄の錐体と呼ばれる場所を通るため「錐体路」、
それ以外の経路は「錐体外路」と表現されます。
網様体脊髄路はこのうち、姿勢制御システムとして主に働くとされています。
網様体脊髄路って何を制御するのか?
皮質脊髄路は脊髄の前角にある「アルファ運動神経細胞(多くは介在神経細胞)」に投射するとされ、錐外筋(筋肉)を収縮させるため「随意運動のメインの経路」とされています。
一方網様体脊髄路も脊髄前角細胞に投射し「ガンマ運動神経細胞」に投射するとされており、これは錐内筋(筋紡錘)の感度を調整しているとされています。
ところでアルファとガンマってなんでしたっけ?
脊髄レベルの話(アルファとガンマ運動神経細胞)
それがこちらの図です!
皮質脊髄路はアルファ運動神経細胞に対して興奮性の入力をするため、「筋収縮」を起こすのですが、その背景には網様体脊髄路によるガンマ運動神経細胞への調整といった働きが欠かせません。
理由は2つあります。
一つは筋収縮状態を維持するため(αーγループ、αーγ連関)
もう一つは随意運動によって発生する外乱によって転倒しないようにするため(予測的随伴的姿勢制御)
筋収縮の維持に重要!?αーγ連関について!!
こちらの図をイメージとして見ながら読み進めてください!
筋肉は大きく、錐外筋と錐内筋に大別されます。
錐外筋の中に錐内筋(筋紡錘)があるとイメージしてください。
この筋紡錘は、筋肉の長さや伸張速度のセンサーです。
例えば膝蓋腱反射をイメージすると、座位で膝蓋腱を叩いた後はすぐに膝が伸び、その後は力が抜けてまた曲がりますよね。
これは錐外筋が伸張されると筋紡錘も伸張し、単シナプス反射(Ia反射)が起こるためです。
皮質脊髄路だけでは錐外筋を収縮(筋紡錘は短縮)させるだけですので、腱反射と同じように膝を伸ばしたらすぐに膝は曲がってしまうはずです。
しなしながら、私たちが膝を伸ばすと「膝伸展状態を保持」できますよね。これはなぜでしょうか?
それが「αーγ連関」と呼ばれるもので、前もってこれくらい筋紡錘は短縮する、という経験から「筋収縮によって筋紡錘が短縮しても、筋紡錘の感度は高い状態(γバイアス状態)」を維持するために網様体脊髄路が働いてくれているんです。
こうすることで私たちは、「筋収縮状態を随意運動時に維持できる」ということですね。
これには網様体脊髄路が欠かせないわけです。
転倒しないための仕組み!網様体脊髄路による姿勢の制御とは?
こちらがイメージの図となります。
私たちは手を伸ばした際には、手の質量分の外力が体にかかり、前方への回転する力が生まれます。
もし姿勢制御ができなければ、そのまま前に転倒するはずなのですが、実際には手を前に伸ばしても姿勢を崩したり、転ぶことはないですよね。
それを行っているのが、「網様体脊髄路」だと考えられます。
これは、運動よりも先に前もって行われる制御と、随伴的に行われる制御にわかれます。
ではなぜこのようなことができるのでしょうか?
こちらをぜひご覧ください!
網様体脊髄路と痙縮の関係とは?
Cho MJ, Yeo SS, Lee SJ, Jang SH. Correlation between spasticity and corticospinal/corticoreticular tract status in stroke patients after early stage. Medicine (Baltimore). 2023 Apr 25;102(17):e33604.
こちらの論文が非常に参考になりますが、
網様体脊髄路には筋緊張を促通するものと抑制するものの二つがあるとされています。
このうち抑制性網様体脊髄路は皮質から網様体を制御する、
皮質網様体路からの支配がなければ働くことが難しいのに対して、
興奮性網様体脊髄路は皮質の支配を受けずに働くことができる、という特徴があります。
すなわち・・・
皮質網様体路の損傷→抑制性の下行性経路の破綻→興奮性の下行性経路の脱抑制・過活動→脊髄前角細胞の過度な興奮というのが網様体脊髄路による痙縮の病態ではないか?と考えられています。
そしてCST(皮質脊髄路)の損傷は痙縮との関連性は低く、CRT(皮質網様路)の損傷が痙縮を引き起こすトリガーとなっている可能性が高いということです。
まとめると…
このようになりますが、
運動麻痺が重度の方ほど痙縮の有病率が高い、というのも皮質脊髄路と皮質網様体路の二つが隣接していることにも関連しているかもしれません。
まとめ
- 痙縮は速度依存性の伸張反射が亢進している病態である
- 網様体脊髄路は筋緊張の制御を行っている
- それはガンマ運動神経細胞を介して、筋紡錘の感度を調整することによって行われる
- ガンマ運動神経細胞を抑制性に制御する網様体脊髄路は皮質網様体路からの投射が必要
- 興奮性に制御する網様体脊髄路は皮質の支配がなくても働くことが可能
- 皮質網様体路は随意運動の経路である皮質脊髄路と隣接している
こういった仕組みによって、大脳皮質が損傷し運動麻痺を呈する場合には
痙縮も一緒に発生している可能性があり、運動障害の原因の一つとなっていると考えられます。
結果的に私たちがやるべきことは、網様体脊髄路がどうすれば過剰に筋緊張の調整をしている、筋紡錘を制御するガンマ運動神経細胞を興奮させなくても良い状態にできるか?
が一つの視点として重要です。
異常筋緊張に対する介入についてはこちらもぜひ読んでみてください!
最後までありがとうございました!